REVIEW
家族のホモフォビアゆえに苦悩しながらも家族愛を捨てられないゲイの男の子の「旅」を描いた映画『C.R.A.Z.Y.』
『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・バレ監督の長編デビュー作で、「カナダが生んだ映画史に残る名作」と称えられる『C.R.A.Z.Y.』がついに公開。父親や兄に罵倒されたり殴られたり”治療”に連れて行かれたり、ホモフォビアの百貨店のような家で生まれ育って苦悩しまくる主人公なのですが、それでも家族への愛を捨てられず…涙あり、笑いありなホームドラマ&青春ドラマであり、なかなかないタイプの素敵なゲイ映画です。

『C.R.A.Z.Y.』は、『ダラス・バイヤーズクラブ』などで知られるジャン=マルク・バレ監督の2005年の長編デビュー作で、2006年のジニー賞(カナダのアカデミー賞)最優秀脚本賞、トロント国際映画祭最優秀カナダ映画賞、イリス賞13部門受賞ほか、多くの映画祭で高評価を獲得し、また「Rotten Tomatoes」で100%(5月6日時点)のハイスコアをキープしており、「カナダが生んだ映画史に残る名作」とも評される作品なのですが、なぜか日本未公開でした。ジャン=マルク・バレ監督が去年のクリスマスに急逝したこともあり、追悼の意味も込めて、17年の時を経て公開されることになりました。監督が生前「一生に一本でいい、こんな映画を作りたい、作らなければと思う映画に出会うことがある。『C.R.A.Z.Y.』も、そんな映画の一本であると思いたい」という言葉を寄せていたように、思い入れを感じさせますし、これまで未公開だったことが本当に不思議になるような名作です。
<あらすじ>
5人兄弟の4男として育ったザックは、キリストと同じ12月25日に生まれ、「特別な子」と呼ばれながらクリスマスのミサへの参加を義務付けられてきた。軍で働き音楽を愛する父親と、愛情に満ちた母親、ずっと活字を読んでいる長男、問題だらけの次男、筋肉バカな三男という家庭で幼少期を過ごすが、ザックは絶対にゲイは認めないという父親やホモフォビックな次男レイモンドとの関係に苦悩するようになる…。







1960~70年代のカナダ・ケベックが舞台(なので、フランス語作品です)。59年のクリスマスに生まれた男の子ザックは、キリストのように周囲の人の病気を治す“奇蹟”を起こせると言われたり、特別な才能があると言われたりもして、父親にもかわいがられるのですが、ある日、女装している姿を父親に見られてしまい、その日から父親の態度が一変し、地獄の日々が始まります。父親だけでなく次男のレイモンドのホモフォビアも本当にひどいです。「ホモ」と罵倒され、殴られ、”治療”に連れて行かれ、自身もホモフォビアを内面化して苦しみ、“普通になりたい”と願い、自殺のようなこともして(壮絶です)…という、ありとあらゆるホモフォビアの現れ方(さながら百貨店のようです)が描かれます。この時代のカトリックの家庭に生まれ育ったゲイならきっと誰もがこのような経験をしているのでしょうね…(監督と共同で脚本を書いているFrançois Boulayという方の実体験に基づいているんだそう)
しかし、この映画は、そんなザックを主人公としながらも、紛れもなく家族愛を描いたホームドラマであり、そこが「カナダが生んだ映画史に残る名作」と称えられるような傑作になった所以だと思います(同時に、海外では「最高のゲイ映画」30位にランクインしたりもしています)
常に活字を読んでいるクリスティアン、ジャンキーで女たらしで暴力的なレイモンド、筋肉バカでオナラがひどいアントワン、ゲイのザック、太っちょのイヴァンという5人兄弟は、皆どこかクセがあって変わり者で、ダメな部分があって、そのダメな部分もひっくるめて両親の愛情に包まれながら育って(同性愛だけは認められないのですが…)、それぞれに自分らしい生き方や幸せを追求しながら暮らし、きっと好きになってくれる人がどこかにいて、そんな慎ましくもありふれた日常はひどいことの連続だったりもするけど、何か失敗しても家族が守ってくれるという、愛すべき家族の姿が、たくさんの「おかしみ」やラブリーなエピソードとともに描かれ、ホロリとさせられるのです。
親へのカミングアウトは最も難しい(ラスボスのようなもの)と言われたりしますよね。家族を愛しているからこそ、本当の自分を愛してくれないことが本当に苦しいわけです。ザックは幼少期から20歳頃までずっとその苦しみと闘ってきたわけで、一方では、父親がどれほど子どもを愛しているかという切ない語りもあり、じゃあ、どうして子どもをそんなに愛している父親が、ザックの性的指向だけは愛せないのだろう?というところで、ちょいちょい教会とかキリスト教モチーフが入ってきますし、2005年(カナダで同性婚が認められた年)の観客はきっと、偏狭な父親が悪いというよりもカトリック教会が原因だと思うだろうな、と。ザックが家を出て(または追い出されて)都会に出てホームレスになったりするのではなくて、家族の絆が決して切れることなく続いていき、(こんなに短くていいの?と思うくらいのあっけなさではありますが)最後に希望を感じさせるところがいいです。生まれた日から、そのラストシーンまで、ザックはずっとパパのことが大好きで、パパに愛されたいと願いながら(教会のせいで)ホモフォビアに邪魔され、苦しめられ、でも、つらい、長い旅を経て、ようやく…という感じです(この映画はザックの「旅」だと思います。ラストシーンでもそう感じました)
お母さんが「誰にでもあることよ」と言うシーンがあります。そうなんです。どんな人にも、どんな家族にもありうることだっていうメッセージ、大事だと思いました。家族を持つってそういうことなんだよ、と全世界のストレートの人に気づいてほしいです。
『ダラス・バイヤーズ・クラブ』は、一見、差別的なクズ野郎に見える人でも、きっかけがあれば変われるし、人を救ったりもするというヒューマニズムを描いていましたが、『C.R.A.Z.Y.』も徹頭徹尾人間くさい、「はみ出し者」への讃歌と言える映画でした。
細かいギャグ(笑い)が随所に散りばめられています。さもない日常に潜む「小説よりも奇なり」なドラマ。人生の皮肉。素晴らしく映画的なシーンに満ちていて、すごくよいです。
音楽もよいです。デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」、ピンク・フロイドの「The Great Gig In The Sky」、パッツィ・クラインの「CRAZY」、シャルル・アズナヴールの「帰り来ぬ青春」などなど。
全体的にセンスがよいと思います。17年前の映画ですが、古さを全く感じさせません。
終盤にC.R.A.Z.Y.というタイトルの意味が明らかにされた時の驚きや感動もぜひ味わってください。
名作を劇場で観れる貴重な機会です。お見逃しなく!
C.R.A.Z.Y.
2005年/カナダ、モロッコ/129分/PG12/監督:ジャン=マルク・ヴァレ/出演:ミシェル・コテ、マルク=アンドレ・グロンダン、ダニエル・プルールほか
INDEX
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