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愛と自由とパーティこそが人生! 映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』レビュー

ゲイの水球チームに参加していた監督の実体験をもとに、ゲイゲイしいドタバタやセクシーなパーティ、愛と友情を描いた映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』が7/9から公開されます。

愛と自由とパーティこそが人生! 映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』

 フランスに実在するゲイの水球チームを描き、本国で大ヒットを記録した映画『シャイニー・シュリンプス!』が、いよいよ公開されます。実際に「シャイニー・シュリンプス」のメンバーだったセドリック・ル・ギャロ監督の体験に着想を得て製作された作品で、ゲイ差別発言をした罰としてチームの面倒を見るハメになるノンケコーチが、クロアチアで開催されるゲイゲームズを目指してみんなをビシバシ鍛えるというストーリーです(ちょっと『アタック・ナンバーハーフ』に通じるものがあるかも)。ゲイゲイしいキャピキャピしたドタバタ感や、セクシーなパーティ、愛と友情、そして陰で苦悩している姿などもリアルに描かれるとともに、次第に仲間になっていく様が感動を呼び起こします。「昔はゲイの友人が一人もいなかった」と話すギャロ監督は、それぞれが悩みを抱えながらも、お互いをありのままに受け入れるチームとの出会いが「人生が変わるほどの経験」だったと語っています(詳細はこちら)。ゲイゲームズの雰囲気なども伝わる、笑えて泣けるゲイ映画です。日本での公開を前に、続編の製作が決定し、今度は東京で開催されるゲイゲームズを目指すものの、乗り継ぎ便に乗り遅れてしまい、ゲイに厳しいロシアで立ち往生…というストーリーになるそうです(詳細はこちら







『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』レビュー

<あらすじ>
同性愛者への心ない発言の罰として、元水泳選手でオリンピック銀メダリストのマチアスが、ゲイのアマチュア水球チーム「シャイニー・シュリンプス」のコーチに就任する。マチアスに課されたミッションは、この弱小チームを3ヵ月後にクロアチアで開催されるゲイゲームズに出場させること。しかし、「シャイニー・シュリンプス」はパーティが大好きで、試合の勝ち負けにはこだわらないお調子者の集団。練習する気もなく、はしゃいで⽔着を脱ぎ捨てて投げつけたりする始末…。いつもポジティブでハッピーオーラ全開の彼らとは反対に、終始しかめっ⾯のマチアス。まともに練習しないメンバーにイライラし、適当にコーチをやり過ごそうとしていたものの、⾃⾝をチームに招き⼊れたリーダーのジャンが病気を隠し、余命わずかな時間を仲間と⼀緒に楽しみたいと望んでいることを知ってしまい……。

 楽しそうな映画!っていうのと、ゲイゲームズの素晴らしさをどのように描いているかっていうところで期待して観たのですが、ただ面白いだけの映画ではなかったです。感動がありました。

 これはちょっとやり過ぎなのでは…(汗)とか、ロコツにオネエ…(汗)と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、監督さん自身このチームにいて、実際に体験したことをリアルに描いているので、「ステレオタイプ」には当たらないと思います。それに、よくよく考えると、確かにこういうハッチャけた人もいるよね、確かにこういう脱ぎたがりの人もいるよね、いろんな人いるわ、って納得するのでは?(BL映画に出てくるような、仕草とか口調とかノリとかもノンケと全く変わらないロン毛のイケメンのほうがリアルじゃないですよね) そんな感じで、いつもキャーキャー、バカ騒ぎやってるチームなのですが、気づけば、めっちゃ感情移入してるし、試合に勝ってほしいと思うし、みんな仲良くしてほしいと思うし、ラストシーンはきっと泣くと思います。

 TVレポーター(たぶんゲイの人)に成績不振のことをチクリと言われて思わず「このホモ野郎!」と怒鳴ってしまい、水泳協会から処罰を受け、ゲイの水球チームのコーチをいやいや務めることになるマチアスが、娘がシャイニーシュリンプスを気に入ったり、主将のジャンが余命いくばくもない体であることを知ったり、いろいろあって、チームに本気で入れ込み、ゲイのみんなのことを仲間として好きになっていく様も、本当に素晴らしいです。
 
 ゲイゲームズ会場となったクロアチアの街では、夜、巨大なプールがあるハッテンサウナのようなクラブのような場所でド派手なパーティが繰り広げられます。このシーンは本当にステキでした。日本でも早く(コロナ禍が収束して)こういうイベントが開催されるようになってほしい…と思いました。
 それとも関係するのですが、実は、この映画の最も素晴らしいところは、友達とバカ騒ぎするのが大好きだったり、歌やダンスやパーティが大好きだったり、女装したり、セクシーでド派手なイベントを楽しんだり、ちょっとハメを外したりっていう、ゲイゲイしい人生の、ともすると頭の固いノンケさんたちが軽蔑したり拒絶したりするような部分をこそ、最高に泣ける、感動的な演出で讃美して見せたところだと感じます。
 愛と自由とパーティこそが人生!です。
 言い換えると、これは(LGBTQの権利擁護などと並ぶ)ゲイのPRIDEに裏打ちされた作品であり、心から「これは自分たちのための映画だ」と思える貴重な映画になっているのです。

 変にゲイを美化しないところも、この映画の良いところです。
 ゲイだっていろんな人がいて、別にオシャレでもなく、イケメンでもなかったりする。欠点もあるし、フォビアもある。不真面目な人もいれば、何かをこじらせた人もいる。10人くらいのチームだとウマが合わない人もいるし、ケンカもする。全部ありのままに描かれています。
 それでも、「同じ釜の飯を食う」じゃないですが、一緒に練習を頑張って、一緒にバスに乗って旅をして、一緒にゲイゲームズの晴れ舞台に立って、というなかで、友情が育まれていくんですよね。特に地方から出てきたばかりとか、まだゲイかどうか定まってないような方など、なかなかゲイの友達を見つけられない方にとっては、サークルが居場所であり、そこでいろんな経験をして、自分を肯定できたりもするし、なんだかんだ言っても大切な仲間だし、かけがえのない時間を過ごせるっていうリアリティ。真実だと思います。

 あと、パリを出発してクロアチアまでバスで行くのですが、そこはかとなく『プリシラ』感があって、よかったです。巨大なハイヒールのオブジェに乗ってドレスをたなびかせたりはしないのですが、歌ったり踊ったり、田舎のホモフォビアな男たちにからまれたり、悩みが明らかになったり、道中に起こる様々な出来事が、単に旅の思い出であるというだけでなく、重要な意味を持つシーンだったりしました。

 というわけで、本当に良い映画だったのですが、一点、お断り(注意事項)がございます。
 ストーリーに触れるのであまり具体的には書きませんが、日本語字幕でレズビアンへの差別的な言葉が使われています…それはシャイニーシュリンプスのメンバーから発せられたセリフで、その後に「差別用語だろ」というツッコミが入るため、その言葉を用いたそうです。また、全くオネエではないゲイの人物に対して「〜よ」などという語尾をつけている箇所もあり…映画自体が本当に良かっただけに、もったいないと思いました。
(実はもっといろいろあったのですが、宣伝会社を通じて意見を送った結果、配給会社のほうで可能な限り修正してくださいました。そのことには感謝申し上げます)
(昨年は『マティアス&マキシム』の宣伝で、主人公の2人の男性が並んで座っている映画のイメージフォトを男女に置き換えたイラストをポスターにしたという事件などもありました。日本の映画産業に携わる方たちは、炎上を未然に防ぐためにも、もう少しLGBTQへの理解を深める努力をされたほうがよいのではないでしょうか…)
 
シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち
原題:Les crevettes pailletees
2019年/フランス/103分/監督:セドリック・ル・ギャロ マキシム・ゴバール/出演:ニコラ・ゴブ、アルバン・ルノワール、ミカエル・アビブル、デビット・バイオットほか
7月9日から東京のヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開

【追記】 
 映画.comの「シャイニー・シュリンプス!」監督の人生を変えた、ゲイの水球チームとの出会い「人と違うことは素晴らしい」という監督へのインタビューを掲載した記事がとてもよかったです。
 監督は、映画の「シャイニー・シュリンプス」のキャラクターのそれぞれに「ちょっとずつ僕が入っている感じです」「人生のいろんな段階の僕が、キャラクターの誰かに当てはまります」と明かしています。
 いちばん素晴らしかったのは、このコメントです。
「ジャンの『みんながみんな、ゲイであるチャンスを手にしているわけではないからね』というセリフは、それを何度も言うメンバーがいて、僕自身もまったくその通りだと思ったので、盛り込みました。みんなが『ゲイでよかった、ラッキーだった』と本当に思ってるんです。だから今回、ゲイであることを問題としてではなくポジティブなことだと捉える見方もあるんだ、ということも映画で示したかったことのひとつです」
 また、チームのメンバーに「これは自分たちの話だ」と思ってもらえたり、クラブで出会ったゲイの人に「あの映画を作ってくれてありがとう。ようやく両親にも『これが僕の人生だからぜひ観て』と伝えられます」と言ってもらえたと語っています(最高の褒め言葉ですね)
 実際の「シャイニー・シュリンプス」の画像も公開されていました(映画よりもずっとイイ男がたくさん!)





おまけ:ゲイゲームズについての予備知識

 映画の中でも「ゲイの存在と団結を世界に示す場」というセリフがありましたが、ゲイゲームズは、同性愛が禁じられているような国の人も安心して参加でき、世界中のLGBTQが自分を肯定的に受け容れられるようになり、社会の理解やリスペクトを促すようなLGBTQのスポーツ&カルチャーイベントです。

 実は2002年にシドニーのゲイゲームズを取材する機会があったのですが、五輪で使用した競技場がそのまま使われるというゴージャスさで、でも競技自体は、優劣を競うというよりも、プロ級の方もアマチュアの方も障がいを持つ方なども一緒にレースに参加していたりして、スポーツそれ自体を楽しみながら、世界中の人たちと交流できるというところに重点が置かれている感じで、とても印象的でした。まさに「参加することに意義がある」の精神です。
 プールサイドで取材をさせていただいたときは、シャイニーシュリンプスじゃないですが、水球チームが最もセクシーでした。男くさいマッチョ〜ガチムチが揃っていて、眼福です。プールではほかにも、「ピンクフラミンゴ」という、シンクロとドラァグショーを組み合わせたような独自のショー競技があって、本当に楽しかったです。シャイニーシュリンプスのメンバーが練習していたダンスも「ピンクフラミンゴ」用だったのでは?と思ったのですが…そのシーンがなくて残念でした(てっきり、セーラームーンのコスプレのイメージ画像がそのシーンなのだろうと思っていたのですが、違ったみたいです)
 ほかにも、エアロビとか社交ダンスとか、ゲイならではの競技もたくさんあって、素敵でした。
 そして、夜はクラブパーティです。シドニーのマルディグラのアフターパーティが行なわれる「Hordern Pavilion」というクラブ遊園地みたいな巨大な会場で、期間中、いくつもパーティが繰り広げられてました(レザーパーティとか)。男性アスリートのヌード写真展なんかもあったりします。総合的なゲイカルチャーのお祭りです。
 閉会式では、関係者のスピーチなどの後、ちょっとおくつろぎください的な時間にカーペンターズの「Close to you」が流れて、目の前にいたオランダ選手団の、50代くらいのカップルが抱き合いながらダンスしてて…ちょっとウルウルきました。

 
 映画のなかで描かれているゲイゲームズについて、いくつか補足したいと思います。

 まず、ゲイゲームズは登録すれば誰でも参加できる大会で、五輪と異なり、国を背負って競うものではありませんし、国で1チームしか出れないわけでもありません。たぶん、それだと「ゆるすぎ」で、ストーリー的に締まらないということで、ちょっと変えてあるんでしょうね。
 
 それから、クロアチアではゲイゲームズ(やワールドアウトゲームズ)は開催されていません。欧州で今まで開催されたことがあるのはアムステルダム、ケルン、パリ、コペンハーゲン、アントワープで、欧州地域のゲイゲームズである「EURO GAMES」も、クロアチアでは開催されたことがありません。保守的な国で、ゲイシーンが発達してるわけでもないようです…なぜクロアチアなんだろう?というのは、ちょっと不思議なのですが、おそらく、『紅の豚』もモデルとしたように、とても美しい風景で、欧州のゲイの間でも人気の旅行地になっているんだと思います(こちらのようなクロアチアの島々を巡るゲイのセイリング・ツアーなども開催されるくらいです)
 続編で東京に来るのも、映画的に絵になるから、という理由もありそうです。


 ともあれ、ゲイゲームズは、ゲイクルーズと並んで、ぜひ皆さんにも一度は体験していただきたい、心から幸せを感じられる素晴らしいイベントです(時間とお金さえあれば毎回参加したいです)
 ちなみに来年、香港で開催されることになっているのですが、こちらの記事にあるように、本当に開催されるのかどうか、先行き不透明です…。無事開催されるといいのですが…。

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