REVIEW
鬼才ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の愛と性をリアルに描いた映画『異端児ファスビンダー』
ドイツ映画祭で上映中の『異端児ファスビンダー』は、ニュー・ジャーマン・シネマの鬼才、ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の伝記映画です。超ハードなゲイだったファスビンダーの男遍歴がありのままに描かれています。

まだウブだった学生時代、まるでトム・オブ・フィンランドの世界から抜け出てきたかのような(もっと妖しく幻想的ですが)荒くれ者の水夫のエロティックで耽美的な映画『ファスビンダーのケレル』を観たときの衝撃と興奮たるや…。ライナー・ベルナー・ファスビンダーはゲイライフを始めたばかりの頃の自分にとって、神的な存在でした。その作品を現代の日本で観る機会は多くはないのですが、トランス女性を主人公にした『13回の新月のある年に』もとても衝撃的でしたし、やっぱりスゴい監督だと実感させられました。
そんなファスビンダーの生涯を描いた『異端児ファスビンダー』が5月のドイツ映画祭で上映されるという情報が今年初めに届き、期待に胸を高鳴らせていたのですが、コロナ禍で延期となり…そしてようやく、この11月に上映が実現したのです。レビューをお届けします。(後藤純一)
<あらすじ>
1967年、ミュンヘン――。弱冠22歳のファスビンダーは劇団「アンチテアター」の舞台を席捲したが、この無遠慮極まりない若者がいつかドイツを代表する異才の映画監督になろうとは、当事、だれも想像もしていなかった。間もなく、この、カリスマ性に満ち、高い要求を突き付けるファスビンダーの下に、俳優、取り巻き連中や恋人などが集結する。次々に発表される新作はベルリンやカンヌの映画祭で話題を集める。しかし若き監督は仕事でもプライベートでも周囲を二極化させ、自身の身体を痛めつけるような無茶な仕事ぶりや過度な麻薬摂取などによって、その犠牲となる者も生まれてくるのだった…。






予想以上にゲイ映画でした。しかもハードなゲイ。ライナーの愛と性の遍歴、孤独や渇望が実にリアルに描かれていました。
ヒゲ面のライナーはだいたい革ジャンを着ていて(レザーの帽子もかぶったり)、Sで、男臭くガサツで、ビールとキューバ・リブレでふくらんだ腹を隠そうともせず、そんななりでも男と恋に落ちては、泣いたり、泣かせたり…。ある意味では魅力的ですが、ある意味で鬼畜でもある、本当に人間臭い人でした。
SEX、DRUG、ROCK'N ROLLを地で行くような、自由で奔放なゲイの芸術家人生でした。
例えばあの『ケレル』でブラッド・デイヴィスのケツを掘っていたり(画像はこちら)、『13回の新月のある年に』にも出演していたセクシーな黒人俳優、ギュンター・カウフマンが、ライナーが惚れ込んだ恋人というか愛人であり、ギュンターはそれを利用してファスビンダー作品に主演したりもする(いわばファスビンダー作品の「ミューズ」の一人となった)ということ、ライナーは愛憎入り交じる感情を彼に抱いていて、時にサディスティックに(ひどいやり方で)責めたりもするのですが、恋愛関係が終わった後も彼を映画に起用していて、それはやっぱり愛だよなぁと思わせます。
ファスビンダー作品にも出演していたハンサムなアルミン・マイアーも登場します。アルミンは不遇な生い立ちの人だったのですが、ライナーに人生の希望を見出し、彼に尽くし、良い恋人であろうと努力してきました。でも、ライナーのバースデイに呼ばれず、一人、家に残されてしまい、負の感情が押し寄せて…(フランシス・ベーコンの恋人だったダイアーを思い出させます)
だいたいにしてファスビンダーの映画製作の現場は、プロデューサーにしても俳優にしてもスタッフにしてもゲイだらけだったということもわかりました。トランス女性もいました。
トランス女性といえば、うらぶれた路地でボロ雑巾のように男に捨てられた哀れなトランス女性に、ライナーが車を降りて優しく声をかけるシーンにグッときました(これが『13回の新月のある年に』のエルヴィラの物語へとつながります)
時にコメディタッチで、笑わせてもくれます。ウォーホールと対談するためにNYに招待された時、仕事は上の空で、夜は勇んでレザーマンが集う(SM的な雰囲気の)クルージングスポットに出かけるのですが、フェラしてくれた青年が、事が終わったあと、サインを求めてきて、ライナーも普通にそれに応えるというシーンがありました。
クスリ漬けだし、時に差別的な言動もあって、決して褒められた人ではないのですが、ただ言えるのは、彼は、常に弱い立場の人の側に立っていたということです。クィアだけでなく、人種的マイノリティや、セックスワーカーや、貧しい人たち、社会のはみ出し者、アウトサイダーの味方であろうとしていたことは確かです。
映像の色合いや照明、美術(舞台セット)がファスビンダー作品を意識した演出で、印象的でした。
これまでゲイの偉人についての伝記映画は、オスカーに輝いた『ミルク』や、アラン・チューリングの生涯を描いた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』、フランシス・ベーコンの『愛の悪魔』、『ボヘミアン・ラプソディ』、『イヴ・サンローラン』、『トム・オブ・フィンランド』など様々ありましたが、『異端児ファスビンダー』ほどセックスのシーンを赤裸々に描いた自由奔放な作品はなかったと思います。
あと1回、21日(日)17:20〜渋谷ユーロライブ「ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021」にて上映されます。
異端児ファスビンダー
原題:Enfant Terrible
2020年/135分/ドイツ/監督:オスカー・レーラー/出演:オリヴァー・マズッチ、カティア・リーマン、ハリー・プリンツ、アレクサンダー・シェアー、エルダル・イルディズ、アントン・ラッティンガー、フェリックス・ヘルマンほか
INDEX
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- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
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- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
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- 映画『チャクチャク・ベイビー』(レインボー・リール東京2025)
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