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REVIEW

中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』

中国で男娼として生きるゲイの主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』の公開が始まっています。ある意味でのゲイのリアルを、ものすごくエモーショナルに表現したラストシーンに心を奪われました。余韻がスゴいです。

中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』

 中国で幼少期を過ごし、オーストリアに移住後、ウィーン・フィムル・アカデミーで巨匠ミヒャエル・ハネケに師事したC.B.Yi(シー・ビー・イー)監督の長編第1作で、2021年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、シアトル国際映画祭で新人監督審査委員特別賞を受賞、台湾でも金馬奨最優秀新人監督賞、最優秀主演男優賞にノミネートされました。主人公のフェイを演じたのは日本でも話題となった『あの頃君を追いかけた』のクー・チェンドン、シャオレイ役にはドラマ『お仕事です!~The Arc of Life~』のリン・ジェーシー、そして『3人の夫』のクロエ・マーヤンが一人三役を務めています。
 
<あらすじ>
フェイは都会で恋人シャオレイと同棲しながら、男娼として金を稼ぎ、田舎の両親に仕送りをしている。田舎の家族や親戚はフェイの仕送りを当てにしながらも、彼がゲイであることは決して受け入れようとしない。ある日、フェイが顧客に暴行されたことを知ったシャオレイはその男に復讐するが、男の部下たちの報復に遭う。フェイは警察に捕まることを怖れ、シャオレイを見捨てて逃げてしまう…。






 え、これ台湾映画なの?って思ってしまいます。同性婚が認められた国の感じじゃないよね…という。ゲイの生きづらさや恋愛模様を鮮烈な映像で描いた作品という意味ではロウ・イエの『スプリング・フィーバー』に通じるものがありますし、洗練された都会の雰囲気や若者の群像感は2000年頃の(ウォン・カーウァイとかの)香港映画を彷彿させたりも。
 実際はロケは全て台湾で行なわれ、台湾文化庁や台北市などの援助も受けているようですが、舞台設定は監督の出身地である中国です。中国の田舎の貧しい村で生まれ育ったフェイが実家に仕送りするために都会に出て男娼をしている、実家に帰ると、姉の夫の親族の男たちに侮辱され…都会のオシャレさ・裕福さと、男尊女卑でホモフォビアむきだしな田舎の対比。以前の男娼仲間も皆、女性と結婚していきます。多くのゲイたちがそうやって異性との結婚を選択せざるをえない、中国社会の厳しい現実――。
 
 ゲイとして、セックスワーカーとしての生きづらさや葛藤、真実の愛を求めながらも手に入れることができない苦しさ、お金はあるのに決して幸せになれない現実、そんな憂さをクラブで踊り狂って晴らす感じとかもゲイテイストで、リアルでよかったです(クラブシーンが持つ意味は『BPM(Beats Per Minute)』と同様だと思いました)
 
 もちぎさんが「不幸を美談にしたり、マイノリティの生き様を美学にしたり、犠牲や弱さを美化してはならないけど、この映画は美しかった」とコメントしているように、この映画は、本当に美しいです。すべてのカットが絵になります(木陰で弟が姉に膝枕をしてもらって横たわっているシーンなどは、まるで宗教画のようで、目を瞠るものがありました。「絵」でハッとさせる映画ってスゴいと思います)
「最も美しいアジアン・ゲイ映画」ランキングがあれば、間違いなく上位に入るであろう作品です。
 ただ、耽美的なだけで中身は空っぽというわけでは全くなく、登場人物のセリフや行動(俳優の演技)に内面からでてくるものがきちんと反映されていて、必然性や説得力がありますし、それでいて登場人物たちの心情の表現を過度に強調する感じでもなく、客観視できるような…この映画世界の一貫性に破綻がなく、観客が心地よく没入できる最適な距離感が保たれているというか…いろんな意味で完成度の高い映画だと感じました。 
 
 正直、途中までは、凄惨な暴力のシーンが多くてイヤだなぁ…とか、異性愛規範やホモフォビアが強すぎていたたまれない…と感じる部分もありました。しかし、終盤からラストシーンへの展開に、心を奪われました。せつなさやほろ苦さや、うまく言葉にできないいろんな感情がひたひたと波のように押し寄せてきて、これは好きな映画かもしれない、と思い直しました。
 余韻がスゴかったです。
 シティポップみたいな歌(Phum Vlphuritの「Hello,Anxiety」という曲だそう)が本当によくて、延々と脳内でリピートします。
 
 『エゴイスト』『老ナルキソス』とともに『マネーボーイズ』をご覧いただければ、「2021年セックスワーカーが出演するゲイ映画」の観比べは完璧じゃないでしょうか。
 セックスワークといえば、この映画では「ボーイ」だけじゃなく「お客さん」の姿が何人も映し出されていて、太めなおじさんが多かったのがリアルだなと感じました(個人的には目の保養になりました)。もちろんセックスのシーンもありますが、そこはライトでしたね。抑制が効いた感じでした。 
 
 C.B.Yi監督、確かな才能だと思います。今後ゲイ映画を撮ってくれるかどうかわかりませんが、期待しています。
 
 

マネーボーイズ
原題:金錢男孩 Moneyboys
2021年/オーストリア・フランス・台湾・ベルギー合作/120分/R15+/脚本・監督:C.B.Yi/出演:クー・チェンドン、クロエ・マーヤン、リン・ジェーシーほか

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