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REVIEW

映画『Girl/ガール』

15歳のMtFトランスジェンダーであるララが、家族や先生たちも理解し、応援してくれているなかでバレエ学校に入学し、他の女子生徒たちと並んでバレリーナを目指すという壮絶なチャレンジを描いた、実話に基づく作品です。 

映画『Girl/ガール』

 バレリーナになるために奮闘するMtFトランスジェンダーのララと、彼女を支える父との絆が描かれ、夢に向かって美しく踊り続けるララの姿が胸を打つ作品。実際にMtFトランスジェンダーでバレエ学校に通っていたノラ・モンセクールが体験した実話をもとに製作されており、ロイヤル・バレエ・スクールのトップダンサーであるビクトール・ポルスターがオーディションで5000人の中から選ばれ、ララを演じています。
 ルーカス・ドン監督のデビュー作である『Girl/ガール』は、カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)やクィア・パルム(最も優秀なクィア作品に贈られる賞)など4冠に輝き、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞(5本のうちの1本)にもノミネートされるという快挙を成し遂げました。ルーカス・ドンはオープンリー・ゲイで、「ニュー・ドラン(第2のグザヴィエ・ドラン)」とも称されています。
 ちなみに、バレエ学校で生徒たちが最初の公演に向けてレッスンを重ねていく、そのダンスの振付を担当したのは、ベルギーが誇る世界的な振付家・演出家・ダンサーでオープンリー・ゲイのシディ・ラルビ・シェルカウイです。
  
<あらすじ>
15歳のララの夢はバレリーナになること。しかしそれは簡単なことではなかった。彼女は男の体に生まれてきたから。それでも強い意志と才能、娘の夢を全力で応援してくれる父に支えられ、難関のバレエ学校への入学を認められる。夢の実現のため、毎日厳しいレッスンを受け、血のにじむような努力を重ねていくが――。

 これまでは、男の子のくせにドレス着たり男の子に恋したりしてどういうこと?おかしいんじゃないの?という周囲の無理解・偏見と闘ったり(『ぼくのバラ色の人生』1997)、男のくせにバレエをやりたいだなんてどういう了見だ?ボクシングをやれ!という父との葛藤だったり(『リトル・ダンサー』2000)、そういう映画が人々の胸を打ち、名作として語り継がれてきました。では、ホモフォビアやトランスフォビアがほとんどなくなった世界で(トゥシューズに画鋲を入れられることもなく)、周囲の人たちも理解し、応援してくれているなかで、MtFトランスジェンダーの少女がバレリーナを目指すとしたら、どういうことになるんだろう?というのが、この『Girl/ガール』という作品です。架空の実験ではなく、ベルギーのノラ・モンセクールという実在のMtFトランスジェンダーがモデルになっていて(そもそも彼女のことを新聞記事で知った監督が、ぜひ彼女についての映画を撮りたいと切望し、実現。ノラが全面的に監修しています)、このうえなくリアルなお話です。
 
 父親も理解があって全力で応援してくれて、学校側も差別せずニュートラルに接してくれて(平等に、能力で判断し、入学も許可してくれます)、フォビアがほとんどない世界で、「あとはあなたの頑張り次第よ」ということになった時、トランス少女はどこまで自分の理想に近づけるかという、ある意味、すべて自己責任であり、自分との闘いであるという厳しさが描かれます。一方で、やはり、男性の体に生まれたことがバレリーナを目指すうえでの障害になっていることは間違いなく、(男の子とも恋をしたいし)早くホルモン治療をはじめて女性の体に近づきたいというイライラもつのり…。まだ体が男性であるがゆえに同じ学校の女子たちから好奇の目で見られ、ハラスメントを受けるという残酷な経験もして。そんないろいろを乗り越えて、想像を絶するような努力をして、バレリーナになるという高い高い目標を掲げ、チャレンジします。その姿は崇高で、本当に美しい。しかしそれは、果てしなく壮絶な闘いなのでした…。
 
 すでに聞き及んでいる方もいらっしゃるかもしれませんが、この映画はいくつかの点で批判も受けています。
 まず、トランスジェンダーをシスジェンダーの人物が演じていることへの批判。これは、バレエのシーンを十分に演じられる若いMtFトランスジェンダーの役者がいなかった、ということのようです。
 女子会でのハラスメントのシーンや、終盤のイタすぎる展開についても「性器に固執しすぎている」「シス男性の目線そのものだ」といった批判がありました。
 こうした批判に対し、監督もノラも、「この映画はトランスジェンダーのコミュニティを描いているのではなく、ノラ・モンセクールという人物の体験を描いたものだ」と語っています。そして、ノラ自身も、その家族(ご両親と双子の兄)も、この作品を全面的に支持しているということはお伝えしておきます。ノラは「このような批判は、トランスジェンダーの物語を世の中に共有することへの妨げになるでしょう。さらに言えば私を黙らせようとしているかのようです。監督や主演俳優がシスジェンダーだからララの描写が不適切だ、という批判こそが私を傷つけています」と語っています。
(ノラとその家族のストーリーはこちらに詳しく書かれています。今は立派にプロ・ダンサーとして活躍しているそうです。また、ご両親はトランスジェンダーの子どもを持つ家族の会を立ち上げたそう。素晴らしいです)
 
 個人的には、バレリーナは無理でも、劇団四季に出るような人にはなれるかもしれないと夢見ていた15歳の頃の自分の、叶えられなかった夢を、ララが全身全霊で実現しようとしている姿に、涙を禁じえませんでした。たぶん世界中の、ダンサーを目指す男の子たちや、バレリーナになることを夢見たことのあるクィアな人々が、ララの姿にシンクロし、手に汗を握りながら応援したはずです。それだけでも十分、この映画には価値があると思います。
 


『Girl/ガール』Girl
2018年/ベルギー/105分/監督:ルーカス・ドン/出演:ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテほか/7月5日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国にて公開
(c)Menuet 2018

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