REVIEW
PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
『The PrEP Project』は、PrEPについて楽しく学べるだけでなく、ゲイセックスを全面的に肯定し、ハッとさせられるようなエピソードやコメントも随所に盛り込まれている素晴らしい短編作品です。ぜひご覧ください

映画『The PrEP Project』は、映画監督・プロデューサーのChris Tipton-Kingさんが、2017年にサンフランシスコで制作したPrEPについての性教育映像作品です。性的にアクティブなゲイ・バイセクシュアル男性を念頭において制作され、ポップでセクシーな雰囲気のなかで楽しくセクシュアルヘルスについて学ぶことができます。「PrEP TOKYO」を運営する「カラフル@はーと」さんが今回、日本語字幕をつけて公開してくれました。
18分くらいの短い映画ですが、また、性教育映像作品ではあるのですが、実に面白い、ハッとさせられるようなエピソードやコメントが凝縮されている、セクシーなシーンも笑えるシーンも盛り込まれた、素晴らしい作品でした。
冒頭、メインMCのエリック(PrEP活動家)が「なぜ自分はコンドームが嫌いか」を率直に語ります。キラキラのパーティ的な紙吹雪が中に入ったコンドームが膨らんでパチンとはじける映像が象徴的です。これだけで、この映画がいかに画期的な作品であるかがわかります。映画の中でも語られていましたが、僕らは(エイズ禍以来)35年間も、コンドームを使え、コンドームを使え、生掘りは危険だ、悪だ、と言われ続けてきましたが、それでもコンドームの常用率は上がらず、米国では毎年5万人もが感染していました(予防の失敗です)。パーティに出かけ、素敵な人と出会い、セックスしよう!となったとき、もしコンドームを家に忘れてきたり、もしコンドームが破れていたり、途中で外れたりしたら…安全でしょうか、PrEPなら、家を出る前に薬を飲んでいればOKです。もちろん、定期的な検査とセットであることなども伝えながら、当初あったPrEPへの偏見を解きほぐしていきます。
「安全だけを求めるなら、誰も人がいない場所に行って、誰にも触れないようにすればいい、でもそれって正気の沙汰じゃないですよね(人それぞれだけどね)」と語るシーンがありました。「1987年にレーガンが「禁欲」を打ち出した。効果があったか。セックスを我慢するのが好きな人がいる?あまりいないよね。セクシュアルヘルスの文脈で禁欲の提案は論外。性欲に理解がない人と話しても、批判・拒絶されていると感じてしまう」と語るシーンや、「医療従事者の多くはムチやロープを使ったりフィスティングなど多種多様なSEXの存在を想定していません」と言って、医師から問診を受けるゲイの方がエッチなコスチュームになっていろんな道具を出して見せるシーンには、思わず快哉を叫びました。この映画は完全に僕らのコミュニティの側に立って、今まで言えなかったようなことを見事に代弁してくれていると感じました。
エリックが若い頃(2004年。U=U以前です)、HIV陽性の方とつきあいはじめたものの、彼のほうが「HIVを感染させてしまうのでは」という不安や恐怖をつのらせるようになり、セックスレスになり、そこから3年半くらい頑張ったけど結局別れてしまった…というエピソードは、胸が痛みました。
アメリカは欧州の国などに比べて10代の望まない妊娠が多く、それは(こちらで紹介したテキサス州の町の福音派の牧師がまさにそうであるように)セックスを“邪悪”なものだとして性教育を避ける文化のせいだ、ということも指摘されていました(日本でも2000年代に性教育バッシングがあり、決して他人事ではありません。まだまだセックスフォビアが根強い社会です)。そういう意味でも、このようにセックスをタブー化せず、オープンに、笑いもまじえながら語る作品には、本当に意味があると感じます。
エリックは最後にこう述べます。「医療を受ける人として、性感染症を防ぐために、自分の性行動のリスクや選択肢、医療リソースへのアクセス方法、そのようなことを理解する必要があります。自由がある人間として」
PrEPについてよく知らない方、懐疑的な方、すでに服用中の方、性教育や性感染症予防政策に携わる方、医療従事者の方など、多くの方にご覧いただきたいです。
※監督さんからのメッセージがPrEP@Tokyoのサイトに掲載されています。あわせてご覧ください。
INDEX
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