REVIEW
映画『ゲイビー・ベイビー』(レインボー・リール東京2016)
第25回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で観た作品のレビューをお届けしていきます。2本目は『ゲイビー・ベイビー』です。

第25回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で観た作品のレビューをお届けしていきます。2本目は7月11日にシネマート新宿で上映された『ゲイビー・ベイビー』です。まず、上映前に、たくさんのCM映画と並び、アルファロメオが製作した短編映画が上映されました。1本多く観れたみたいで、ちょっと得した気分でした。平日にもかかわらず、結構たくさんの方が観に来られていて、若い方が多かった気がします。レビューをお届けします。(後藤純一)
ゲイも子育てできるのか!と、いい意味でのショックを受けたのは、永遠の名作『トーチソング・トリロジー』(日本公開は1989年)でした。ダミ声のドラァグクイーン、アーノルドは、純朴な青年アランとの愛の生活を始め、里親として孤児を育てる計画も立てるのですが、ある日、最愛のアランがホモフォーブに殴り殺され…悲しみに暮れるアーノルド。しかし、次の瞬間、画面が変わり、アーノルドがピンクのウサギのスリッパをパタパタさせながら学校の廊下を歩き、職員室に向かっています。養子に迎えたデイヴィッドがクラスメートを殴ったということで先生に呼び出されたのです。聞けば、デイヴィッドは「お前の母ちゃん、おかま」とバカにしたクラスメートに腹を立てたというではありませんか。なんていじましい…。「ゲイの子育て」映画のたぶん最初の金字塔なんじゃないかと思います。
そして15年前、橋口亮輔監督の『ハッシュ!』という映画を観た方も多いと思います。仲よしの女性に(スポイトで)代理母になってもらって子どもをつくろうとするゲイカップルの物語です。当時としては本当に先進的な「ゲイの未来」「新しい家族像」が描かれていて、心から笑って泣ける映画でした。この映画では、子どもを作るまでの紆余曲折が描かれ、子ども自体は登場しませんでした。
レズビアンカップルとその子どもたちを描いたコメディ『キッズ・オールライト』(日本公開は2011年)もいい映画でした。子どもたちが父親(ドナー提供者)のことを知りたがったところから物語が展開しますが、基本は女二人、みんなと同じように恋をして家族をつくって、笑って泣いて、幸せに生きてる、でもたまには悩んだりするけどね、みたいな、カラッとした感じで、結婚や子育ての難しさ、家族にとって大切なことが描かれた作品でした。









『ゲイビー・ベイビー』は、ゲイやレズビアンのカップルに育てられている4人の子どもたちにフォーカスしたオーストラリアのドキュメンタリー映画です。
監督は、自身も2人の母親に育てられたマヤ・ニューウェルさん。彼女いわく「ゲイ家庭に育つ子どもたちを、彼ら自身の視点で描いた初めてのドキュメンタリー映画」だそうです。
映画は、「子どもは父親と母親がいて初めてまともに育つ」とか「父親のいない家庭で、男の子はどうすればいいのか」など、これまで繰り返されてきた紋切り型の批判(差別)の音声が流れるところからスタートし、では、肝心の子どもたちの声は?と問いかけます。
「ドナーの精子をもらって冷凍保存して、それでママが妊娠して産んだのが僕だよ」と笑顔で話すブロンドの男の子、ガス。ガスはプロレスが好きすぎて、小さな妹にWWE(アメリカのプロレス団体)の選手の名前を憶えさせたり(笑)、プロレスごっこに興じたりしています。でも、レズビアンのお母さんは「男のバカな遊び。何が楽しいの?」と言って受けつけてくれません…。
ちょっと『スタンド・バイ・ミー』のリバー・フェニックスを思わせる男の子・グレアムは、ゲイカップルに育てられています。二人のもとに来た時、グレアムは5歳なのに言葉を話すことができませんでした(実の両親に何か問題があったようです)。小学校に入った今も、十分に読み書きができません。でも、パパたちは一生懸命、辛抱強く、読み書きを教え…。
エボニーは歌手を夢見る美しい女の子。今はママ2人と郊外に住んでいますが、ニュータウン(シドニーでゲイがたくさん住んでいる町。ゲイバーとかもあります)の芸術系高校を目指しています。希望に燃えて歌の練習に励む彼女ですが、5歳の弟が毎晩のように発作を起こし(統合失調症の疑いがあるようです)、彼女も弟を抱き上げてあやしたり、一家で面倒を見ています。果たして、エボニーは無事にニュータウンの学校に入れるのでしょうか…。
母親のカトリックの信仰(神様は実在する。日曜には教会に行かなければダメ)についていけなさを感じる男の子、マット。澄んだ瞳が印象的です。2人の母親が結婚できないことをおかしいと感じていたマットは、首相に宛てて手紙を書くことを思いつきました…。
基本的に子どもの目線で語られ、子どものセリフが中心になっているのですが、ちょっとだけオマケで、パパたち、ママたちのことも描かれていて、それがとてもいいなと思ったりしました。
ガスがデパートの化粧品売り場のテスターで口紅を塗って、店員さんに「そんなことをしちゃダメよ」とたしなめられるシーンがありました。すかさずレズビアンのお母さんが「いいのよ口紅を塗っても。売り物じゃなきゃ」と毅然と言っていたのがカッコよかったです。「この辺には女装を楽しむ男性もいないのよね。つまらないわね」とも…シビれました。
グレアムに読み書きを教えるのに手一杯なゲイパパたちが、子どもたちが寝た後に、やっと二人だけの時間だね、今日はプールに入っちゃおっか?とか言っているシーンも、とてもラブリーでした。
どの子どもたちも、ごくごくふつうの、どこにでもいるような子どもたちです。そして、パパたちやママたちを愛していて、とても幸せで、まっすぐに育っていて、微笑ましく、時に感動をくれます。自分は親ではないものの、自然と愛おしさが湧いてきます。一緒になって、頑張れ!とか、よくやった!とか。応援するような、見守るような、ハラハラさせられるような。将来、どんな大人になるんだろう〜楽しみ♪っていう気持ちになりました。
また、これまでは、なんとなく子育てをしているゲイやレズビアンのカップルって、医者だったり(『New Normal おにゅ~な家族のカタチ』)、弁護士だったり(『モダンファミリー』)、経済的に余裕があるからこそ、というイメージがありました。しかし、『ゲイビー・ベイビー』に登場する両親たちは、必ずしもお金持ちではなく、社会的地位が高そうなわけでもなく、とても身近に感じられました。その点も新鮮でした。
映画の最後に、オーストラリアだからこその、とっておきの映像が流れます。素晴らしいフィナーレ。感動させられます。
個人的には、日本でもこういう子どもたちが当たり前に育ってくれたらなあと思いました。父親と母親がいなければ子どもが不幸というのは偏見で(そういう家庭で虐待を受けたり、命を落とした子どもがどれだけたくさんいたか…)、親が愛情を持って育ててくれるかどうかの問題だと思います。(きっとご覧になった方はみなさん、そう思うはず)
映画『ゲイビー・ベイビー』は次回、7月16日(土)15:40〜@スパイラルで上映されますので、ぜひご覧ください。
『ゲイビー・ベイビー』Gayby Baby
監督:マヤ・ニューウェル|2015|オーストラリア|85分|英語 ★日本初上映
INDEX
- 鬼才ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の愛と性をリアルに描いた映画『異端児ファスビンダー』
- ぜひ映画館で「歴史」を目撃してください――マーベル映画初のゲイのスーパーヒーローが登場する『エターナルズ』
- 等身大のゲイの恋愛を魅力的なキャストで描いたラブリーな映画『クロスローズ』
- リアルなゲイたちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEに寄り添う、心揺さぶる舞台『すこたん!』
- 愛と笑顔のハッピームービー『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』
- ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンの同性愛をありのままに描いた映画『TOVE/トーベ』
- 伝説のデザイナーのゲイライフに光を当てたドラマ『HALSTON/ホルストン』
- 幾多の困難を乗り越えてドラァグクイーンを目指すゲイの男の子の実話に基づいた感動のミュージカル映画『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』
- ドラァグクイーンに憧れる男の子のミュージカル『Everybody's Talking About Jamie』
- LGBTQ版「チャーリーズ・エンジェル」的な傑作アニメ『Qフォース』がNetflixで配信されました
- 今こそ観たい、『It's a sin』のラッセル・T・デイヴィスが手がけたドラマ『英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件』
- 美しい少年たちのひと夏の恋と永遠の別れを描いた青春映画――『Summer of 85』
- 80年代UKのゲイたちの光と影:ドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』
- 映画『日常対話』の監督が綴った自らの家族の真実――『筆録 日常対話 私と同性を愛する母と』
- "LGBT"以前の時代に愛し合い、生き延びてきた女性たち――映画『日常対話』
- 映画『世紀の終わり』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『叔・叔(スク・スク)』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『シカダ』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『ノー・オーディナリー・マン』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『恋人はアンバー』(レインボー・リール東京2021)






