REVIEW
映画『ジュディ 虹の彼方に』
『オズの魔法使』で知られるハリウッド黄金期のミュージカル女優・不世出の大スタァであり、偉大なゲイアイコンであるジュディ・ガーランドの生き様、晩年のステージでの輝きを描ききった作品。ゲイカップルとの友情のエピソードが泣けます。

映画『ジュディ 虹の彼方に』は、『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』のように、レジェンドとなっている大スターの生き様を描いたミュージカル的な伝記映画なわけですが、単に前2作のヒットに便乗して製作されたわけではありません。2019年に発表されたことに、特別な意味があります。というのも、2019年は、ジュディ・ガーランドの没後50周年であり、ストーンウォール50周年の年でもあるからです。
ジュディ・ガーランドは、『オズの魔法使』で知られるハリウッド黄金期のミュージカル女優であり、世紀の大スタアでした。そして、同性愛がまだ違法だった時代に、「ゲイのファンが多いのは気にならないか?」と尋ねられて「全然。私はすべての人たちのために歌うから」と答えるほどのアライでした(当時、多くのゲイたちを勇気づけたそうです)
1969年6月22日、ジュディは睡眠薬の過剰摂取によって47歳の若さで急逝、6月27日の夜、NYで葬儀が行われ、2万人以上のファンがジュディとの永遠の別れを悲しみました。そして明けて28日の未明、バー「ストーンウォール・イン」に摘発が入り、「ジュディの死を悼んでるこんな日に!」とキレたゲイたちが警官に抵抗しはじめ、ストーンウォール暴動が始まった、と長い間まことしやかに語られていました(のちにこの逸話は事実ではなかったと訂正されますが、ゲイが自分たちのことを「フレンズ・オブ・ドロシー」と呼び、世界中のパレードで『オズの魔法使』の劇中歌である『Over the Rainbow(虹の彼方に)』が歌われるほど、強く信じられていたのです。ジュディは元祖にして最高のゲイアイコンでした)。世界を代表するLGBTマガジン『Advocate』誌は、「ジュディ・ガーランドとはゲイネスと同義であり、彼女はゲイにとってのプレスリーだ」という記事を掲載しています。
ジュディ・ガーランド自身もバイセクシュアルであったことはあまり知られていないかもしれません。(2度目の)夫であるヴィンセント・ミネリもバイセクシュアルでした。二人の間に生まれた娘であるライザ・ミネリも映画に登場しますが、ライザも、結婚したピーター・アレン(ジュディがピーターの才能を見出し、ショーの前座に起用したことがきっかけです)がゲイだったという『キャバレー』を地で行くような人生でした(ライザもまた、ゲイから絶大な支持を得ました)。そのあたりのことは今回の映画『ジュディ 虹の彼方に』には描かれていませんが、アメリカのゲイピープルにとって伝説的な(神話的と言ってもいいかもしれません)存在であるジュディ・ガーランドがどういう人物だったのか、その生き様やステージ上での輝き、そしてゲイとの友情を、亡くなる半年前のロンドン公演にフォーカスして描いた作品です。
それこそ『オズの魔法使い』に出演していた子役時代から(痩せるために)クスリ漬けにされ、子どもらしいことを何一つさせてもらえず、ハリウッドという徹底したショービズの世界に飼い殺されていた、そんな子ども時代のことが時々フラッシュバックし、酒やタバコやクスリに頼りながらなんとか不安やプレッシャーを乗り越え、ステージ上では最高のショーを披露する、そんなジュディの生き様がリアルに描かれます。







ジュディが唯一、心を許し、息抜きができたのは、ゲイたちと過ごす時間だったということが、ものすごく重要なエピソードとして描かれているところが、素晴らしいです(この映画のいちばんの感動ポイントがゲイカップルとの友情にあることは間違いありません)。子どもたちへの愛情を除けば、ジュディが他人のために何かしてあげる、無私の気持ちを見せるのは、このゲイカップルだけだったと思います(ほかはぶっちゃけ、お金のためです)。ゲイの人たちはいわれのない差別を受けたり、逮捕されたりして※、かわいそうだから、とかではなく、純粋に、心からの友達なのです。
※イギリスにはソドミー法(同性間の性行為を有罪と見なす刑法)があり、オスカー・ワイルドもアラン・チューリングも逮捕・投獄されました。ソドミー法が撤廃されたのはイングランドとウェールズで1967年、スコットランドで1980年、北アイルランドでは1982年でした。同性愛が非犯罪化された後も、病気であるなどの偏見に晒され、厳しい時代が続きました。
『シカゴ』『ブリジット・ジョーンズの日記』などに出演し、(ジュディほどではないにせよ)ゲイの間で人気が高かったレニー・ゼルウィガーが、ジュディ役を演じました。ジュディがゲイカップルと交流を深めるシーンの演技の自然さは、レニー自身が私生活でゲイの友達と過ごしてきたことを物語っていると思います。レニーはジュディ・ガーランドを研究しまくり、しゃべり方や声色までそっくりに再現し、劇中の歌もすべて自分で歌っています。その迫真の演技により、見事、アカデミー主演女優賞を獲得しました。
もう少しだけ、これからご覧になる方のために補足すると、ジュディ・ガーランドは生涯で5度結婚していて、この映画に登場する(ローナとジョーイ、2人の子どもたちを養育する)元夫のシドニー・ラフトは3番目の夫です。ショービズの世界の住人であったシドニーは、ジュディの復帰作となる映画『スタア誕生』の企画をジョージ・キューカー監督に持ちかけた人です。
それから、ジュディの最後の夫となるミッキー・ディーンズを演じたフィン・ウィットロックは、『ノーマルハート』や『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』、『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズなどライアン・マーフィ監督作品に多数出演してきた俳優です。
レニー自身が歌う、この映画を彩る素晴らしい楽曲の数々が収められたサントラも見逃せません。1曲目は、映画の大事なシーンで切々と歌われる『By Myself』。私は一人で自分の道を行く、と、ジュディ自身の生き様を表すかのような名曲です。劇中で歌われた曲以外にも、なんと、サム・スミスとのデュエット『Get Happy』やルーファス・ウェインライトとのデュエット『Have Yourself A Very Little Christmas』も収録されています。二人ともゲイで、ジュディに多大な影響を受けた歌手です。

ジュディ 虹の彼方に
原題:Judy/2018年/イギリス/監督:ルパート・グールド/出演:レニー・ゼルウィガーほか/2020年3月6日(土)全国公開
(c)Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019
INDEX
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