REVIEW
映画『コンポーシヴ・プラクティス/やめられない習慣』
コミュニティセンターaktaで、アメリカでHIV/エイズについて映像を制作してきた9組の方たちの作品を紹介する『コンポーシヴ・プラクティス/やめられない習慣』が上映されました。レビューをお届けします。
2017年8月5日(土)、コミュニティセンターaktaで、アメリカでHIV/エイズについて映像を制作してきた9組の方たちの作品を紹介する『コンポーシヴ・プラクティス/やめられない習慣』の上映とトークショーが行われました。レビューをお届けします。(後藤純一)
9組の映像作家の作品のうち、最初に登場したのは、HIV陽性の姉(おそらく亡くなったのではないかと思います)が産んだ子どもを託された弟さんが、彼氏さんと一緒に子どもを育てるというフィルムでした。そして最後の映像が、最近の、若くしてHIV陽性であることがわかった男の子が、パートナーと一緒に子育てをしていて、養子縁組が認められて感激したというストーリーで、最初と最後が子どもの話で繋がっているのが印象的でした。
女性たちもたくさん登場します。初めてセックスワーカーという言葉を使った伝説の女性キャロル・リーが、とてもポップでパワフルな映像をいろいろ作っていました。エイズ禍の時代、注射針で感染した女性がカムアウトし、娘に希望を託しながら、薬を断って、活動していくという話。南部の黒人女性たち。
もちろんゲイもたくさん登場します。M・A・Cのエイズチャリティパーティでのドラァグクィーンショー、今のヴォーグ・コミュニティの人たちをレポートしているイケメンなゲイの方(映画祭で上映された『キキ』とリンクして、興味深かったです)、それから、ゲイで、HIV陽性で、薬物依存から回復しつつあって、「Fabulous Disease」というビデオシリーズを発表している方が、アトランタ・プライドの先頭のオープンカーに乗って行進したり、ステージで聴衆から拍手を受けるシーンはとても心温まるものがありました。
上映後のトークショーでも語られていましたが、この作品はおそらく、これまで、HIV/エイズについて発表されてきたさまざまな映画やドラマがほとんど白人のゲイが中心だったのに対し、さらに周縁化されている人々(有色人種だとか、女性だとか、子どもだとか)をフィーチャーし、その声を掬い上げ、リアリティを伝えるような意図があったと思います。
全体を通して感じたのは、アメリカではカミングアウトしている陽性者の人たちが本当に多いということ、しかもYoutubeなど映像を使って発信している人が本当に多いんだなぁということが印象的でした。
個人的な話で恐縮ですが、1997年に映画祭のボランティアをしてHIV関連のシリアスな短編に日本語字幕を付けたのがHIVコミュニティとの関わりの最初だったのですが(その時に長谷川さんが登壇して「今日の映画はひどい。エイズはもう死の病ではない」と宣言しました)、あれから20年経って、時代はずいぶん変わって(治療や予防、HIVに対するイメージも)、たとえ感染したとしても、早くわかって治療できればずっと元気にやっていけますし、本当によかったと思うのですが、例えば2000年代前半には、ゲイコミュニティで、HIVについてのイベントもたくさんあっただけでなく、HIVやSAFER SEXに関する映画がいろいろ作られていて(代表はNLGRで上映された『四角い夏』『ひまわり』だと思います。手前味噌ですが、GUTSというグループでも『エスムラルダの「検査なんて怖くない」』など数本を制作しています)、今はほとんどそういう映画を目にしなくなってしまったなぁ…、それは、HIVがそれほど深刻な問題ではなくなったからなのか、コミュニティがHIVへの関心を失ったからなのか、コミュニティ自体が弱くなったからなのか…と考えていました。
ともあれ、こういう貴重な映像を日本に持ち帰り、独力で字幕をつけてみんなが観ることができるようにしてくれたNormalScreenの秋田さんに、感謝したい気持ちです。
8月7日(月)までaktaで観ることができますので、都合の合う方はぜひ。
『コンポーシヴ・プラクティス/やめられない習慣』上映&関連アート作品展示
会期:〜8月7日(月)16:00-22:00
会場:コミュニティセンターakta
入場無料
※コミュニティセンターaktaのご厚意で、上映がしばらく延長されることになったようです。詳しくはaktaまでお問い合わせください
INDEX
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
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