REVIEW
TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
TORAJIROさんの個展「UNDER THE BLUE SKY」が8月25日、新宿眼科画廊で始まりました。早速レポートをお届けします。

TORAJIROさんの作品を初めてちゃんと観たのは昨年のMALE ART 2022 男のフェチズム展2でした。ゲイにモテそうなガチムチ系のカワイイ男の子をセクシーに描く、けど、それだけじゃなく、壊れゆく地球の上でこの美しい日常がいつまで続くのかという不安を描いた「“日常”という名の箱舟」というメッセージ性のある作品も描かれていたことがわかり、とても惹かれました。
その「“日常”という名の箱舟」が、今年のTRPの時期に渋谷パルコ1階LOEWEストア横アートウォールにドーンと描かれたのは、ちょっとビックリしました。メッセージ性も込みで評価されて採用に至ったのだと思いますが、タンクトップ姿のガチムチ男子という(BL系じゃない)リアルなゲイアイコンがデカデカと渋谷の街に現れたことも素晴らしいと感じました。画期的な出来事だったと思います。
そんなTORAJIROさんの個展「UNDER THE BLUE SKY」が8月25日、新宿眼科画廊で始まりました。レビューをお届けします。
展示場所は、新宿眼科画廊の奥の左手、昨年の男のフェチズム展と同じ場所でした。
入ってすぐ左手に、現代のモーゼとも言うべき、「EQUAL RIGHTS FOR ALL」と書かれた石版を持ったクマ系の男性の絵。その隣の海辺の光景を描いた作品にも共通点があって、オリーブの葉をくわえた鳩(しかも悲しそうな目をしている。そして葉は黄色)が描かれていました。オリーブの葉をくわえた鳩は、ノアの方舟の物語の最後に登場する、平和のシンボルです。しかし、この海辺の絵では、葉が黄色くなっていて、鳩も悲しそうな目をしています(平和に黄信号が灯っていると言わんばかりです)。水たまりに映るのは青空であるはずなのに、海の向こうの空は暗く、全体として暗めの色調で、鳥たちが異様にたくさん飛んでいる様子なども、不安を表現しているようです。実はこのオリーブの葉をくわえた鳩は「“日常”という名の箱舟」にも描かれていて、そちらは葉が赤くなっていて枯れている、もはやくわえてもいないという、連続したイメージになっていました。TORAJIROさんの作品にとっての重要なモチーフなんですね。
その右側に、マッチョな男たちの絵や、白い熊の絵(キャンベルスープ缶を逆さに持っているところが意味ありげ…ウォーホールへの挑戦?)、そして「ケモナー」のようなカワイイキャラクターの男の子を描いた絵(口にバッテンの絆創膏をしているのはミッフィーへのオマージュでしょうか)などが展示されています。
その右側は、黄色のコーナーです。ライオンを猫のように飼っている男の子の絵。そして黄色のベンチで黄色いバーベルを挙げている男の子の絵。ゾウがサポートしているのがとてもカワイイです。クマやブタやいろんな動物も見守っています。でも、動物たちはみな、悲しげです。
その隣の、今回いちばん大きな作品は、昨年の男のフェチズム展で展示されていた「EDEN」という作品の続編だと思います。「EDEN」で木からもいだリンゴ(知恵の木の実)を手渡す様子が描かれていましたが、今回の絵では、リンゴが食べられて芯だけになっています。周りの動物たちは悲しそうです。人間だけが知恵の木の実を食べたことを責めているかのよう。遠くには不穏な煙が立ち上っているのも見えます(それと重なるように鳩も飛んでいます)。ゾウさんが吹き上げた水に虹がかかっているのと、LGBTQのアイコンであるユニコーンもさりげなく描かれているのも意味ありげかも、と思いました。
その右隣は青のコーナーです。遠くにサーカス小屋が見える草むらで、男の子に巨大な青いクマが添い寝している様を描いた絵は幻想的でした。夜、窓辺でギターを弾く男の子と、お酒のようなものを飲んでいる男の子と、猫の絵も素敵でした。幸せそうな光景ですが、そこはかとなく悲しみが漂っています。
きっと観る人によっていろんな感じ方や解釈があるだろうなと思う作品にたくさん出会えて、とてもよかったです。ずっと観ていられます(ほしくなります。お金ないですけど)
作品集やZINEも何冊か置かれていました。TORAJIROさんの作品の変遷がわかり、興味深かったです。油絵を描いてた頃は、今とはまた違う、ゴッホのような雰囲気の絵でしたし、もっと前は、またガラリと違う、女性が好みそうな絵柄だったりしました。みなさんもぜひ観てみてください。
今回の個展を観て、ちょっと思ったのは、TORAJIROさんの作品における「カワイイけどどこか悲しげなガチムチ系の男の子」は、奈良美智さんの「睨みつけるような鋭い目の女の子」のようなものじゃないかということです。ちょっと漫画的ですが、言葉ではうまく言い表せないような感情を表現し、一度目にしたら忘れられらないインパクトがあります。このキャラクターを見れば、あ、TORAJIROさんの絵だ、とわかるような。
今回、念願の、TORAJIROさんご本人にもお会いでき、いろいろお話も聞けて、とてもよかったです。
みなさんもぜひ、足を運んでみてください。9月6日までです。

TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
会期:2023年8月25日(金)~9月6日(水)
会場:新宿眼科画廊 スペースS
開館時間:金曜〜火曜 12:00-20:00、水曜 12:00‒17:00、
定休:木曜(8月31日)
入場無料
INDEX
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
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- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
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- 驚愕のクオリティ、全編泣ける究極のゲイドラマ『Ours』
- 女子はスラックスOKで男子はスカート禁止の“ジェンダーレス制服”をめぐるすったもんだが興味深いドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』
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