REVIEW
等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
待望のゲイ映画『ボクらのホームパーティ』がついに東京で上映されました。ゲイの友達づくりや出会い、恋愛、パートナーシップ、セックス、人間関係をめぐるあれこれがリアルに描かれた、これぞ「ボクらの」映画!と思えるような作品でした。
『ボクらのホームパーティ』は、自主映画を制作している川野邉修一さんが2020年に製作した初の長編作品です。こちらに書かれているように、2017年に「凪」という短編映画を製作した際、ゲイであることをオープンにしたほうがよかったかもしれないと思う出来事があり、この作品では自分のセクシュアリティと向き合いながら映画を製作することを決めたんだそう。そして、「商業映画では描かれることが少ないゲイの人々の日常を描きたい」という思いで「ゲイのホームパーティ」を描くことに。オーディションでは総勢100名の俳優のなかからメインキャスト7人を選出し、幅広いフィールドで活躍する俳優陣が、年齢も性格も見た目もバラバラな個性豊かなキャラクターを演じる作品となりました。
今年3月、大阪アジアン映画祭のインディ・フォーラム部門で上映されましたが、東京で大々的に上映されるのはおそらく今回が初めて。そして、レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で日本のゲイの監督によるゲイのリアルな日常を描いた長編映画が上映されるのは本当にひさしぶりで(2002年の今泉浩一監督の『NAUGHTY BOYS』以来じゃないでしょうか)、とても楽しみにしていました。当日はトークショーもあって、とてもよかったです(このあと映画祭レポートでご紹介します)
<あらすじ>
都内で開かれたゲイのホームパーティ。集まったのは、学生で何もかも未経験の智也、ゲイバーミセコの将一、ゲイクラブ店員の直樹とその友達(でオネエ)の正志、カメラマンの健一、そしてホームパーティを開いたカップルの彰人と靖。飲んで、食べて、騒いで、笑って、泣いて、また飲んで、楽しい時間が永遠に続くはずだったのに、それぞれが日頃心に溜め込んでいたウップンが爆発し、パーティは最悪の結末を迎える…
面白かったです。観れてよかったです。
これはまぎれもなくゲイの監督によるゲイのための映画だと思いました。
ホームパーティ終盤の「最悪の結末」には触れないでおきますが、「かわいいフリしてあの子、割とやるよね?」みたいな、「あちゃー…」みたいな感じで、たしかにドロドロだし、ヒヤヒヤものなのですが、脚本と役者さんの演技(キャラ)の巧みさのおかげで、笑いながら観れました。
上映後のトークショーで出演者のみなさん(ストレート男性の俳優の方たち)がこぞって「笑いが起きていて驚いた」とおっしゃっていて、そっか、ノンケさんは笑えないんだな、と。テイストの違いなのかもしれませんが、ああいう展開って、ゲイの世界では「あるある」…とまでは言いませんが、あってもおかしくないよね〜という感じだし、(そもそも人間関係のドロドロを描いた映画が大好物な方も多いと思うので)笑いながら観る方は多いと思うのですが、ノンケさんだと「マジ」で「ヤバイ」こととして受け止めてしまうんだろな…と(たぶんあれが男女のホームパーティだったら血が流れてるでしょうね…)
ホームパーティが始まる前に、職場だったり、恋愛だったり、それぞれの日常生活(主に愛と性)が描かれるのですが、たいへんリアリティがありました。二丁目ロケが行なわれていて、新千鳥街が写ってたり、「がいずば」のがいさんが登場してたりするのも見どころです。
細かいことを言うと、ホームパーティに参加する7人の役者さんはほとんどゲイには見えず、ノンケの役者さんが演じてるんだろうなぁと思いましたし(靖を演じた方だけは、もしかしたらゲイかも?と思いました)、ストーリー展開的にも「え、そこくっつくの? なくない?」と思うような部分もあったのですが(ゲイのほうがタイプがはっきりしてて、決して誰とでも寝るわけじゃないし、友達とはヤレないという人も多いと思うので、違和感を覚えてしまったのでした)、おおむねリアルで、「こういう人、たしかにいるよね」「こういうことってありえるよね」と思わせる説得力がありました。これがノンケの監督さんだったら絶対にこうはならなかったでしょうし、ゲイの方がちゃんと監督しながらプロの役者さんが演じてるので、いろんな意味で(クオリティ的にも)安心して観ることができました。
もしかしたら、LGBTQの権利擁護活動をしているような方たちのなかには、正志という割と典型的なオネエのキャラクターについて「ステレオタイプじゃない?」と批判的な意見を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、二丁目には20代のオネエの方なんてたくさんいますし、7人のうち1人はオネエキャラで全然いいと思いました。これまでの日本映画で描かれてきたようなノンケの「偏見」にまみれたオネエ像ではなく、「たしかにこういう人いるよね」と思わせるリアルなオネエでしたし、キャラが立ってるぶん、笑わせてくれたりもして、個人的には好きでした。やっぱりホームパーティに陽キャは必要ですよね。
たぶん現在のアライの監督さんがゲイを描く映画を撮るとしたら、どうしても『his』のような作品になると思うんです。ゲイの人はこんなに“ふつう”で、こんなに一生懸命生きてて、でも同性婚は認められてないし、世間にはまだまだ差別や偏見があって、生きづらさを感じてるよね、というような。それに対して『ボクらのホームパーティー』は、ゲイの「下ユル」だったりもする部分とかもひっくるめてすべて当事者目線で描いているわけで、それはゲイの監督じゃなきゃできないことで、当事者性というかリプレゼンテーションとしての意義がありますよね。
この映画は、監督さんの「商業映画では描かれることが少ないゲイの人々の日常を描きたい」という思いから製作された作品ですが、何か社会に訴えようとするメッセージ性があるわけではありません。ゲイだからといってものすごく生きづらさを抱えてるわけじゃないし、同性婚とか以前に、まず出会いや恋愛、パートナーシップを長続きさせるということが切実な問題で、恋愛って誰が「正しい」とか「悪い」とかじゃないし、人によって価値観も微妙に違うし、どうしたら幸せになれるんだろう、どうして傷つけあってしまうんだろうっていうゲイの現在地、イマの「ボクら」の姿をリアルに映し出してるんだと思います。
かといって、社会との関わりを「なかったことにする」わけではなくて、あるポイントで、みんなが納得するような、ズシンと響く言葉も出てきます。ちょっと泣けたりもするかもしれません。そのさじ加減もまたゲイ的だなぁと感じました。
正直、ゲイのリプレゼンテーションからは程遠いBLドラマや映画、LGBTQの生きづらさに光を当てて差別的な社会の問題を告発するようなシリアスな作品ばかりじゃなくて、ゲイによるゲイのための等身大のゲイライフを描いた映画が観たい!という思いはずっとあって、今回ようやくそれが実現したこと、本当によかったと思います。川野邉監督に感謝!です。
なお、これは蛇足かもしれませんが…。タイトルやあらすじから『真夜中のパーティー』を思い浮かべた方、少なくないと思います。オフブロードウェイおよびハリウッドで初めて同性愛を正面から描いた記念碑的な作品で、日本でも何度となく上演されてきました(加勢大周さんや金子賢さんが出演した時の舞台をご覧になった方もいらっしゃるのでは?) もともとの戯曲はストーンウォールの前(まだゲイ解放運動がブレイクしていない時代)に書かれていることもあり、ホームパーティに集ったゲイたちは「内なるホモフォビア」に苛まれていて、なんとも後味の悪い、どよーんとした気持ちになる作品でした…。そこから50年以上が経ち、日本でゲイの監督によって作られた『ボクらのホームパーティ』は一体どんな作品になるだろうか、やはり「内なるホモフォビア」を抱え、苦しんでいるゲイの姿が描かれるのだろうか、それとも、セクシュアリティの受容はとうに済んで、のびのび、あっけらかんとゲイしてる姿が描かれるのだろうか、という興味はありました。観終わった結果、うん、今の日本だ、と思いました。50年以上前のアメリカと比べてもしょうがない、イマの「ボクら」の姿がそこに描かれていた、それでいいじゃないか、と。
余談ですが、終わり方がフランソワ・オゾンの名作『8人の女たち』を彷彿させるものがありました。ものすごいドロドロの修羅場を演じたあと、でも私たち女性はみんな男に虐げられてきたのよね、というような、シスターフッド(女性たちの連帯)を感じさせる、素敵で、美しく、感動的なシーンで幕を閉じるのです。
ともあれ、これは本当に貴重な等身大のゲイの日常を描いた映画ですし、どなたでも気軽に楽しく観ることができる作品です。まだご覧になっていない方は、11月19日から新宿ケイズシネマで公開されるそうですので、ぜひ映画館でご覧ください。
(文:後藤純一)
ボクらのホームパーティー
英題:Our House Party
2022年/日本/80分/監督:川野邉修一/出演:橋詰高志、景山慶一、松本亮、横路博、卯ノ原圭吾、窪田翔、井之浦亮介ほか
11月19日から新宿ケイズシネマで公開
INDEX
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SCHEDULE
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