REVIEW
映画『叔・叔(スク・スク)』(レインボー・リール東京2021)
子や孫に囲まれ、家族を大切にしながら暮らしてきた二人が出会い、恋に落ちてしまうが、果たして二人が共に幸せに暮らせる未来は訪れるのか…という、涙なしには観られない映画です。
![映画『叔・叔(スク・スク)』(レインボー・リール東京2021) 映画『叔・叔(スク・スク)』(レインボー・リール東京2021)](assets/images/FEATURES/E2021/RRT/rrt21_SukSuk.jpg)
本当は同性が好きだということを言い出せず、子や孫に囲まれ、家族を大切にしながら暮らしてきた二人の「叔(おじさん)」が出会い、本気の恋に落ちてしまった、果たして二人が共に幸せに暮らせる未来は訪れるのか…という涙なしには観られない映画です。ゲイのための老人ホームなど、多角的な視点からエイジングについて描いています。香港電影金像奨など多くの映画賞に輝いた作品です。
<あらすじ>
退職が間近に迫ったタクシー運転手のパクと、すでにリタイヤしているシングルファーザーのホイ。子や孫に囲まれ、家族を大切にしながら暮らしてきた二人が出会い、恋に落ちるが、二人が幸せに暮らす未来が訪れるためには、いくつもの壁が立ちはだかっているのだった…。
何度となく涙がこぼれました。
ゲイがゲイとして生きられなかった時代、(おそらく妻への後ろめたさを感じながらも)家庭を持ち、家族を養うために一生懸命真面目に働き、育児や家事も手伝い、(たまにハッテンしたりはするけど)良き夫、父親、叔父、祖父として慕われてきた人たちがたくさんいたと思います。パクとホイもそんな「叔(おじさん)」でした。子育ても終わり、リタイヤして、ようやく自分の時間ができたとき、二人は出会い、長年抑え続けてきた「本当の自分」を生き直すきっかけが巡ってくるのです。
パクはタクシーの仕事の途中、ハッテントイレに寄って、欲望を解消するという生活を何十年も続けていたのですが、ホイと出会って、本気の恋に落ち、自分にとっての「本当の幸せ」を考えはじめます。かと言って、それまで築いてきた家庭の幸せを壊すつもりはなく、それはホイも同じことで、でも、二人でずっと一緒に暮らせたらどんなにいいだろうと心が揺らいでいくのです(周りの家族も薄々感づいている、けど、それを咎めるでもなく…含みを持たせています)
いちばん印象的だったのは、ハッテンサウナを温かく、美しく描いていたところです。みんなで一緒にご飯を食べながら「二人はずいぶん長くつきあってるようだね」などと話したり。そこはゲイの寄り合い所であり、大切なコミュニティでした。ツァイ・ミンリャンの『河』(1997年)でハッテンサウナが地獄のように描かれていた時から、こんなにも変わったのかと感慨を覚えました。
コミュニティといえば、香港にLGBTQのコミュニティセンターがあり、高齢のゲイのためのミーティングが開かれ、そして、公的な資金でゲイのための老人ホームが建設される話が持ち上がり、その公聴会に高齢のゲイの方が出席し…というくだりが「スゴい! 進んでる」と思いました。
中国の弾圧が始まる前の2019年に製作されたこの映画で示された、香港のLGBTQコミュニティが培ってきた様々な成果が、今後どうなるかわからない(パレードやゲイゲームズも開催できないのではないかと見られています)先行き不透明な状況に陥っていることが、悲しく感じられます。
75歳のパパが突然カミングアウトし、ゲイとしての人生をやり直す『人生はビギナーズ』という素敵な映画がありましたが、『叔・叔(スク・スク)』はその手前の「兆し」のようなところまで歩みを進め、希望を感じさせるものになっていたと思います。
きっと香港の文化だと思うのですが、食卓を囲むシーンがとても多く、幸せの象徴として描かれています。どの料理もとても美味しそうなのですが、特に「牛肉のトマト煮」は作ってみたいなぁと思いました。
『シカダ』におけるニューヨークの街がそうであるように、『叔・叔(スク・スク)』でも香港という活気あふれる街が魅力的に描かれています。そして「都市の空気は自由にする」ではないですが、やっぱりゲイにとっては都会のほうが生きやすいなぁと実感させられます。
ホイを演じたベン・ユエン(袁富華)はとても素敵な役者さんだなぁと思って観ていましたが、あとで調べたら、金馬奨も受賞している名優でした。ゲイもストレートも、いろんなタイプのおじさんが出演していますので(サウナで裸になってるシーンもあります)、おじさん好きな方にはたまらないと思います(世界的に見ても、こんなにおじさんがたくさん出演するゲイ映画ってほとんどないので、そういう意味でも画期的だと思いました)
Qing Shan(青山)という歌手が歌う「微風細雨」(テレサ・テンが歌って有名になった歌)がとても沁みました。感涙ポイントです。
ベルリン国際映画祭など各国の映画祭で上映され、中華圏で最大の映画賞である金馬奨で5部門にノミネート、香港電影金像奨で主演男優賞、助演女優賞に輝き、各地のLGBTQ映画祭やアジア系映画祭でも観客賞などを受賞しています。
叔・叔(スク・スク)
原題:叔.叔 英題:Suk Suk
監督:レイ・ヨン(楊曜愷) 2019|香港|92分|広東語 ★日本初上映
(c)Films Boutique
INDEX
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- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
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SCHEDULE
- 07.05新宿二丁目K-POP NIGHT 11
- 07.05BAR OPULENCE
- 07.06VITA Pool 2024
- 07.06BEAR-TRAIN《8th ANNIVERSARY》
- 07.06JOCKSTRAP DRAGON