REVIEW
ようやく観れます!最高に笑えて泣けるゲイのラブコメ映画『ブラザーズ・ラブ』
米ユニバーサルがハリウッド大手スタジオとして初めて制作したゲイロマコメ『ブラザーズ・ラブ』が4年経ってようやくNetflixで配信スタート! 期待通り、最高に笑えて泣けるゲイゲイしいラブコメ映画でした

米ユニバーサル、ハリウッド大手スタジオとして初のゲイロマコメ制作へ、脚本と主演はゲイのメディ俳優ビリー・アイクナーが務めることにというニュースをお伝えしたのは2021年3月のことでした。
自身の冠番組『Billy on the Street』がエミー賞に4度ノミネートされ、『ライオン・キング』のティモン役や映画『ノエル』、ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』などにも出演する人気コメディアン/俳優のビリー・アイクナーがメジャーなスタジオが製作する初めてのゲイのロマンティックコメディ映画の脚本家&主演に起用され、この映画が製作されることになったのです。『ネイバーズ』シリーズのニコラス・ストーラーが監督し、アイクナーとともに脚本を共同執筆。また、制作にはコメディ作品を手がけてきたプロデューサー陣が参加しました。
そうして2022年には映画『Bros』が完成していたのですが、日本に入ってくるまでにずいぶん時間がかかり…ようやく今、Netflixで配信が始まって観ることができるようになりました。
<あらすじ>
ゲイのライター、タレントとして活躍する40歳のボビーは、アプリで知り合った男とあとくされないセックスをしたり、気のおけない友達とおしゃべりを楽しんだりはしていたものの、恋人を作ったことは一度もなかった。ある日、そんなボビーの前に、とんでもなくセクシーな男が現れる。お互いに恋人は作らない、割り切ったセックスしかしないと言っていた二人が、いつしか惹かれ合うようになり…。






最高に素敵なロマコメ。めっちゃ笑ったしめっちゃ泣きました。
自分は一生独り身でいいんだって嘯いてる方や、もう恋の仕方なんて忘れちゃったよ…って方、どうせ自分を愛してくれる人なんて一生現れないんだと諦めてしまっている方にこそ、観ていただきたい映画です。恋っていいなあ、恋したい!って思えるはず。
なんだかんだ言っても映画やドラマの主人公って魅力的で好感度の高いキャラクターがほとんどなわけですが、この作品の主人公のボビーは「よくぞこんなに」と思うくらい、彼氏できなさそうなキャラです。見た目も決してモテ筋じゃないし、偏屈で、性格がちょっとアレで、ゲイの仕事してるくせにゲイのこと信じてなくて…40歳で一度もちゃんと恋愛したことないっていうのも頷けます。そんな彼に、まさかの、とんでもなくセクシーなGOGOみたいなイケメン、アーロンが近寄ってきます。一見筋肉バカで退屈な男に見えるけど、話したりいろいろしていくなかで、そうじゃない、素敵な人だってことがわかります(スーツ姿もセクシーです)。見た目イケてるだけじゃなくて、中身も素敵。本当に「よくぞこんなに」と思うくらい、魅力的な人です(ルーク・マクファーレンというゲイの俳優だそう。本当にセクシーだし、笑顔にヤラれます。ゲイの世界の「恋人にしたい男性」ランキングがあったら1位になるのでは?と思うような人です)。そんなアーロンが、よりによってなんでボビーみたいな人に惹かれるのか…フィクションとはいえ、ちょっと出来過ぎじゃないのか…と思うような話なのですが、そこはぜひ映画を観て楽しんでください。そういうこともあるかもなって思えるはずです。
さて、笑えるラブコメといえば『SEX AND THE CITY』とか『メリーに首ったけ』ですが、この映画、もっと笑えます。いやマジで。天才的。さすがコメディ俳優。ブラボー!です。(あまり詳しくは書きませんが、ジョディ・フォスターとか、アメフト軍団とか、自転車とか、爆笑モノでした)
それでいて、終盤は、ウソみたいに、ものすごく泣けます。この二人、いったいどうなるんだろう?とみなさん心配しながら観ると思うのですが、まさかの、えー?っていう驚きがあって、それがまた本当に素敵で、スイートで、泣けちゃうのです。
主人公がLGBTQ歴史博物館の人なのでストーンウォールとかハーヴェイ・ミルクとかLGBTQの歴史にまつわるネタがこれでもかと出てきますし、メジャー作品らしく『ウィル&グレイス』のデブラ・メッシングや『トーチソング・トリロジー』のハーヴェイ・ファイアスタインや初期ファブ5のジェイ・ロドリゲス(しかもノンケの役で出てるのが面白いです)など、アメリカのゲイが拍手しそうな有名人もいろいろ登場しています。知ってたらより楽しく観れると思いますが、知らなくても全然大丈夫。それくらい、誰もが楽しめるようなつくりになっています。
あと、ゲイのセックス(とかつきあい方)に関することがものすごくオープンに描かれていることにきっと驚かされると思います。日本も早くこういうふうになればいいのに、と思うことでしょう。
個人的には、ぜひラブシーンに注目していただきたいです。こんなに美しくて激しくて笑えてロマンチックなラブシーンってある?って思いました(バックで流れてる音楽のアンマッチ具合も笑えます)。最高です。
ビリー・アイクナーは製作発表の際、ハリウッドがゲイの俳優を特別視する根源には“男らしさ”至上主義があると述べていました。「例えば男性的な俳優が女々しい演技をしたとき、『新たな一面を見せてくれた』などと評価される。でも、それが逆だった場合はどうだろう? 普段からフェミニンな印象の男性俳優が、男の中の男のように振る舞ったら? ハリウッドでは、それはもうギャグにしかならない。マスキュリニティ(男性性)至上主義だよ」
原題の『Bros』にはそういう意味が込められていると思いました。「Hey,bro!」は体育会的な男らしいノンケたちの挨拶で、映画の中にもそれを大げさに言うシーンが出てきます(もちろん、ネタとして)
ゲイの間でも(主にセクシャルな場面で)“男らしさ”へのこだわりや執着が根強くあると思うのですが、ちょっと考えさせられるかもしれません。
ともあれ、最高に笑えて泣けるゲイゲイしいラブコメ映画で、いつ観ても、何も考えずに観ても、間違いなく楽しめます。まだ未加入な方は、これを観るためだけにNetflixに加入する意味があると強くお勧めします(もちろん『ブラザーズ・ラブ』以外にもたくさんのゲイ映画やドラマが入っています)。ぜひぜひ、ご覧ください。
(後藤純一)
ブラザーズ・ラブ
2022年/米国/115分/監督:ニコラス・ストーラー/出演:ビリー・アイクナー、ルーク・マクファーレン、ベン・スティラー、デブラ・メッシング、エイミー・シューマー、クリスティン・チェノウス、ボーウェン・ヤンほか
Netflixで配信中
INDEX
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
- 休日課長さんがゲイ役をつとめたドラマ『FOGDOG』第4話「泣きっ面に熊」
- 長年のパートナーががんを患っていることがわかり…涙なしに観ることができない、実話に基づくゲイのラブコメ映画『スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月』
- 驚愕のクオリティ、全編泣ける究極のゲイドラマ『Ours』
- 女子はスラックスOKで男子はスカート禁止の“ジェンダーレス制服”をめぐるすったもんだが興味深いドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』








