REVIEW
映画『The Freedom to Marry』(ソニー・ダイバーシティ・シアター 2017)
9月13日(水)、ソニー本社で開催されたイベント「ソニー・ダイバーシティ・シアター 2017」で、アメリカ全土での結婚の平等を勝ち取るために奮闘していた団体「Freedom to Marry」の姿を追ったドキュメンタリー映画『The Freedom to Marry』が上映されました。
2015年6月26日、アメリカの連邦最高裁判所はすべての州で同性婚を認めるという歴史的な判決を下しました。が、アメリカ全土で結婚の平等が達成されるまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。この映画『The Freedom to Marry』は、80年代から同性愛者に結婚が認められないのはおかしいと考え、行動してきた弁護士のエヴァン・ウルフソンさんと彼が設立した団体「Freedom to Marry」を中心に、結婚の平等の達成を目指す姿を追ったドキュメンタリーです。ノースカロライナ・ゲイ&レズビアン映画祭観客賞(ベストドキュメンタリー)など、アメリカのいくつもの映画祭で観客賞やグランプリに輝いていますが、日本での一般公開は決まっておらず(従って邦題もありません)、今回「ソニー・ダイバーシティ・シアター 2017」というイベントで特別上映され、観ることができたのは幸いでした。上映後のパネルトークの模様も併せてご紹介します。(後藤純一)
エヴァンさんにはメアリー・ボノートさん(GLAD(中傷と闘うゲイ&レズビアン同盟)の公民権プロジェクト・ディレクターを務めるレズビアンの弁護士の方)という同志ができました。このお二人が、あの連邦最高裁での同性婚裁判の主任弁護士を務めることになります。(なお、この裁判が起こった経緯や当時の状況についてはこちらの記事をご覧ください)
メアリーさんは、ミシガン州在住でたくさんの養子を育てているレズビアンカップルが置かれている現状に胸を痛めます。子どもたちはどちらかの女性の養子となっているのですが、ミシガン州では同性婚が認められていなかったため、共同親権が認められず、もしどちからの女性の身に何かあった場合、その子どもたちは親を失う(離れ離れになってしまう)ことになるのです。
裁判に勝ってこのカップルが安心して子育てできるようにするために、「Freedom to Marry」のスタッフは、ファンドレイジング(資金集め)に奔走し、また、世論を味方につけるためのPRの展開にも頭をひねります。
一方、伝統的な結婚を重んじる団体は、反対キャンペーンを展開します。「神はゲイを憎悪する」などと書かれたプラカードを掲げ、「私の息子はゲイよ」と訴える母親を罵倒する人々の姿は、ほとんどカルト教団です…
ストーンウォール暴動や、エイズパニックによってゲイ解放運動のありかたが変わった様などの描写も、印象的でした。ワシントン州で認められた!わー!(喝采。抱き合ったり、涙を流しながら喜ぶ人々。キスするカップル)、メリーランド州で認められた!わー!(同)っていう映像が続くシーンとか、グッときました。
最高裁での弁論を終えて建物から出てきたメアリーさんに、ゲイカップルが「本当にありがとう」と言って握手するシーン、いよいよ判決の前日という日、エヴァンさんが「たとえ結果がダメだとしても、みんなにありがとうを言いたい。最高のチームだった」と言うシーンなども、ジーンときました。
彼らは憲法で保障された結婚の権利が同性愛者には認められないことの不平等を正したいという正義感を信念として持ち続けて努力してきたと同時に、現に目の前で困っている人たちを何とかしたいという支援の気持ちでやってきました。例えばNLGRが2000年代前半から同性結婚式を挙げてきて、号泣する人がたくさんいて、僕らはなんとなく結婚して祝福されるっていうことをあきらめてきたけど、そうじゃない、幸せになっていいんだって思えた、そういうことも思い出したりして、正直、涙が止まりませんでした。人々の幸せのために尽力する人たちがたくさんいるということの尊さに、胸を打たれます。
決してエンターテイメントではない、同性婚実現のための闘いを描いた映画を、600名ものアライの方たちが見守っている様子にも、感銘を受けました(ハンカチで涙を拭う方もいらっしゃいました)
『アゲンスト8(のちにジェンダー・マリアージュ)』にも共通するテーマですが、1時間足らずの尺にぎゅっと凝縮されていて、全く飽きずに観ることができます。今後またどこかで上映される機会もあると思いますので、その際はぜひ、ご覧ください。
The Freedom to Marry
2016年/アメリカ/監督:Eddie Rosenstein/出演:Evan Wolfson, Mary Bonauto, April DeBoer and more
上映終了後、なんと、エヴァンさんからこのソニーのイベントのために直々にビデオメッセージが届けられました。「この映画を上映してくれてありがとう」から始まり、あの連邦最高裁の同性婚裁判に賛成する大手企業が372社にも上ったこと、同性婚も含めたダイバーシティ&インクルージョン施策は経済をも発展させるということ、それは日本も同じであるということなどが語られ、「グッドラック!」で締められました(拍手が起こりました)
それから、企業におけるダイバーシティ&インクルージョン施策、LGBTが働きやすく、活躍できる職場づくりについて話し合うパネルトークが行われました。
モデレーターは松中権さん、パネリストはゴールドマンサックス法務部の藤田さん(アライの方。同社でカムアウトし、メディアにも出ている稲葉さんの上司の方で「LGBTとアライのための法律家ネットワーク」を設立)、リタリコという会社で働く永竹さん(レズビアンの方。ずっと映画祭のボランティアをやってきました)、ソニーの中村さん(NPO法人バブリングに参加し、最近会社でゲイであることをカミングアウト)です。
最初に、映画の感想について語られました。
永竹さん「ストーンウォールとか、エイズの時代とか、歴史が映画的に描かれていたと思います。子育てに励んでいるレズビアンのカップルが、法的な支えが必要で、メアリーさんがありのままで生きられるように支援したいとおっしゃっていたのは、とても共感しました。一言で言うと、闘ってる人の映画だと思いました」
中村さん「結婚式の司会を40回くらいしているんですが、みなさん親御さんへの手紙で感謝を伝えてらして、自分にそういう日が来るのかなと寂しい気持ちになって…。日本でも結婚できるといいなと思います。(同性愛者である)子や孫のために何でもするというおばあちゃんが出てきて、印象的でした。対話の力、ですね」
藤田さん「幸い、このお二人に会う機会があって。エヴァンさんは訴訟弁護士を10年やったそうですが、社会を変えることが大切だと気づいて、団体を立ち上げた。裁判官って保守的なので、話さないと理解は生まれない。心を開くこと、耳を傾けることが大切」
それから、それぞれのカミングアウトのストーリー(藤田さんの場合、部下の稲葉さんのお話)や、職場を働きやすく変えるには?といったテーマでお話があり、ここで時間となり、会場から質問を受け付ける質疑応答タイムとなりました。「当事者の方にとって、職場でこういうことがあるとうれしい、ということを教えていただきたい」とか、「日本社会が変わっていくことが必要だと思うんですが、課題ってどういうことなんでしょう?」といった質問が上がり、とても活発な、熱い雰囲気のうちに、イベントは終了しました。
今や、企業の中で、カミングアウトして活動しているLGBTの方もたくさんいらっしゃるし、アライとして真剣にLGBTのために取組みを進めようとしている方も本当にたくさんいらっしゃることが熱い雰囲気の中で伝わってきて、感慨深いものがありました。
INDEX
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」
- アート展レポート:moriuo個展「IN MY LIFE2023」
- 「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
- 女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
- これは傑作! ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』
- シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
- 台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』
- ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
- 史上最高にゲイゲイしいファッションドキュメンタリー映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
- ryuchellさんについて語り合う、涙、涙の番組『ボクらの時代 peco×SHELLY×ぺえ』
- 涙、涙…実在のゲイ・ルチャドールを描いた名作映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』
- ソウルにあったハッテン映画館の歴史をアニメーションで描いた映画『楽園』(「道をつくる2023」)
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
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