REVIEW
映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
あの『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンが伝説のテニスの女王、ビリー・ジーン・キングを演じます。彼女は元男子世界チャンピオンとの「負けられない戦い」に挑み、全女性の希望と期待を一身に背負ってコートに立ちますが、その陰で、実は女性と恋に落ち、レズビアンであることを自覚していて…という史実が描かれます。

あの『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンが、世界がその動向に注目するなか、次回作として伝説のビリー・ジーン・キングを演じたというのが本当に素敵です(『ラ・ラ・ランド』と全く対照的な役どころ。ビリーにそっくり)。元男子世界チャンピオンとの「負けられない戦い」に挑んだテニスの女王が、全女性の希望と期待を一身に背負い、コートに立つ姿の美しさ、そして、その陰で、実は、ビリーが女性と恋に落ち、レズビアンであることを自覚し、プライドを持ちはじめていた…という史実に胸を打たれます。素晴らしい作品です。レビューをお届けします。(後藤純一)
ビリー・ジーン・キングは1943年、カリフォルニア生まれ。お金を貯めて11歳のときに初めてラケットを買い、1961年(17歳)にウィンブルドン女子ダブルスで初優勝を飾り、1967年(23歳)にはウィンブルドンと全米選手権の2大会連続で「ハットトリック」(同一大会で女子シングルス・女子ダブルス・混合ダブルスの3部門をすべて制覇すること)を達成、世界ランキング1位になりました。そうして1983年に40歳で引退するまで、20年以上にわたり第一線で活躍しました。1970年代には男女プロテニス選手間の賃金や対応格差に声をあげ、1973年に男性が支配していたテニス協会から独立させる形で「女子テニス協会」を設立しています。女子テニスの歴史を通じての最大の偉人の一人に数えられています。
彼女は1965年にラリー・キングと結婚して「キング夫人」と呼ばれるようになりますが、1981年にレズビアンであることをカミングアウト(この時期のトップアスリートとしてのカミングアウトは、本当にスゴいこと。しかも現役時代です)、1987年に離婚が成立しています。
女性や同性愛者の権利向上のために長年闘い続けた功績を認められ、2009年にはオバマ大統領から大統領自由勲章を授与されています。







<あらすじ>
73年、女子テニスの世界チャンピオンであるビリー・ジーン・キングは、女子の優勝賞金が男子の8分の1であるなど男女格差の激しいテニス界の現状に異議を唱え、仲間とともにテニス協会を脱退して「女子テニス協会」を立ち上げる。そんな彼女に、元男子世界チャンピオンのボビー・リッグスが男性優位主義の代表として挑戦状を叩きつける。ギャンブル癖のせいで妻から別れを告げられたボビーは、この試合に人生の一発逆転を賭けていた。一度は挑戦を拒否したビリー・ジーンだったが、ある理由から試合に臨むことを決意する…。
テニス協会のおっさんたちの言い分が、本当にいやらしい(いまでも日本では平気で言ってそう)。はらわたが煮えくりかえります。別にフェミニストとかじゃない人でも、女性たちを応援したくなります。が、ビリーたちが「Battle of the Sexes(男女の戦い)」に勝利した、よかった、という単純な物語ではなく、もう少し複雑なジェンダーのありようが描かれています。
男性たちのなかにも、ギャンブルにハマって身を持ち崩し、女性を見下している下品なクズ野郎もいれば、本当に礼儀正しく、優しく、女性も対等に扱ってくれる紳士的な男性もいます。女性たちのなかにも、男に媚びを売っている、弱い自分を男がかばってくれると思っているタイプの女性もいれば、男女は平等であるという強い信念を持ち、一人の人間として自立しているタイプの女性もいます。
歴史は、男女それぞれ、前者タイプが支配的だった時代から、後者へと移行し、それとともに、LGBTも生きやすくなってきた、という流れになっています。この映画は、まさにその転換点を、ビリー・ジーン・キングという稀有な強さと信念をもったレズビアン女性がダイナミックに動かしたところを捉え、劇的に、美しく描いているのです。
ビリー・ジーンが(ルックス的にそういうイメージを持たれがちだと思うのですが)ただの怒れるフェミニストではなく、愛ゆえに、試合に臨む決心をしたというところも素敵です。
70年代、まだまだアメリカで同性愛者が市民権を獲得していない時代に、自身がレズビアンであることを自覚したとき、多くの人はものすごく動揺したり、不安になったりすると思うのですが、彼女は、愛をパワーに変え、プライドに変えていったというところもシビれます。
(ビリーに先立って挑戦したノンケ女性が、世間に対して一点の曇りもなく、なんらプレッシャーを感じる必要もないはずなのに…というのと対照的です)
皮肉なことに、当時のビリー・ジーンの夫だったラリー・キングが、本当に甲斐甲斐しく面倒を見てくれるイケメンで、その「できすぎ」感、非の打ち所のなさが、(のちに離婚するかと思うと)せつなくなります。ボビーみたいな男だったらさっさと捨てられるのに…。
女子選手たちのコスチュームを担当しているあからさまにゲイなキャラ(二人いるので、カップル?)が『チョコレートドーナツ』のアラン・カミングで、結構スパイスがきいた役だったりします。最後のセリフにぜひ、耳を傾けていただきたいです。カッコいいです。
バトル・オブ・ザ・セクシーズ
2017年/アメリカ/監督:バレリー・ファリス/出演:エマ・ストーン、スティーブ・カレル、アンドレア・ライズ、サラ・シルバーマン、ビル・プルマンほか
偉大すぎるレジェンド、ビリー・ジーン・キング
映画のレビューの前に、ビリー・ジーン・キングがどんな人だったのか、ということをお伝えしたいと思います。

彼女は1965年にラリー・キングと結婚して「キング夫人」と呼ばれるようになりますが、1981年にレズビアンであることをカミングアウト(この時期のトップアスリートとしてのカミングアウトは、本当にスゴいこと。しかも現役時代です)、1987年に離婚が成立しています。
女性や同性愛者の権利向上のために長年闘い続けた功績を認められ、2009年にはオバマ大統領から大統領自由勲章を授与されています。
映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』








73年、女子テニスの世界チャンピオンであるビリー・ジーン・キングは、女子の優勝賞金が男子の8分の1であるなど男女格差の激しいテニス界の現状に異議を唱え、仲間とともにテニス協会を脱退して「女子テニス協会」を立ち上げる。そんな彼女に、元男子世界チャンピオンのボビー・リッグスが男性優位主義の代表として挑戦状を叩きつける。ギャンブル癖のせいで妻から別れを告げられたボビーは、この試合に人生の一発逆転を賭けていた。一度は挑戦を拒否したビリー・ジーンだったが、ある理由から試合に臨むことを決意する…。
テニス協会のおっさんたちの言い分が、本当にいやらしい(いまでも日本では平気で言ってそう)。はらわたが煮えくりかえります。別にフェミニストとかじゃない人でも、女性たちを応援したくなります。が、ビリーたちが「Battle of the Sexes(男女の戦い)」に勝利した、よかった、という単純な物語ではなく、もう少し複雑なジェンダーのありようが描かれています。
男性たちのなかにも、ギャンブルにハマって身を持ち崩し、女性を見下している下品なクズ野郎もいれば、本当に礼儀正しく、優しく、女性も対等に扱ってくれる紳士的な男性もいます。女性たちのなかにも、男に媚びを売っている、弱い自分を男がかばってくれると思っているタイプの女性もいれば、男女は平等であるという強い信念を持ち、一人の人間として自立しているタイプの女性もいます。
歴史は、男女それぞれ、前者タイプが支配的だった時代から、後者へと移行し、それとともに、LGBTも生きやすくなってきた、という流れになっています。この映画は、まさにその転換点を、ビリー・ジーン・キングという稀有な強さと信念をもったレズビアン女性がダイナミックに動かしたところを捉え、劇的に、美しく描いているのです。
ビリー・ジーンが(ルックス的にそういうイメージを持たれがちだと思うのですが)ただの怒れるフェミニストではなく、愛ゆえに、試合に臨む決心をしたというところも素敵です。
70年代、まだまだアメリカで同性愛者が市民権を獲得していない時代に、自身がレズビアンであることを自覚したとき、多くの人はものすごく動揺したり、不安になったりすると思うのですが、彼女は、愛をパワーに変え、プライドに変えていったというところもシビれます。
(ビリーに先立って挑戦したノンケ女性が、世間に対して一点の曇りもなく、なんらプレッシャーを感じる必要もないはずなのに…というのと対照的です)
皮肉なことに、当時のビリー・ジーンの夫だったラリー・キングが、本当に甲斐甲斐しく面倒を見てくれるイケメンで、その「できすぎ」感、非の打ち所のなさが、(のちに離婚するかと思うと)せつなくなります。ボビーみたいな男だったらさっさと捨てられるのに…。
女子選手たちのコスチュームを担当しているあからさまにゲイなキャラ(二人いるので、カップル?)が『チョコレートドーナツ』のアラン・カミングで、結構スパイスがきいた役だったりします。最後のセリフにぜひ、耳を傾けていただきたいです。カッコいいです。
バトル・オブ・ザ・セクシーズ
2017年/アメリカ/監督:バレリー・ファリス/出演:エマ・ストーン、スティーブ・カレル、アンドレア・ライズ、サラ・シルバーマン、ビル・プルマンほか
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