REVIEW
映画『彼方から』(レインボー・リール東京2016)
第25回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で観た作品のレビューをお届けしていきます。3本目は第72回ベネチア国際映画祭金獅子賞に輝いた『彼方から』です。

第25回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で観た作品のレビューをお届けしていきます。3本目は、こちらのニュースでお伝えしていた映画『デスデ・アジャ(原題)』です。今回、『彼方から』というタイトルで上映されました。甘い感傷を排し、冷徹な視点で人間を(ゲイ的な関係性を)描いた作品で、見方によっては感動的なヒューマンドラマでもありますし、ちょっと背筋がうすら寒くなるサスペンスでもありえるような、高度な作品でした。(後藤純一)






『彼方から』はベネズエラの首都カラカスを舞台にしたドラマ(サスペンスとも、ヒューマンドラマとも言えます)。歯科技工所を経営しており、あまり社交的ではないがそこそこ裕福そうな白人中年男性・アルマンド。彼は貧しそうな若者(肌が浅黒いので、メスチソとかムラートだと思われます)にお金をちらつかせて声をかけ、自分のアパートに招き入れ、青年に触れるわけではなく、後ろ向きで服を脱がせ、パンツを半分下ろした状態にして、それを見ながら自慰する、ということをしています。一方、アルマンドは、子どもが生まれたばかりの姉と交流があり、姉の前で、(何があったのかはわかりませんが)父親に対する激しい憎悪をむき出しにします。ある日、アルマンドは道端で見かけたチンピラっぽいエルデルに惹かれ、やはり同様に彼を自室に誘い入れるのですが、殴られるは金品を奪われるわ…。しかし、アルマンドは懲りずにエルデルにアプローチし続けます。
エルデルは、初めは仕事もせずブラブラしてるように見えたのですが、実は車の修理工場で働いています。彼女がいますが、彼女の兄とは対立状態(襲撃したりします)。喧嘩っ早く、盗みも殺しもいとわないような、典型的なチンピラです。誰がどう見てもノンケです。野性的で挑発的な視線を浮かべながらも澄んだ瞳、厚ぼったい唇、少し浅黒くてすべすべの肌…アルマンドはその美しい容姿に惹かれたのでしょうか。
最初はアルマンドのことを「薄汚いホモ野郎」と罵り、蛇蝎のように嫌っていたエルデルが、次第にアルマンドに対して心を開いていく様が、この映画のいちばんの見どころです。エルデルの感情の動きはシンプルでわかりやすく、素直だなあ、可愛げがあるなあと思えます。アパートの下から部屋の窓を見上げて「アルマンド!」と叫ぶシーンなどはまるで『ロミオとジュリエット』のようです。
一方、アルマンドは、ほとんどのシーンが無表情で(不気味と言うよりは、クール)、何を考えているのかよくわからないところがあります。そのミステリアスさが、ラストシーンの「驚き」につながります。
Twitterを見ていると、終わり方が「え?」ってなった、よくわからなかった、ラストで見方が変わった、といった感想が見られました(わかります。同感です)。ちょっと驚きというか、衝撃というか、それまでの展開を裏切るようにも感じられる終わり方だったので、とてもモヤモヤさせられます。涙を流して拍手…といった感じにはならないかな、と。
しかし、だからこそ、この『彼方から』が凡百のハッピーエンドな作品と一線を画し、スゴい映画たりえてるんだと思います。意図的に情報が少なくされていることもあり、いろんな解釈が可能になっているのです。
また、劇伴音楽(BGM)がなく、人物の表情にクローズアップし、人物と人物の関係性(恋愛)をリアリスティックに写し出すことに徹しているところは、『アデル、ブルーは熱い色』を彷彿させました。
『チェッカーで(毎回)勝つ方法』と同様、ゲイというセクシュアリティを描くことよりも階級社会への批判がメインテーマになっている気がします。『チェッカーで〜』は出自の違いが運命を大きく左右する残酷さを描いていましたが、『彼方から』はある意味、身分の違いを超えた友情のような愛のような関係性を描いている作品で、それは男どうしだったからこそ可能だったのかもしれません。監督は「階級の違いがあっても、感情的に必要なことをお互いが共有できれば、一緒にいることもできることを示している」と語っています(詳しくはこちら)
原題は「遠くから」という意味ですが、それは、男の子たちにうかつには近づけないアルマンドの心理的距離感を表しているのかもしれないし、自慰の仕方に由来しているのかもしれません。いずれにせよ、この映画は「まなざし」をとても重視していると思います。
ベネチア国際映画祭金獅子賞に輝いた作品ですから、今後一般公開される可能性も十分あると思います。今回見逃した方はその際にぜひ、ご覧になってみてください。
『彼方から』英題:From Afar/原題:Desde Allá
監督:ロレンソ・ビガス|2015|ベネズエラ、メキシコ|93分|スペイン語 ★日本初上映 ★共同企画:ラテンビート映画祭
INDEX
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