REVIEW
『カミングアウト』
2000年に東京レズビアン&ゲイパレードを立ち上げた砂川秀樹さんが『カミングアウト』という本を書きました。砂川さんは、カミングアウトは、する必要がある/ない、すべき/すべきでないという表現で議論するようなものではないと語ります。それぞれの置かれている状況が違うからです。ぜひ読んでみてください。
2000年8月27日、東京レズビアン&ゲイパレードが初開催され(それ以前、1994年〜1996年にもパレードがあったのですが、コミュニティのお祭りとして、それこそ『バディ』や『G-men』もバックアップして開催されたのは、2000年が最初でした)、後夜祭として二丁目仲通りで初のレインボー祭りが開催され、二丁目の夜空にまさかの花火が上がり、みんな号泣した…という伝説的な一夜のことを、記憶している方も少なくないと思います。
2001年には『バディ』や『G-men』の誌面でも大々的に「みんなでパレードを歩こう!」と呼びかけが行われ、そういう歌を作って参加者を励ますミュージシャンなどもいました(当時、ゲイインディーズの最盛期でした)。もしかしたら職場の人や知人に見られるのでは…という心配から、歩くことは躊躇したけど、でも、歩く仲間たちを応援したい!と思って沿道で手を振ったりしてくれる方たちも大勢いました(歩いてる人より多かったくらいです)
渋谷〜原宿の街をパレードすることはすなわちカミングアウトを意味しましたし(今のようにLGBTフレンドリーな企業のストレートの人たち=アライが大勢歩いているわけではありませんでした)、とても勇気の要ることでした。それでも、「We are here! We are happy!(2001年のパレードのテーマ)」と世の中に伝えたい、リアルなゲイやレズビアンの姿をアピールしたい、少しでも社会が変わるきっかけになれば…という気持ちで、3500名もの方々が歩いたのでした。
一方で、当時、カミングアウトするかしないか、するべきか否かということが、ゲイ雑誌の誌面でもたびたび議論のテーマになっていました。ゲイであることをわざわざ年老いた親に話して悲しませ、つらい思いをさせるのはどうか、とか、知らせないほうが幸せだ、といった声も根強く、特に職場では言えない、親には言えない、という声が多かったと記憶しています。あれから10年以上が経ち、ずいぶん状況は変わりましたが、カミングアウトということをどう捉え、評価するか、という点に関しては、あいかわらず様々な意見があり、当事者の間でも確固たる共通見解がないまま、という印象があります。
そんななか、2000年の東京レズビアン&ゲイパレードを立ち上げた(ピンクドット沖縄を立ち上げた方でもある)砂川秀樹さんが『カミングアウト』という本を上梓しました。
砂川さんは、カミングアウトは、する必要がある/ない、すべき/すべきでないという表現で議論するようなものではない、と語ります。それぞれの置かれている状況が違うからです。
昔からずっと、家族に対するカミングアウトは重い気持ちや葛藤を伴うことでしたし、カミングアウトに対する意見の違いとそれをめぐる摩擦もあまり変わっていません、当事者の間でも「親不孝だ」「自己満足だ」と否定的に見る人もまだまだ少なくありません。そんななか、この本は「どうしてカミングアウトするのか?という問いへの回答」として書かれています。
様々な、具体的なカミングアウトのストーリー(エピソード)が紹介されています。
そして、世の中がいかに異性愛前提になっているか、異性愛者しかいないと見なされてきたからこそゲイやレズビアンはわざわざカミングアウトしなければいけなくなり、自分のことを語りたいだけなのに特別視されてしまう、ということを丁寧に解き明かします。
「誰かがカミングアウトしたいと思うときに、大きな決心がなくてもできるし、相手も衝撃なく受け入れることが当たり前の社会になってほしいと思う」
本当にその通りだと思います。
難しい言葉を使わず、当事者にも、世間一般の方たちにも理解でき、カミングアウトについての基本的な前提、みんなで共有できる考え方がまとめられている一冊でした。ありそうでなかった本です。ぜひ、お手元に。
カミングアウト
砂川秀樹:著/朝日新書
INDEX
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」
- アート展レポート:moriuo個展「IN MY LIFE2023」
- 「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
- 女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
- これは傑作! ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』
- シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
- 台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』
- ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
- 史上最高にゲイゲイしいファッションドキュメンタリー映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
- ryuchellさんについて語り合う、涙、涙の番組『ボクらの時代 peco×SHELLY×ぺえ』
- 涙、涙…実在のゲイ・ルチャドールを描いた名作映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』
- ソウルにあったハッテン映画館の歴史をアニメーションで描いた映画『楽園』(「道をつくる2023」)
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』