REVIEW
ホモソーシャルとホモセクシュアル、同性愛嫌悪、女性嫌悪が複雑に絡み合った衝撃的な映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオンが監督し、『イミテーション・ゲーム』のベネディクト・カンバーバッチが再びゲイの役を演じ、ベネチアで銀獅子賞を受賞、ゴールデングローブで作品賞や監督賞を受賞、アカデミー賞も有力視される作品です。衝撃的な、凄い映画でした。

<あらすじ>
1920年代の米モンタナ州。そのカリスマ性と威圧的な態度で恐れられているフィルと地味な弟のジョージのバーバンク兄弟は、大牧場を共に経営して暮らしていた。ある日、ジョージが未亡人のローズとの結婚を決めて帰って来たが、ローズのことをを快く思わないフィルは、ジョージやローズ、さらにローズの息子のピーターにも執拗な攻撃を仕掛ける。安定していたバーバンク家に亀裂が生じて行くなか、ある出来事を機に、フィルの胸中に変化が生まれ……




凄い映画でした。「スゴい」というより「凄い」です。衝撃的な「問題作」です。ゲイをこのように描いた映画は初めてじゃないでしょうか…。2021年、とうとう、映画界はこの地点にたどり着いたのか…という感慨とともに、ある意味での恐怖を禁じえませんでした。
ベネチア映画祭で銀獅子賞を受賞し、アカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ映画部門)、監督賞、助演男優賞の三冠に輝き(女性の監督賞&ドラマ映画部門作品賞の同時受賞は史上2人め)、SAG賞映画部門でも最多3部門にノミネート、アカデミー賞でも作品賞、監督賞、主演男優賞など12部門(最多)でノミネートされ、受賞が有力視されているのも当然と思えます。
監督は不朽の名作『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン。40代以上の方々のなかには『ピアノ・レッスン』を観て感銘を受けたという方、少なくないと思うのですが(個人的には「心の名画」「死にたくなったときに見返そうと思う映画」の殿堂入りを果たしています)、あのジェーン・カンピオン監督ならこういう作品を撮るよね、と納得。
そして主演はベネディクト・カンバーバッチ。『イミテーション・ゲーム』では、コンピュータの父と呼ばれる天才数学者であり、ナチスドイツの暗号を解読した第二次大戦の英雄でありながら、ゲイであるがゆえに悲劇的な死を遂げたアラン・チューリングの役を演じていましたが、今回はその何十倍も複雑で難しい役を演じきりました。それだけでなく、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を撮り終えたあとで、Toxic Masculinity(有害な男らしさ)はあらゆる男性が考えなければならない問題だと述べていて、立派だと思いました(「あらゆる男性」には同性愛男性も含まれています。それこそが今回の映画の「凄さ」の中心にあります)
カンバーバッチが同性愛者を演じるということはだいぶ前からニュースで報じられていました(同性愛が関係する作品だと知っていたからこそ観たのです)。しかし、映画でカンバーバッチが演じていたフィルという主人公は、大きな牧場で粗野な男たちを仕切るカウボーイで、過剰なまでに男らしく振舞い、なよなよした美少年をあからさまにいじめたりも…驚き、動揺しました。これまでのゲイ映画では見ることのなかった人物像です。そして、セクシュアリティのことが明かされながら、物語はまさかの展開に。ラストシーンには心底驚かされ、衝撃を受けました。
モンタナの(ロケ地はニュージーランドなのですが)雄大な山並みを背景にしたカウボーイの同性愛とくれば、即座に『ブロークバック・マウンテン』を想い起こすわけですが、『ブロークバック・マウンテン』とは一味も二味も異なる作品でした。
この『パワー・オブ・ザ・ドッグ』という謎も多い両義的な映画をLGBTQ的にどのように見ることができるのか?については、意見が分かれるところだと思います。が、そこを掘り下げるためには、どうしても物語の結末に触れなくてはなりません。ので、別ページで記述したいと思います。(結末を知りたくない方は、映画をご覧になったあとでお読みください)
パワー・オブ・ザ・ドッグ
原題:The Power of the Dog
2021年/英国・オーストラリア・米国・カナダ・ニュージーランド/128分/監督:ジェーン・カンピオン/出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィーほか
Netflixで配信中
INDEX
- かつてステージで華やかに活躍したトランス女性たちの人生を描いた素敵な映画『ファビュラスな人たち』(TIFF2022)
- 笑えて泣ける名作ゲイ映画『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』爆誕!
- かぎりなく優しい、心温まる感動のゲイ映画『幸運の犬』
- キース・ヘリングの生涯を余すことなく描いたドキュメンタリー映画『キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~』
- ディズニー/ピクサー長編アニメとして初の同性カップルのキスシーンが描かれた記念碑的な映画『バズ・ライトイヤー』
- 実在のゲイの生き様・心意気へのオマージュであり、コミュニティへの愛と感謝が込められた感動作:映画『スワンソング』
- ゲイが女性の体を手に入れたら!? 性をめぐるドタバタを素敵に描いた台湾発のコメディドラマ『美男魚(マーメイド)サウナ』
- 家族のホモフォビアゆえに苦悩しながらも家族愛を捨てられないゲイの男の子の「旅」を描いた映画『C.R.A.Z.Y.』
- SATCのダーレン・スターが手がける40代ゲイのラブコメドラマ『シングル・アゲイン』
- 涙、涙の、あの名作ドラマがついにファイナルシーズンへ…『POSE』シーズン3
- 人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
- 等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
- 近未来の台北・西門を舞台にしたポップでクィアでヅカ風味なシェイクスピア:映画『ロザリンドとオーランドー』(レインボー・リール東京2022)
- 獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」







