REVIEW
映画『彼は秘密の女ともだち』
フランスの名映画監督フランソワ・オゾンの新作『彼は秘密の女ともだち』のレビューをお届けします。今回はゲイじゃなくてトランスジェンダーが主人公。実話に基づいた物語で、人間の奥深さ、愛の尊さに感じ入り、思わず涙がこぼれるような素晴らしい作品でした。

フランスのゲイの映画監督(もはや巨匠)フランソワ・オゾンの新作『彼は秘密の女ともだち』が上映中です。デビュー作からいきなりゲイの短編を発表し、たくさんのゲイ映画を発表してきたオゾン監督ですが、今回はトランスジェンダーが登場します。東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で予告編が流れたのをご覧になった方もいらっしゃるかと思います。予告編だとコメディなのかな?とか、ちょっとアブナイ人のお話?みたいな印象を受けるかもしれませんが、とんでもない! 実話に基づいて監督自身が脚本を練り上げた、人間の奥深さや愛の尊さに深く感動させられること間違いなしの、涙なしには観ることができない大傑作になっています(『チョコレートドーナツ』に負けないくらい、感動します)





クレールとローラは小学校時代から大の仲良し(ローラが転校してきたときから夢中でした)。大人になってもずっと一緒に遊んでいましたが、やがて、それぞれに彼氏ができ、ローラはダヴィッドと、クレールはジルと結婚しました。ローラが女の子を授かると、クレールがリュシーと名前をつけました。しかし、ローラは不意にこの世を去ってしまったのです。クレールは「ローラに約束しました。これからもリュシーとダヴィッドをずっと見守ると」と弔辞を述べ、ダヴィッドと泣きながら抱き合うのでした。
呆然と過ごした数日ののち、ダヴィッドとリュシーの様子を見に、クレールは家を訪ねます。するとそこには見慣れないマダムが…なんとそれは女装したダヴィッドでした。ダヴィッドは釈明します。実は昔から女装癖があり、ローラもそれを知っていた。娘が母親を求めて泣き止まないので、ママに見えるように女装していた…しかしあとで、それは言い訳で、ローラが亡くなったあと、女装したい願望に火がついたということでした。
「どうかしてるわ。変態よ!」と最初は罵っていたクレールですが、ダヴィッドとリュシーを支えると誓った手前、2回目に会ったときは優しく受け入れます。ダヴィッドはそのうち、街に買い物に行きたい!という願いを抱くようになり、クレールは「他の人にどんな目で見られるか…」と恐れながらも、ちょっと大柄な女性「ヴィルジニア」と一緒にショッピングモールに行くことに。「ヴィルジニア」は心から楽しく、幸せいっぱいな時間を過ごせました。しかし、その欲求はさらにエスカレートしていき…
後半は予想を超えるような展開に。ラスト10分、本当に素晴らしいです。泣けます。奇蹟を目にしているような気がしました。
グザヴィエ・ドランが『わたしはロランス』で、ダンナがトランスジェンダーであることに気づき、次第に女性化していくことに苦しむ女性を描きましたが(女装で登場するシーンなどは爽快感もありましたが、ほとんどは苦悩や葛藤。重い映画でした)、この作品は『わたしはロランス』とは逆のベクトルです(もしかしてアンチテーゼ?)
だいぶ前からPACSで同性カップルの権利が認められ、最近同性婚も実現したフランスですが、そんなフランスでもトランスジェンダーはまだこんなに生きづらいのか…というのが第一のオドロキでした。しかし、そういう意味では、最後の(最後であってほしいです)受難者を救済しようとするあたたかいまなざしに包まれた、このうえなく幸せで優しい物語でした。
最初は「変態!」と罵倒していたクレールが、だんだんダヴィッドの理解者になっていくのは、ローラとの友情(遺された家族を支えるという誓い)だけではありませんでした。クレール自身もダヴィッドと同様に、ローラの死をきっかけに、内なる何かに目覚めていくのです。クレールがただの凡庸な女性ではなかったというところに、物語の(実話の)奥深さがあります。
亡くなったローラ、その娘・リュシー、クレールの夫・ジル、それぞれが媒介となり、(多くの人々にとっては眉をひそめるようなものでしょうが)かけがえのない二人の「友情」を強固なものにしていきます。その人間関係の描写の巧みさ、絶妙さは、オゾンだからこそ。あのシーンはこういう意味だったのか!と、全部観終わってからいろいろ気づかされます。
最初期は純真な少女のようにかわいらしい『サマードレス』を撮っていたフランソワ・オゾンも、年を重ね(と言ってもまだ47歳)、こんなにも円熟味を増した、まるで母の慈愛のような作品を作るようになったのか…と感慨を覚えました。『8人の女たち』『しあわせの雨傘』と並ぶ、オゾンの3大女性礼賛映画のひとつと称してよいのではないかと思いました。
『彼は秘密の女ともだち』Une nouvelle amie
2014年/フランス/監督:フランソワ・オゾン/出演:ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、ラファエル・ペルソナほか/シネスイッチ銀座、新宿武蔵館ほか全国で順次公開
INDEX
- 人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
- 等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
- 近未来の台北・西門を舞台にしたポップでクィアでヅカ風味なシェイクスピア:映画『ロザリンドとオーランドー』(レインボー・リール東京2022)
- 獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
SCHEDULE
- 10.17TWICE NIGHT VOL.8
- 10.17SURF632
- 10.18九州レインボープライド






