REVIEW
映画『私はワタシ ~over the rainbow~』(レインボー・リール東京2017)
東ちづるさんが企画・キャスティング・プロデュースを務め、40人以上のセクシュアルマイノリティへのインタビューや、ベアリーヌ・ド・ピンク(長谷川博史)さんのポエトリー・リーディング・ショーなどで構成されたドキュメンタリー。みんな知ってるあの人やあの人も登場する、名言多数!な作品でした。
2017年7月16日(日)、レインボー・リール東京2017で上映された映画『私はワタシ ~over the rainbow~』。東ちづるさんが企画・キャスティング・プロデュースを務め、東さん自身が40人以上のセクシュアルマイノリティの方たちにインタビューをしています。そのたくさんの方へのインタビューを、ベアリーヌ・ド・ピンク(長谷川博史)さんのポエトリー・リーディング・ショーが挟み、ジーンとさせる作品になっています。レビューと上映後のトークショーのお話を交えながらお届けします。(後藤純一)
登場している方たち一人一人の言葉が、重みがあったり、本当にそうだよねと思わせてくれたり、ハッとさせられたり、話し方も含めて感動させてくれたりして、見応えがありました。全部を観終わってから思ったのは「名言が多かったなぁ」ということでした。
特に印象に残ったシーンをいくつか、ご紹介します。
TVにも出ているオネエ系祈祷師のびびこさんが、東京レインボープライドの会場でインタビューされていました。本当は普通に地味に生きたいけど、TVではああやって人格を変えて出ている、自分のことが嫌いで許せなくて、こんなオネエに生まれてきたくなかった、親にも否定され続けてきて…と語りながら、びびこさんはずっと顔を隠していました(写さないで、というように)。でも、パレードに初めて参加してみて、みなさんが思ったよりずっとあたたかくて、受け入れられたような気がした、よかった、と語りながら、最後にパッと手をどけたのです。別にパフォーマンスとかではなく、もういいや、という感じだったのですが、お話の内容とすごくシンクロしていて、ちょっと感動しました。
世田谷区の同性パートナーシップ証明第1号となった、FtMトランスジェンダーでろう者のモンキー高野さんとパンセクシュアルの高島由美子さん。手話での語りだったのですが、トランスジェンダーは生命保険に入れないんです、自殺率が高いとデータに出ているから、という話があって、(この映画では表に出ず、聞き役に徹している)東さんが思わず、ひどい!トランスジェンダーを自殺に追い込んでるのは世の中の方じゃない!と憤りの声を上げてしまい、それが編集でカットされずにそのまま使われていたのが、却ってよかったです。
MtFトランスジェンダーの吉井奈々さんのお話。結婚相手が見つかり、親御さんにご挨拶に行くことになったのですが、私は子どもを産めません、ごめんなさいと言ったら、お母様が、息子が幸せになってくれることがいちばんうれしい、奈々さんありがとうね、と言ってくださったんだそうです。ちょっと泣いてしまいました…。
それから、MtFトランスジェンダーの畑野とまとさんの、日本ではそもそも人権が浸透していないことが問題、話が進まないという意見も、本当にそうだなぁと思いましたし、AiSOTOPE LOUNGEの小原さんの、二丁目が「かつてゲイがいた街」にならないようにしたいという言葉に激しく共感しましたし、松中権さんの、みんな違ってみんないいという言葉が好きじゃない、投げてる感じがして…違うからこそ、話し合ったりしていくことが大切、という言葉にハッとさせられたり、杉山文野さんの、来世生まれ変わるとしたら正直、トランスジェンダーじゃないほうがうれしいという言葉がズンと響いたり…。
まさに多様性と言いますか、ありのままの、生きた言葉、たくさんの名言が語られました。
そして、古くからゲイシーンの中心で活躍し、HIV陽性者として日本のエイズ・アクティビズムにおいて多大な貢献をしてきた、現在は(糖尿病の悪化が原因で足を切断したため)車椅子生活を送る長谷川博史さんによる「熊夫人の告白2/血の問題」などのポエトリー・リーディングがオープニングとラストシーンに起用され、作品に厚みと感動を与えていました。
上映後のトークショーの模様をお伝えします。
企画・キャスティング・プロデュースの東ちづるさんと、監督の増田玄樹さんが登場しました。
この映画が誕生したのは、昨年「ある特定のゲイの人だったりレズビアンの人だったりを描く映画っていうのはあるけど、LGBTというものがわかる映画ってないよね、東さん、作ってよ」と言われたことがきっかけなんだそうです。東ちづるさんは「どうやって?」と悩んでいましたが、長谷川さんに出会って、それが可能になったと言います。今回のレインボー・リール東京での上映が目標でした、と語る東さんはとてもうれしそうでした。
東さんは、みなさんが、LGBTだからこその「特別な」苦悩を語るのでないかと思っていたけど、実際に聞いてみたら、自分たちが悩んでいるのと変わらなかったですね、とおっしゃっていました。
インタビューを撮り溜めて70時間分のフィルムができたけど、編集の際に、泣かせに走るのはやめようと思って、語り手が感極まって泣いてしまったりしたシーンはあえてカットしたんだそうです。それと、できるだけフラットに、誰が見てもモヤモヤしないものにしようということを心がけた、とも。
それから、監督さんが、この映画のために作った「life is beautiful.」という歌を、弾き語りで歌ってくださいました。最後に「みなさんに出会えてよかったです」と言って、涙を拭っていらっしゃいました。
『私はワタシ ~over the rainbow~』は、今後、一般上映に向けて、配給会社を探すそうです。また、クラウドファンディングも行うとのことです。
ぜひ世間のたくさんの方に観ていただきたいですね。
『私はワタシ ~over the rainbow~』
英題:I am what I am. – Over the Rainbow –
監督:増田玄樹
2017|日本|75分|日本語
制作: 一般社団法人Get in touch
INDEX
- リュック・ベッソンがドラァグクイーンのダーク・ヒーローを生み出し、ベネチアで大絶賛された映画『DOGMAN ドッグマン』
- マジョリティの贖罪意識を満たすためのステレオタイプに「FxxK」と言っちゃうコメディ映画『アメリカン・フィクション』
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
SCHEDULE
記事はありません。