REVIEW
性の多様性について子どもから大人まで理解し共感できる決定版的な良書『多様な性を生きる LGBTQ+として生きる先輩たちに人生のヒントを聞いてみた』
中学生以上の若い方たちに向けた「14歳の世渡り術」シリーズの一冊として、ゲイライターの松岡宗嗣さんの『多様な性を生きる LGBTQ+として生きる先輩たちに人生のヒントを聞いてみた』がリリースされました。14歳でもわかるように平易な言葉でまとめられていて、ゲイ以外のセクシュアリティの方たちのリアリティに触れる絶好の機会になっています

午前0時のプリンセス(ゼロプリ)の大内アイミさん、人気YouTubeチャンネル「かなたいむ。」を運営するトランス男性の木本奏太さん、アロマンティック・アセクシュアルの当事者グループ「なかぷろ」を運営する中村健さん、「乙女塾」を主宰するトランス女性の西原さつきさん、「多様な生と性」をテーマに発信を続けるXジェンダー(ノンバイナリー)の中島潤さん、文筆家・批評家として活躍するクィアの水上文さん、臨床心理士・公認心理師でパンセクシュアルのみたらし加奈さん、ゲイの研究者である森山至貴さんという8名の「LGBTQ+として生きる先輩たち」に松岡宗嗣さんがインタビューした本です。簡単な用語解説なども付いています。
10年ちょっと前から世間で「LGBTブーム」が起こり、自治体がLGBT支援宣言を発したり同性パートナーシップ証明制度を導入したりさまざまな支援策を実施するようになり、企業でも社内LGBTQ施策が推進されるようになり、メディアの発信のありよう(LGBTQへの態度)も様変わりしました。性的マイノリティを言い表す言葉も「LGBTQ」「LGBTQ+」に変わり(アルファベットが増え)、「SOGIE」「SOGIハラ」といった新しい言葉も聞かれるようになりましたが、ゲイ(男性どうしの性愛)以外のセクシュアリティや性のありようについてはそんなに知る機会もないし、よくわからないまま…という方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。この本は、多様なジェンダー・セクシュアリティの人たちへのインタビューを通じて、どんなふうに思春期を生き延びてきて、いまどんな思いを抱き、どんなふうに暮らしているのかということのリアリティが実によくわかる、数あるLGBTQ入門的な本のなかでもバツグンにとっつきやすくわかりやすい本になっています。親やきょうだい、同僚や友人に渡して読んでもらう(LGBTQへの理解を深めてもらう)のにも最適だと思います。
TRPで司会をつとめたりもしたゼロプリの大内アイミさんはフィリピン生まれのレズビアンの方ですが、小学校のとき授業で性同一性障害について教えられ、自分はそうだと思い、落ち込み、中学で制服のスカートを強要されるときに悩んだけれども、いざはいてみたら意外と楽しくて、自分は女の子が好きな女の子なんだ、にシフトしていった、ずっと女の子が好きだったけど誰にも言えなかった、高校の時に『glee/グリー』に出合って、サンタナの苦悩する姿が未来の自分だと思って落ち込んだり…といったお話をしてくれました。福島から深夜バスで東京に出て初めて二丁目のビアンバーに行って、自分のことを90%くらい認めてあげられるようになった(100%じゃないところがリアル。ていうか、こんな若い世代でも二丁目で初めて仲間に出会えて自己肯定できたと語っているのが、印象的でした。やっぱ二丁目は大事)というお話もよかったです。同年代の方とか地方住みの方とかめっちゃ共感しそうって思いました。
トランス男性の木本奏太さんは、高校まで性別違和に自分でフタをしてきたけれども、ドラマの『ラスト・フレンズ』の上野樹里さんを観て自覚せざるをえなくなった(当時の『ラスト・フレンズ』の影響力はすごかったですよね)といったエピソードもさることながら、母・昌美さんがろう者の方で、学生時代にカムアウトしたもののなかなか理解してくれず、でもろう者のLGBTQの集まりに一緒に行ったときに昌美さんの知人が何人もいて、それをきっかけにアライになったというお話が印象的でした(今ではプライドイベントに参加したり、「ろう×セクシュアルマイノリティ全国大会」に親子で出演したり、『超越ハピネス』に出演したりするほどになっています)
アロマンティック・アセクシュアルでXジェンダーの中村健さんは、中学の時に女子に「つきあって」と言われて「このあと買い物につきあって」という意味だと思って「うん、ぜひ」と言ったものの数ヵ月経ってその子と距離を置かれてしまった、友達に相談したら「恋愛関係になったのに進展がないからでしょ」と指摘されて、ようやく自分が「恋愛がわからない」人だということを自覚したと語っています。周囲の恋バナにも乗れず、「イケる」の意味もわからず、自分は人間として何かが欠落しているのではないか、自分みたいな人はこの世でほかにいないのかも…と悩み、ようやくネットで「アセクシュアル」という言葉を見つけて「これだ」と思い、友人にカムアウトしてみたものの、「まだいい人に出会ってないだけ」「いつか恋愛がわかるようになる」という反応にしんどさも感じて…。ずっと「申し訳ない」という気持ちを抱えながら生きてきたそうです。ゲイから見るとずいぶん遠い存在のように思えるかもしれませんが、孤独感を覚えたり理解されずに悩んだり周囲に嘘をついたりという経験は僕らと同様で、同じマイノリティどうし(同志)なんだなぁと実感できるのでは?と思います。
そんな感じで、実によく厳選された素敵な8名の方たち一人ひとりのお話が、沁み込むように入ってきます。それぞれの人生の重みが詰まった「生の言葉」だからこそです。ときどき松岡さんが性の多様性について理解が深まるように補足やフォローを入れたりもしていて、ただのインタビュー集ではない、よくある教科書的なガイドやハンドブックのような体裁でもない、性の多様性について知識が身についたり理解が深まったりすると同時に、その人の「生き様」に共感やシンパシーを覚えたり応援したくなったりするような、ありそうでなかなかなかったような本になっています。もちろん、多様なセクシュアリティをできるだけたくさんカバーするような配慮も行き届いていますし、松岡さん自身のゲイとしての経験もちょいちょい挟まれていて、全体としてバランスがよくとれています(それでも「ここには自分のことはあまり書かれていない」と感じる方はどうしても出てきてしまうと思います。例えばHIV陽性であったり、障がいを持っていたり、在日コリアンであったりといったダブルマイノリティの方たち。もしこの本の第二弾が出たら、きっとそういったインターセクショナルな当事者のリアリティが掬い上げられるのではないかと思います)
難しい言葉がほとんどなく、理解が難しそうな言葉もかみくだいてわかりやすく説明されているなぁと関心させられたのですが、これは「14歳の世渡り術」という中学生以上の読者(主に若い方)を想定した教養書シリーズの一冊としてリリースされた本なのでした(同様のコンセプトのシリーズとしては「よりみちパン!セ」もありましたね。ゲイの作家・伏見憲明さんが『さびしさの授業』という本を買いていました)
紙(電子版なし)の単行本ではありますが、そんなに分厚いわけでもなく、電車で片手に持って読むこともできそうな本ですので、ぜひお手元に。
多様な性を生きる LGBTQ+として生きる先輩たちに人生のヒントを聞いてみた
松岡宗嗣:著/河出書房新社:刊/200ページ/定価1,694円
INDEX
- 恋愛・セックス・結婚についての先入観を取り払い、同性どうしの結婚を祝福するオンライン演劇「スーパーフラットライフ」
- 『ゴッズ・オウン・カントリー』の監督が手がけた女性どうしの愛の物語:映画『アンモナイトの目覚め』
- 笑いと感動と夢と魔法が詰まった奇跡のような本当の話『ホモ漫画家、ストリッパーになる』
- ラグビーの名門校でホモフォビアに立ち向かうゲイの姿を描いた感動作:映画『ぼくたちのチーム』
- 笑いあり涙ありのドラァグクイーン映画の名作が誕生! その名は『ステージ・マザー』
- 好きな人に好きって伝えてもいいんだ、この街で生きていってもいいんだ、と思える勇気をくれる珠玉の名作:野原くろ『キミのセナカ』
- 同性婚実現への思いをイタリアらしいラブコメにした映画『天空の結婚式』
- 女性にトランスした父親と息子の涙と歌:映画『ソレ・ミオ ~ 私の太陽』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 女性差別と果敢に闘ったおばあちゃんと、ホモフォビアと闘ったゲイの僕との交流の記録:映画『マダム』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 小さな村のドラァグクイーンvsノンケのラッパー:映画『ビューティー・ボーイズ』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 世界エイズデーシアター『Rights,Light ライツライト』
- 『逃げ恥』新春SPが素晴らしかった!
- 決して同性愛が許されなかった時代に、激しくひたむきに愛し合った高校生たちの愛しくも切ない恋−−台湾が世界に放つゲイ映画『君の心に刻んだ名前』
- 束の間結ばれ、燃え上がる女性たちの真実の恋を描ききった、美しくも切ないレズビアン映画の傑作『燃ゆる女の肖像』
- 東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』
- ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』
- ゲイが堂々と生きていくことが困難だった時代に天才作家として社交界を席巻した「恐るべき子ども」の素顔…映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
- ハッピーな気持ちになれるBLドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(チェリまほ)
- 僕らは詩人に恋をする−−繊細で不器用なおっさんが男の子に恋してしまう、切ない純愛映画『詩人の恋』
- 台湾で婚姻平権を求めた3組の同性カップルの姿を映し出した感動のドキュメンタリー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
SCHEDULE
記事はありません。






