REVIEW
映画『イヴ・サンローラン』
「”フランスの国宝”とも言われる天才デザイナー、イヴ・サンローランの生涯を美しく描いた映画」という予想を見事に覆すような、ゲイカップルの「ありのまま」を描ききったスゴい作品でした。







それに対して現在公開中の伝記映画『イヴ・サンローラン』は、本人そっくりなピエール・ニネという美青年を主演に据えたところからして、おそらく「”フランスの国宝”とも言われるイヴ・サンローランの、デザイナーとしての才能の部分を中心に、その生涯を美しく描いた映画」なのではないか?と予想していたのですが(なんたってキャッチコピーが「あなたは目撃する。永遠のエレガンス 誕生の瞬間を。」です)、その予想は見事に覆されました。
まず、ちょっと挙動不審にも見えるような独特の仕草で、女たちに囲まれて物静かに談笑するイヴの姿は、若くて美しい天才デザイナーの神々しさというよりも、「ファッションオタク」という言葉の方がピッタリきます。ショーのときに髪を短く切ってきたモデルにキレたりするあたりも、そんな感じです。
そして冒頭から、女性は性的に惹かれるのではなく美的な対象でしかないこと(性愛は男性に向いていること)が描かれます。イヴは、画家のベルナール・ビュフェと8年間つきあっていたピエール・ベルジェと、ベルナールの別荘に遊びに行っている間に、恋に落ちます(いわば「略奪愛」です。が、ベルナールの反応はサラリとしたものです)
そうして電撃的に始まった二人の恋は、決して一筋縄ではいかないものでした…
ドキュメンタリーの方はピエールが公私にわたって長年、イヴを支え続け…という、美談めいたテイストだったと思いますが、この映画では、二人の関係が決してキレイではなかったことや、イヴのダメさ加減や非道さがありのままに描かれ、ちょっとビックリさせられます。浮気とか、ハッテンとか、誰が誰と寝たかといったところまで、すべてありのままに描かれています。
終盤、マリア・カラスの歌う歌劇『トスカ』のアリア『歌に生き、愛に生き』(生前、カラスと親交があったそうです)が流れる美しいショーのシーンでなんとなくごまかされるかもしれませんが、あの素晴らしい作品や輝かしい成功の裏ではこんなことが…と、ファンの方などは複雑な気持ちになるのではないでしょうか(ゲイがどうこうではなく、二人の関係のドロドロさ加減に)。あるいは、「芸術家とは、かくも業の深い生き物なのか…」といった反応です(フランシス・ベーコンの『愛の悪魔』のように)
この映画、イヴ・サンローランのヒストリーを全体的にバランスよくまとめる、といった発想は最初から皆無で(確かに、モンドリアン・ルックとかスモーキーとかの作品史なんて、ファッション番組の特集でやればいいことであって、今さら感が漂いますよね)、どんだけイヴが「ファッションオタク」のゲイで、デザイン以外のすべてをピエールに依存していたかっていう部分をことさら強調してドラマ化しているようにも見えます。
でも、よく考えてみると、「デザイン以外何も能がない(しかも躁鬱病の)イヴがどうしてデザイナーを続け、世界的成功を収めることができたのか、それはひとえにピエールの献身的なサポートのおかげだった」という真実に忠実なだけなのだと思います。いわば、透徹したリアリズムです。
しかし、この映画をゲイのパートナーシップの物語として捉え返したとき、おそらく、観る方によって、さまざまな反応を引き起こすと思います(ある意味、物議を醸すというか)。多くの方が「イヴってひどい。許せない」「自分だったら絶対に別れる」「ピエール、よく堪えるよね…」と思うことでしょう。(自身の経験を重ね合わせたりしながら)「惚れた弱みさ…」と苦々しく思う方もいらっしゃることでしょう。もっとドライに「莫大な遺産を相続したんだし、我慢した甲斐があったよね」という見方もあるかもしれません。
いずれにせよ、YSLの輝かしい成功よりも、一抹の後味の悪さを感じながら映画館を後にする方は少なくないはずです…
イヴを演じたピエール・レニがマジ本人にソックリ!ということで本国で話題騒然だそうですが(『カポーティ』のフィリップ・シーモア・ホフマン並み?)、ピエール・ベルジェを演じたのが『不機嫌なママにメルシィ!』のギヨーム・ガリエンヌであるというところもまた、見どころです。ぜひ、合わせてご覧になってください。
『イヴ・サンローラン』Yves Saint Laurent
2014年/フランス/配給:KADOKAWA/監督:ジャリル・レスペール/出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ、シャルロット・ルボン、ローラ・スメット、マリー・ド・ビルパンほか
INDEX
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
- 同性愛者を含む4人の女性たちの恋愛やセックスを描いたドラマ『30までにとうるさくて』
- イケメンアメフト選手のゲイライフを応援する番組『コルトン・アンダーウッドのカミングアウト』
- 結婚もできない、子どももできないなかで、それでも愛を貫こうとする二人の姿を描いたクィアムービー『フタリノセカイ』
- 家族のあたたかさのおかげで過去に引き裂かれた二人が国境を越えて再会し、再生する様を描いた叙情的な作品――映画『ユンヒへ』
SCHEDULE
- 04.03raw. -OUT OF CONTROL-
- 04.03じゃぱんぐ♪ vol.92
- 04.04SINLAND -UNDER WEAR PARTY-
- 04.04なまってナイト 〜春だもの、上京物語を語らナイト〜
- 04.04One Size Down Night Vol.6 Osaka







