REVIEW
映画『ドリームボート』
ヨーロッパのゲイクルーズのドキュメンタリー映画です。パーティのキラキラでセクシーで楽しいシーンだけでなく、様々なバックボーンを持つゲイの方たちにフォーカスし、彼らの生き様や思いを伝えてくれます。
2017年に製作されたドイツ映画『ドリームボート』は、ゲイクルーズのドキュメンタリーで、ベルリン国際映画祭のテディ賞にもノミネートされた作品です。
ゲイのクラブパーティってこんなだよね、というセクシーでグラマラスでファビュラスなシーンがたっぷりと描かれています。今までこんなにリアルで生々しいゲイの姿を大量に描いた映画って、たぶんなかったと思います。素晴らしいです。
ゲイクルーズ未体験の方にとっては、きっと豪華客船自体のゴージャスさや、そんな船の中で、あられもない姿で歩き回ったり、セクシーなコスチュームに身を包んだ何千人ものゲイたちがひしめきあうパーティのシーンに、新鮮な驚きを感じていただけると思います。そして、ちょっとすれ違ったりパーティで近くにいた人に「やあ」とか、「その衣装、素敵」などと気さくに話しかけたり、友達ができたりするような、ゲイクルーズならではの空気感もよく表れています(ちなみに本サイトでもゲイクルーズのレポートを載せておりますので、よかったら読んでみてください)
たぶんこの映画で撮影されているのは、フランスの「La Demence」という会社の「The Cruise」というゲイクルーズで、MCのドラァグクイーンがフランス語で話していたので、マルセイユ〜ナポリ〜イビザとかの地中海クルーズだと思われます。
アメリカのAtlantisのゲイクルーズとほぼ同様なのですが、乗ってる方たちがヨーロッパの方たちなので、皆さんオシャレで、パーティのコスチュームのクオリティがスゴいなあと。驚いたのは、ホワイトパーティやブラックパーティだけじゃなく、ドレスコードが女装というパーティがあったことです(攻めてますよね〜オシャレ!) ハイヒールレースっていうのもやってました。その辺りはアメリカにはないカルチャーです。
そんなゲイクルーズの、キラキラでイェイイェイなところだけじゃなく、乗っている様々なお客さんにフォーカスし、彼らがどんなバックボーンを持っているのかとか、何に悩んでいるのかとか、クルーズ船に乗ってどんなふうに考え方が変わったのか、といった「心の旅」も描かれています。
保守的でゲイに厳しいポーランドからイギリスに移って、今はこうしてゲイクルーズにも乗ることができているモテ筋ボーイ。ヤリたい、出会いたい人だらけのゲイクルーズで、その気になればいくらでもヤレそうな、GOGO BOYみたいな見た目なのに、パーティ会場を抜け出して一人、泣いたりしています。
「ヤリたがる人はいっぱいいる。でも、体目当てじゃなくて、ありのままの自分を愛してくれる人と関係を築きたい。いつか普通の人生を送りたい」
ゲイの人生に疑問を感じているモテ筋くんに、同室の黒人さんは語ります。
「ゲイに生まれて一つよかったことがあると思ってる。ぼくらは世界中に家族がいる。大きな家族の中の一人なんだ」
とてもじゃないけどゲイとして生きていけないパレスチナからベルギーに移住したちょっとオネエ入ってるマッチョさんは、「ベルギーでは警官がパレードを守ってくれるんだ。信じられる? 何か差別を受けたとしても警官が守ってくれる。私の国では逆。逮捕される」と語ります。「友達は母親にカミングアウトしたら、家を追い出された。もう20年も会えてない」
インド出身で今はドバイで暮らしている方は、「魅力的でないゲイ」が味わう現実に打ちひしがれています。「この船に乗って、ふだんは感じることがないような孤独感に苛まれている」「みんな気にするのは、いいケツといいペニス」
フランスから、車椅子の方と、杖をついて歩く方のカップルも来ていました。車椅子の方はとてもポジティブに人生を謳歌している方で、ミレイユ・マチューというフランスの人気シャンソン歌手のジャケットを持ってパーティに参加し、「車椅子だとちょうど目線が股間の位置なんだ」と笑い、楽しんでいます。ほとんど手の力だけでボルダリングにもチャレンジし、周りから拍手が起こるシーンは、ちょっとジーンときました。
自分らしくあろうとすることと体を鍛えてヒゲを生やしてモテ筋になろうとすることの矛盾、出会いのこと、恋愛のこと、パートナーシップのこと、HIVのこと、ロールモデルがいないということ、宗教が同性愛を否定する国の厳しさのこと、カミングアウトの困難…ハッピーなシーンの中に、いろんな悩みを抱えている人たちの声が、ミックスされます。
乗船客の一人は、こう言います。「自分のセクシュアリティは悪いことだと思ってた。でも、この船に乗って、全く逆だとわかった」
ゲイクルーズは、ただの乱痴気騒ぎでも乱交パーティでもなく(その気になればいくらでも騒げるし、ヤレますが)、ゲイに生まれて良かったと思える、自分自身を肯定的に受け入れられるような、PRIDEが持てるような機会でもあるということを物語っていました(これは本当にそうで、ぜひ、できるだけたくさんの方に乗ってみていただきたいです。一生に一度はぜひ!)
ドリームボート
2017/ドイツ/監督:Tristan Milewski
Netflixで配信中
INDEX
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
SCHEDULE
- 05.18An Evening with ALASKA
- 05.18SPECTRUM vol.1
- 05.18GLOBAL KISS
- 05.18PIERROT OKINAWA 19th anniversary
- 05.19OPULENCE Vol.4