REVIEW
映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
あの『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンが伝説のテニスの女王、ビリー・ジーン・キングを演じます。彼女は元男子世界チャンピオンとの「負けられない戦い」に挑み、全女性の希望と期待を一身に背負ってコートに立ちますが、その陰で、実は女性と恋に落ち、レズビアンであることを自覚していて…という史実が描かれます。
あの『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンが、世界がその動向に注目するなか、次回作として伝説のビリー・ジーン・キングを演じたというのが本当に素敵です(『ラ・ラ・ランド』と全く対照的な役どころ。ビリーにそっくり)。元男子世界チャンピオンとの「負けられない戦い」に挑んだテニスの女王が、全女性の希望と期待を一身に背負い、コートに立つ姿の美しさ、そして、その陰で、実は、ビリーが女性と恋に落ち、レズビアンであることを自覚し、プライドを持ちはじめていた…という史実に胸を打たれます。素晴らしい作品です。レビューをお届けします。(後藤純一)
彼女は1965年にラリー・キングと結婚して「キング夫人」と呼ばれるようになりますが、1981年にレズビアンであることをカミングアウト(この時期のトップアスリートとしてのカミングアウトは、本当にスゴいこと。しかも現役時代です)、1987年に離婚が成立しています。
女性や同性愛者の権利向上のために長年闘い続けた功績を認められ、2009年にはオバマ大統領から大統領自由勲章を授与されています。
<あらすじ>
73年、女子テニスの世界チャンピオンであるビリー・ジーン・キングは、女子の優勝賞金が男子の8分の1であるなど男女格差の激しいテニス界の現状に異議を唱え、仲間とともにテニス協会を脱退して「女子テニス協会」を立ち上げる。そんな彼女に、元男子世界チャンピオンのボビー・リッグスが男性優位主義の代表として挑戦状を叩きつける。ギャンブル癖のせいで妻から別れを告げられたボビーは、この試合に人生の一発逆転を賭けていた。一度は挑戦を拒否したビリー・ジーンだったが、ある理由から試合に臨むことを決意する…。
テニス協会のおっさんたちの言い分が、本当にいやらしい(いまでも日本では平気で言ってそう)。はらわたが煮えくりかえります。別にフェミニストとかじゃない人でも、女性たちを応援したくなります。が、ビリーたちが「Battle of the Sexes(男女の戦い)」に勝利した、よかった、という単純な物語ではなく、もう少し複雑なジェンダーのありようが描かれています。
男性たちのなかにも、ギャンブルにハマって身を持ち崩し、女性を見下している下品なクズ野郎もいれば、本当に礼儀正しく、優しく、女性も対等に扱ってくれる紳士的な男性もいます。女性たちのなかにも、男に媚びを売っている、弱い自分を男がかばってくれると思っているタイプの女性もいれば、男女は平等であるという強い信念を持ち、一人の人間として自立しているタイプの女性もいます。
歴史は、男女それぞれ、前者タイプが支配的だった時代から、後者へと移行し、それとともに、LGBTも生きやすくなってきた、という流れになっています。この映画は、まさにその転換点を、ビリー・ジーン・キングという稀有な強さと信念をもったレズビアン女性がダイナミックに動かしたところを捉え、劇的に、美しく描いているのです。
ビリー・ジーンが(ルックス的にそういうイメージを持たれがちだと思うのですが)ただの怒れるフェミニストではなく、愛ゆえに、試合に臨む決心をしたというところも素敵です。
70年代、まだまだアメリカで同性愛者が市民権を獲得していない時代に、自身がレズビアンであることを自覚したとき、多くの人はものすごく動揺したり、不安になったりすると思うのですが、彼女は、愛をパワーに変え、プライドに変えていったというところもシビれます。
(ビリーに先立って挑戦したノンケ女性が、世間に対して一点の曇りもなく、なんらプレッシャーを感じる必要もないはずなのに…というのと対照的です)
皮肉なことに、当時のビリー・ジーンの夫だったラリー・キングが、本当に甲斐甲斐しく面倒を見てくれるイケメンで、その「できすぎ」感、非の打ち所のなさが、(のちに離婚するかと思うと)せつなくなります。ボビーみたいな男だったらさっさと捨てられるのに…。
女子選手たちのコスチュームを担当しているあからさまにゲイなキャラ(二人いるので、カップル?)が『チョコレートドーナツ』のアラン・カミングで、結構スパイスがきいた役だったりします。最後のセリフにぜひ、耳を傾けていただきたいです。カッコいいです。
バトル・オブ・ザ・セクシーズ
2017年/アメリカ/監督:バレリー・ファリス/出演:エマ・ストーン、スティーブ・カレル、アンドレア・ライズ、サラ・シルバーマン、ビル・プルマンほか
偉大すぎるレジェンド、ビリー・ジーン・キング
映画のレビューの前に、ビリー・ジーン・キングがどんな人だったのか、ということをお伝えしたいと思います。
彼女は1965年にラリー・キングと結婚して「キング夫人」と呼ばれるようになりますが、1981年にレズビアンであることをカミングアウト(この時期のトップアスリートとしてのカミングアウトは、本当にスゴいこと。しかも現役時代です)、1987年に離婚が成立しています。
女性や同性愛者の権利向上のために長年闘い続けた功績を認められ、2009年にはオバマ大統領から大統領自由勲章を授与されています。
映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
73年、女子テニスの世界チャンピオンであるビリー・ジーン・キングは、女子の優勝賞金が男子の8分の1であるなど男女格差の激しいテニス界の現状に異議を唱え、仲間とともにテニス協会を脱退して「女子テニス協会」を立ち上げる。そんな彼女に、元男子世界チャンピオンのボビー・リッグスが男性優位主義の代表として挑戦状を叩きつける。ギャンブル癖のせいで妻から別れを告げられたボビーは、この試合に人生の一発逆転を賭けていた。一度は挑戦を拒否したビリー・ジーンだったが、ある理由から試合に臨むことを決意する…。
テニス協会のおっさんたちの言い分が、本当にいやらしい(いまでも日本では平気で言ってそう)。はらわたが煮えくりかえります。別にフェミニストとかじゃない人でも、女性たちを応援したくなります。が、ビリーたちが「Battle of the Sexes(男女の戦い)」に勝利した、よかった、という単純な物語ではなく、もう少し複雑なジェンダーのありようが描かれています。
男性たちのなかにも、ギャンブルにハマって身を持ち崩し、女性を見下している下品なクズ野郎もいれば、本当に礼儀正しく、優しく、女性も対等に扱ってくれる紳士的な男性もいます。女性たちのなかにも、男に媚びを売っている、弱い自分を男がかばってくれると思っているタイプの女性もいれば、男女は平等であるという強い信念を持ち、一人の人間として自立しているタイプの女性もいます。
歴史は、男女それぞれ、前者タイプが支配的だった時代から、後者へと移行し、それとともに、LGBTも生きやすくなってきた、という流れになっています。この映画は、まさにその転換点を、ビリー・ジーン・キングという稀有な強さと信念をもったレズビアン女性がダイナミックに動かしたところを捉え、劇的に、美しく描いているのです。
ビリー・ジーンが(ルックス的にそういうイメージを持たれがちだと思うのですが)ただの怒れるフェミニストではなく、愛ゆえに、試合に臨む決心をしたというところも素敵です。
70年代、まだまだアメリカで同性愛者が市民権を獲得していない時代に、自身がレズビアンであることを自覚したとき、多くの人はものすごく動揺したり、不安になったりすると思うのですが、彼女は、愛をパワーに変え、プライドに変えていったというところもシビれます。
(ビリーに先立って挑戦したノンケ女性が、世間に対して一点の曇りもなく、なんらプレッシャーを感じる必要もないはずなのに…というのと対照的です)
皮肉なことに、当時のビリー・ジーンの夫だったラリー・キングが、本当に甲斐甲斐しく面倒を見てくれるイケメンで、その「できすぎ」感、非の打ち所のなさが、(のちに離婚するかと思うと)せつなくなります。ボビーみたいな男だったらさっさと捨てられるのに…。
女子選手たちのコスチュームを担当しているあからさまにゲイなキャラ(二人いるので、カップル?)が『チョコレートドーナツ』のアラン・カミングで、結構スパイスがきいた役だったりします。最後のセリフにぜひ、耳を傾けていただきたいです。カッコいいです。
バトル・オブ・ザ・セクシーズ
2017年/アメリカ/監督:バレリー・ファリス/出演:エマ・ストーン、スティーブ・カレル、アンドレア・ライズ、サラ・シルバーマン、ビル・プルマンほか
INDEX
- 料理を通じて惹かれ合っていく二人の女性を描いたドラマ『作りたい女と食べたい女』
- ハリー・スタイルズがゲイ役を演じているだけが見どころではない、心揺さぶられる恋愛映画『僕の巡査』
- 劇団フライングステージ 第48回公演『Four Seasons 四季 2022』
- 消防士として働く白人青年と黒人青年のラブ・ストーリーをミュージカル仕立てで描いたゲイ映画『鬼火』(TIFF2022)
- かつてステージで華やかに活躍したトランス女性たちの人生を描いた素敵な映画『ファビュラスな人たち』(TIFF2022)
- 笑えて泣ける名作ゲイ映画『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』爆誕!
- かぎりなく優しい、心温まる感動のゲイ映画『幸運の犬』
- キース・ヘリングの生涯を余すことなく描いたドキュメンタリー映画『キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~』
- ディズニー/ピクサー長編アニメとして初の同性カップルのキスシーンが描かれた記念碑的な映画『バズ・ライトイヤー』
- 実在のゲイの生き様・心意気へのオマージュであり、コミュニティへの愛と感謝が込められた感動作:映画『スワンソング』
- ゲイが女性の体を手に入れたら!? 性をめぐるドタバタを素敵に描いた台湾発のコメディドラマ『美男魚(マーメイド)サウナ』
- 家族のホモフォビアゆえに苦悩しながらも家族愛を捨てられないゲイの男の子の「旅」を描いた映画『C.R.A.Z.Y.』
- SATCのダーレン・スターが手がける40代ゲイのラブコメドラマ『シングル・アゲイン』
- 涙、涙の、あの名作ドラマがついにファイナルシーズンへ…『POSE』シーズン3
- 人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
- 等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
- 近未来の台北・西門を舞台にしたポップでクィアでヅカ風味なシェイクスピア:映画『ロザリンドとオーランドー』(レインボー・リール東京2022)
- 獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
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