REVIEW
Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
Netflixで観ることができる貴重なインドのゲイ映画です。インド版『WEEKEND ウィークエンド』ともいうべき、週末のロマンチックな数日間の恋を描いたせつない作品です。
インドのゲイ映画がNetflixに入ってるってご存じでした? インド版『WEEKEND ウィークエンド』ともいうべき、週末だけのロマンチックな恋が描かれた作品です。と同時に、ゲイの世界にありがちな(自分と同じだ!と思う方も多いであろう)ちょっと複雑な人間模様も描かれていて、せつなさがつのるとともに、しみじみとした余韻が残る作品でした。
インドの映画というと、『踊るマハラジャ』みたいなド派手なボリウッド映画を思い浮かべる方も多いかもしれませんが(ちなみに『スラムドッグ$ミリオネア』は英国作品です)、もちろんそういうタイプじゃない映画もたくさん作られていて、意外とたくさんLGBTQの映画も製作されています。たぶんいちばん早かったのは東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映された『マンゴー・スフレ』(2002年)で、その後も10作品以上は作られています。
簡単にインドのLGBTQ史を振り返ると、2006年にマンヴェンドラ・シン・ゴーヒル王子がゲイであることをカムアウトし、世界的にセンセーションを巻き起こしました(王家からは勘当されてしまいましたが、ゲイの人権とHIV予防の活動を展開)。そして、植民地時代から残っていたソドミー法(同性間の性交を違法とする法律)が2009年に最高裁判決で撤廃されたのを機に、初のゲイショップができ、ゲイ&レズビアンの雑誌『Pink Pages』が創刊され、ゲイ専門の旅行会社もでき、にわかにシーンが盛り上がりました。しかし、2013年に再び最高裁判決で同性愛が違法とされ、ムーブメントも下火に…それが覆され、再び合法化されたのは2018年で、つい最近のことです。(この「ラ(ブ)』という映画が作られたのは2015年で、違法とされていた時代です)
映画の舞台であるムンバイはインド最大の都市(金融都市)で、街もかなり都会的。ゲイタウンの一つや二つあってもおかしくなさそうなのに、実はゲイが遊べる場所はほとんどなく、なかなかゲイとしてオープンに生きていくのは難しそうです。そういう背景を踏まえて観ると、80年代頃の日本みたいだなぁとか、ちょっと郷愁を覚えるかもしれません。
真っ暗な部屋の中で、裸で、苦労しながらロウソクに灯をともすサヒル。そこにアレックスが帰ってきて、サヒルは電気代が払われていないことや、ガスがつけっぱなしだったことをプリプリ怒りますが、アレックスはなだめすかし、車で送ってやるよと言って、結局サヒルは車に乗り、空港に向かいます。出迎えたのは、親友のジェイ。アメリカで金融関係の仕事をしているバリバリのエグゼクティブで、商談でムンバイに一時的に帰国し、わずかな週末の時間を、ひさしぶりに会うサヒルと一緒に過ごすことにしていたのです。ジェイが借りた超高級車(自動でルーフが開いてオープンカーになるやつ)を運転するサヒルは、これからどこに行くかはなかなか言わず、この曲どう?と素敵な歌を聴かせたり。まるで遠距離恋愛の恋人どうしのひさしぶりのデートのような雰囲気。そうして辿り着いたのはマハバレーシュワという渓谷の絶景が眼下に広がる、素敵な場所でした。
二人はあくまでも友達で、ジェイは(アレックスの存在は知っていながら)サヒルのことを好きで、サヒルもジェイの気持ちをよく知っているし、好きなんだけど、あくまでも一線を越えないようにして、思わせぶりな態度をとったり、恋の駆け引きやロマンチックなデートを楽しんでいるように見えます。後半の展開は、ちょっとオドロキかもしれません…。
週末の数日間に一気に燃え上がる恋は、「ムンバイの休日」的なロマンチックさです。同時に、電気代のことで喧嘩するような(世間の結婚した夫婦と変わらない)日々の生活を共にしているパートナーとの関係性も描かれていて(おそらくですが、インドでそうやってゲイがカップルで暮らしていけるってそれだけで有り難いことなんだと思います)、しかも主人公のサヒルは、そういう有り難いパートナーがいながら、ウキウキとジェイとのデートを楽しむわけで、そこに複雑さもあり、リアリティも感じさせます。だからこそのあのラストシーンには、(同様の経験をしたことがある方にとっては)グッとくるものがあると思います。せつなさがつのりつつ、しみじみとした余韻が残ります。
惜しむらくは、セックスのシーンです。違和感を感じざるをえません…監督も俳優もノンケさんなので、ああなっちゃうんでしょうね…。
アジア映画らしいエモくて熱い感じを想像していたのですが、意外とオシャレ映画でした。特にジェイが商談で使ったムンバイの超高級ホテルとか。そこで繰り広げられるゲイテイストな「パーティ」とか。
雄大なマハバレーシュワの断崖絶壁の風景のなかで最高にロマンチックな瞬間を迎えるという演出は、なんとなく『ブエノスアイレス』のイグアスの滝を彷彿させます。
邦題の『ラ(ブ)』は、原題の『LOEV』(LOVEをわざとスペルミスさせたタイトル)をなんとか日本語に変換しようとしてこうなった的な感じです。
音楽がいいです。インドらしさもありつつ、シティポップ的なムードがあって、オシャレ。素敵です。
映画が終わった後、ドゥルーフ・ガナーシュに捧げるというクレジットが映し出されます。サヒルを演じた役者さんは、この映画に主演した直後、肺病で29歳の若さで亡くなったんだそうです…痛ましいことです。
Netflixで観られる貴重なインドのゲイ映画ですが、4月30日で配信が終わるので、興味のある方は今月中にぜひ。
ラ(ブ)
原題:LOEV
2015年/インド/89分/脚本・監督:Sudhanshu Saria/出演:ドゥルーフ・ガナーシュ、シヴ・パンディット、シッダールト・メーノーン
INDEX
- 東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』
- ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』
- ゲイが堂々と生きていくことが困難だった時代に天才作家として社交界を席巻した「恐るべき子ども」の素顔…映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
- ハッピーな気持ちになれるBLドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(チェリまほ)
- 僕らは詩人に恋をする−−繊細で不器用なおっさんが男の子に恋してしまう、切ない純愛映画『詩人の恋』
- 台湾で婚姻平権を求めた3組の同性カップルの姿を映し出した感動のドキュメンタリー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
- HIV内定取消訴訟の原告の方をフィーチャーしたフライングステージの新作『Rights, Light ライツ ライト』
- 『ルポールのドラァグ・レース』と『クィア・アイ』のいいとこどりをした感動のドラァグ・リアリティ・ショー『WE'RE HERE~クイーンが街にやって来る!~』
- 「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』
- 同性の親友に芽生えた恋心と葛藤を描いた傑作純愛映画『マティアス&マキシム』
- 田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
- 『人生は小説よりも奇なり』の監督による、世界遺産の街で繰り広げられる世にも美しい1日…『ポルトガル、夏の終わり』
- 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
- GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
- カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
- 秀才な女子がクラスの男子にラブレターの代筆を頼まれるも、その相手は実は自分が密かに想いを寄せていた女子だった…Netflix映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
- 映画やドラマでトランスジェンダーがどのように描かれてきたかが本当によくわかるドキュメンタリー『Disclosure トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』
- 人生のどん底から抜け出す再起の物語−-映画『ペイン・アンド・グローリー』
- マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2
- 「夢の国」の黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から暴いた傑作ドラマ『ハリウッド』
SCHEDULE
- 07.072ちょパチ