REVIEW
地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を素敵な絵本にした『ぼくらのサブウェイベイビー』。その日本語版の出版が実現しました。涙なしには見ることができない、感動的な、宝物のような絵本です。

約20年前のニューヨークの「本当にあった幸せな話」――ぼくらと何も変わらないようなゲイカップルが、地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れことを決意するまでの物語を素敵な絵本にした『ぼくらのサブウェイベイビー』の日本語版が刊行されました。涙なしには見られない、感動的な、宝物のような絵本です。ぜひ多くの方たちに、全国の子どもたちに届くといいなと思います。レビューをお届けします。

地下鉄で捨てられた赤ちゃんを見つけ、警察に届けたあと、赤ちゃんのことが心配で様子を聞きに行ったりしていたダニーが、家裁の裁判官に養子として引き取ることを提案され、パートナーのピートとともに「サブウェイベイビー」を家族として迎え入れることを決意するという実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』が刊行されました。北丸雄二さんが翻訳を手がけ、『LGBTヒストリーブック』をはじめたくさんのLGBTQの本を世に送り出してきたサウザンブックスがクラウドファンディングによって出版を実現したものです。
2000年、ダニーがある日、地下鉄の駅の構内で、赤ん坊が捨てられているのを見つけました。たぶん生まれてから数時間後で、布にくるまれていた赤ちゃんを抱きかかえると、赤ちゃんは手足をパタパタさせて…我に返ったダニーは警察に連絡し、その後、パートナーのピートもすぐ来て、警官に抱っこされた赤ちゃんと会いました。翌日、赤ちゃんのことが気がかりだったダニーは様子を聞きに行き、そして捨て子を見つけたダニーのことはニュースで報道されるようになりました。
赤ちゃんは施設に入れられましたが、こうした身寄りのない子どもたちに最適な親を見つける仕事をしているクーパー判事は、二人を呼び、この子を引き取って育ててはどうかと提案しました。二人は、貯金もなく、子どもを育てるということは考えたこともありませんでした。でも、悩んだ末に、この子を家族として迎え入れる決意をするのです――
神様はきっと、ケヴィンにとって最もふさわしい親はこの二人に違いないとふんで、このような采配をしてくださったんだろうな、と思えます。
この絵本に描かれたゲイカップルは、ぼくらと何も変わらない二人だなぁと感じます。二人がよく利用していた地下鉄の14thストリート駅はチェルシー地区(東京で言うと渋谷・世田谷みたいな、おしゃれでゲイフレンドリーなエリア)への最寄駅なのですが、決してリッチなカップルだったわけではなく、車も持っておらず、貯金もなく、子どもを育てるなんて夢にも思っていなかったのです。でも、捨て子を見つけるという偶然から、この赤ちゃんのことが気がかりになり、愛情が芽生え、「愛があれば何だってできる」と思い、引き取って育てていくことを決心するのです。
とても印象的で感動的なのは、裁判所の判事が二人を最適な親だと踏んで養子を提案してくれたり、二人の親や周囲の人たちが赤ちゃんのためにベビーベッドや必要なものをたくさんプレゼントしてくれたり、みんなが応援してくれている姿です。
『チョコレートドーナツ』のルディとポールはホモフォーブ(同性愛嫌悪者)によってマルコを取り上げられ、養子にすることができませんでした(涙なしでは観ることができないお話でした)…。しかし、それから30年近く経って、ニューヨークの街はゲイカップルが養子を迎え、育てることをみんなで歓迎してくれるようになったのだという事実に胸がいっぱいになり、感動の涙が流れました。
ダニーとピートの二人は、赤ちゃんにケヴィンという名前をつけて愛情たっぷりに育て、ケヴィンは好奇心旺盛な少年に育ちます。2011年にはニューヨーク州で同性婚が認められ、ダニーとピートは、あのクーパー判事に結婚式を挙げてもらいます。ケヴィンは今や大学生になり、数学とコンピュータ·サイエンスを学んでいるそうです。
もともとピートは演劇やアートの仕事に携わっていた方だったので、自分たちがどうやって家族になったのかを綴った絵本『Our Subway Baby』を出版、文学賞の最終選考に残るなどして、評価を集めました。この絵本のことを、ニューヨークに住んでいた北丸さんが知って、日本のみなさんにもぜひ知ってほしいと思い、サウザンブックスが奮闘し、こうして、素敵な絵本の日本版の出版が実現したのです。
クラファンに参加して、すでにお手元に届いた方も多いことでしょう。
この絵本が、全国の図書館や児童館や保育所や、いろんなところに置かれ、世間の人たちにたくさん読まれるようになったらいいなと思います。

ぼくらのサブウェイ・ベイビー
作:ピーター・マキューリオ
絵:レオ・エスピノーサ
訳:北丸雄二
刊:サウザンブックス
INDEX
- 人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
- 等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
- 近未来の台北・西門を舞台にしたポップでクィアでヅカ風味なシェイクスピア:映画『ロザリンドとオーランドー』(レインボー・リール東京2022)
- 獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
SCHEDULE
- 01.12祝・大人化計画







