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REVIEW

若き天才監督のスタイリッシュでスリリングな傑作映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』

若き天才監督グザヴィエ・ドランが豪華キャストを起用して製作したスタイリッシュでスリリングなエンタメ作品。その才能がいかんなく発揮された集大成的な傑作です。ゲイの監督だからこその思いも込められています。

若き天才監督のスタイリッシュでスリリングな傑作映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』

 10代の時のデビュー作『マイ・マザー』がカンヌ国際映画祭で三冠を獲得し、「天才」「神童」「アンファン・テリブル(恐るべき子ども)」の名をほしいままにし、『Mommy/マミー』は同じくカンヌで審査員賞を受賞、2017年の『たかが世界の終わり』はカンヌでグランプリ(2位)に輝き、弱冠26歳にして史上最年少でカンヌの審査員も務め、世界の映画界の注目を集める若き天才、グザヴィエ・ドラン。その新作『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』が公開されました。



<あらすじ>
2006年、ニューヨーク。人気俳優のジョン・F・ドノヴァンが29歳の若さでこの世を去る。自殺か事故か、あるいは事件か、謎に包まれた死の真相について、鍵を握っていたのは11歳の少年ルパート・ターナーだった。10年後、新進俳優として注目される存在となっていたルパートは、ジョンと交わしていた100通以上の手紙を1冊の本として出版。さらには、著名なジャーナリストの取材を受けて、すべてを明らかにすると宣言するのだが……。



 冒頭からドラン節が全開で、シビれました。何かよくない出来事が起こっていることを示唆するシーン。エスプレッソマシーンの勢いよく吹き出る湯気。ニューヨークのカフェで、言い争う親子。そして、若きスターであったジョン・F・ドノヴァンの突然死を伝えるテレビニュース。アデルの「Rolling in the Deep」がガンガン流れるなか、カメラは海面をなぞるように猛スピードで走っていますが、やがて目の前に、ニューヨーク・マンハッタンの摩天楼が現れます。そして、ニューヨークでジョン・F・ドノヴァンが最もきらびやかな俳優生活を送っていた頃のシーンへとつながります。
 アデルを持ってくるところがステキ!と思っていたら、アデルはもともとドランの大ファンで、ドランはアデルからのラブコールで大ヒット曲「Hello」のPVを監督しているという縁があるんですね。



 冒頭だけでなく、ドラン作品ならではの映像や音楽のスタイリッシュさとか、ヒリヒリするような人間関係とか(特に母親との関係)、ドランのゲイとして堂々と果敢に世界に立ち向かっていく姿勢とかが集大成的に盛り込まれた作品、そしてやりたいことを思う存分やれた感が伝わってきます。ラストシーンにいたるまで、シビれっぱなしでした。
 これまで、カンヌでいくたびも賞に輝き、審査員さえ務めるほど世界的に高く評価されてきたドランが、満を持して、豪華キャストを起用してやりたいことをやって、最高にカッコいいエンタメ作品を撮り上げた、そんな作品だと思います。


 
 実は今回の作品は、ドランの新作だから観に行ったのであって、ゲイ映画だと思ったからではありませんでした。しかし、期せずして(というか、オープンリー・ゲイで、これまでもさんざんゲイのことを描いてきた監督なのだから驚くことでもないのですが)ゲイに関することが描かれていました。
 そして今、頭を抱えているのですが、いかにストーリーの核心にふれずにゲイ的な部分を伝えるかというところが本当に難しいです。
 ただ、もうある程度ネット上でも書かれてしまっているし、なるべくストーリーにふれないよう、一点だけお伝えしたいのは、この作品が、世の人々のゲイへの蔑視(ネタにされたり、いじめられたり、芸能人であればスキャンダルにされるような)や偏見がいかに当事者を苦しめるかということの告発である、ということです。
 ドランは若き天才映画監督であるというだけでなく、最初からゲイであることをオープンにしています。おそらく、ゲイであるがゆえに、子どもの頃は学校でいじめられたり、殴られたり、映画の世界で成功してからも、なんだかんだ言って男社会(ホモソーシャル)だったりする映画業界のノンケ男たちから、どこか軽く見られたり、ばかにされたり、興味本位でゲスな質問を浴びせられたり、嫌な目に遭うことも多々あったと思うのですが、ドランは堂々と、肩肘張って(プライドを持って)果敢に、そんなノンケ男たちのクソ社会に立ち向かい、認めさせてきたと想像します。そんなドランのルサンチマンというか怨念(恨み節)が、この映画で炸裂しているように感じました。
 ドラン作品には、必ずと言っていいほど、ヒリヒリするような、イタくて、重苦しい場面が描かれてきました。ある種の人間の狂気、人間関係の恐ろしさです。今回はそういう部分が割とライトだったのですが、代わりに、ド直球で、同性愛嫌悪(ホモフォビア)がいかにゲイを苦しめるかということがリアルに描かれたのです。ずっとドラン作品を追いかけてきたゲイのファンとしては、それはとても感慨深いことでした。


 
 もう一点、(こちらの記事にもすでに書かれていますが)この映画はリヴァー・フェニックスへのオマージュだったということをお伝えしたいと思います。
 先日のアカデミー賞で『ジョーカー』に主演してオスカーを獲得したホアキン・フェニックスが、受賞スピーチで兄リヴァーの言葉を引用していたのも記憶に新しいところですが、リヴァー・フェニックスほど、(ジェームズ・ディーンの再来とも言われるほど)美しく、鮮烈なインパクトを与え、将来を嘱望されながら、若くして突然亡くなり、世界に衝撃を与えたという俳優もいないだろうと思います。こちらの記事に詳しく紹介されていますが、『スタンド・バイ・ミー』での、ちょっとガタイがよくて荒々しい感じの、それでいながらナイーブさも感じさせる犯罪的にセクシーな男の子の役(子どもに興味のない私でも、『スタンド・バイ・ミー』のリヴァーだけは、別でした)からレジェンドが始まり、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』ときて、そして、キアヌ・リーヴスと共演した『マイ・プライベート・アイダホ』での突然眠りに落ちてしまう病を抱えた男娼のストリート・チルドレンという役の切なさ、美しさは、映画史に燦然と輝く奇跡、人類の宝です(ちなみに『マイ・プライベート・アイダホ』を監督したのは、少年を撮らせたら右に出る者はいない(と個人的に思っている)ガス・ヴァン・サントでした)
 リヴァー・フェニックス自身はゲイではなかったのですが、家族で入信していた怪しい教団で子どもの頃から性的虐待を受けていて(4歳の時に童貞を奪われたと発言しています)、スクリーンでまばゆいばかりのセクシーな輝きを放ち、おそらく当時のアメリカのゲイピープルは、そんなリヴァーにシンパシーを抱きつつ、崇めていたと思うのですが(エイズ禍の時代だったので、それどころではなかったかもしれませんが)、1993年、ウェストハリウッドのクラブで薬物の過剰摂取で倒れ、23歳の若さで亡くなったことは、文字通り世界に衝撃を与えました。人気絶頂で、これからスターダムにのしあがっていくだろうと目されていた時に、まさかの突然死…信じられませんでした。
 映画の紹介記事では、「ドランが幼いころ、憧れていたレオナルド・ディカプリオに手紙を送ったという自身の経験から着想を得た」と書かれていますが、実はリヴァーへのオマージュであるということは、重要なシーンで「スタンド・バイ・ミー」が使われていることや、『マイ・プライベート・アイダホ』の有名なカット(キアヌとリヴァーがバイクに乗ってる)を模したカットが見られることでも明らかだと思います。
 ちなみに、この『マイ・プライベート・アイダホ』オマージュであるバイクに乗ってるカットで、後ろに乗っている人は、『パレードへようこそ』でマイクを演じたベン・シュネッツァーでした(いろんな意味で感涙モノでした)
(なお、『マイ・プライベート・アイダホ』は、amazon prime videoで199円で観れます。ぜひご覧ください)

 最後に、きっとドランがワクワクしながらキャスティングしたであろう、豪華キャストを紹介しましょう。
 ジョン・F・ドノヴァンを演じる主演俳優は、日本ではそれほど知名度は高くないかもしれませんが、『ゲーム・オブ・スローンズ』のジョン・スノウ役で知られるキット・ハリントンです。たぶんドランがいちばんカッコいいと、イケると思ってオファーしたのがキット・ハリントンだったんだと思いますが、キホン男らしくて、でも甘い感じで、ヒゲがよく似合って、唇がちょっと厚くて、ものすごくエロいです。たぶんノンケの監督だと、こういうタイプは選ばないと思うんです。ゲイ受けするセクシー俳優です。そしてドランは、まるでソフトポルノ映画を観ているかのような錯覚を起こさせるくらい、彼のそのセクシーな表情をこれでもかと、たっぷりと(執拗に)描いています。
 そして、あのキャシー・ベイツ(『ミザリー』『アメリカン・ホラー・ストーリー』など)です。今回はそんなに怖くないですが、キャシー・ベイツだ!と思うと、なんでもないシーンでもニヤニヤしながら観てしまいます。
 ナタリー・ポートマン(『レオン』『ブラック・スワン』など)と、スーザン・サランドン(『ロッキー・ホラー・ショー』『テルマ&ルイーズ』など)が、ドラン作品の(一筋縄ではいかない)母親を演じました。二人ともレズビアン的な映画(『ブラック・スワン』『テルマ&ルイーズ』)で高く評価されたという共通点がありますね。
 そして、繰り返しになりますが、『パレードへようこそ』でマイクを演じたベン・シュネッツァーが、大人になったルパートを演じていて、もしそういう意味で(『パレードへようこそ』へのオマージュとして)彼を起用しているのだとしたら、ドランに敬意を表しますし、そうでなくても、個人的にマイクLOVEなので、彼が出てたのはとてもうれしかったです。

 ぜひ、映画館でご覧ください。このご時世でも、そこそこ混んでいた(マスクをしてる人も多数。誰も咳ひとつせず、食い入るように観ていました)のは、さすがドラン、と思いましたが、いっぱいで入れないということはないと思います。東京ですと、YEBISU GARDEN CINEMAか、ヒューマントラストシネマ有楽町の水曜日のサービスデー(1200円)が狙い目だと思います。
 


ジョン・F・ドノヴァンの死と生
原題:The Death and Life of John F. Donovan
2018年製作/123分/PG12/カナダ・イギリス合作
監督:グザヴィエ・ドラン/出演:キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、スーザン・サランドン、ジェイコブ・トレンブレイ、キャシー・ベイツ、タンディ・ニュートン、サラ・ガドン、エミリー・ハンプシャー、マイケル・ガンボン、ベン・シュネッツァーほか

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