REVIEW
『グレイテスト・ショーマン』の“ひげのマダム”のモデルとなった実在の女性を描いた映画『ロザリー』
『グレイテスト・ショーマン』に登場したひげの生えた女性・レティのモデルとなった、クレマンティーヌ・デレという多毛症の女性の愛と人生を描いた映画『ロザリー』が公開されます。カンヌ国際映画祭クィア・パルム賞ノミネート作品です

先日金曜ロードショーでも放送された『グレイテスト・ショーマン』に出てくるひげが生えた女性・レティのことを憶えている方、多いと思います(『This is me』をセンターで歌ってますよね)。実はレティにはモデルがいて、1870年代のフランスに実在したクレマンティーヌ・デレという多毛症の女性なのです(“ひげのマダム”と呼ばれていたそうです)。このクレマンティーヌ・デレに着想を得て、『ザ・ダンサー』のステファニー・ディ・ジューストが監督した『ロザリー』は、第76回カンヌ国際映画祭でクィア・パルム賞にノミネートされました。
ステファニー・ディ・ジュースト監督は、「父が亡くなり、虚無感と焦燥感を抱える中、「髭の生えた女性」として有名だったクレマンティーヌ・デレという女性が私の心を掴みました。見せ物となるのを拒絶し、一人の女性として人生を歩む欲求を誰よりも持っていたことを知り、時代の偏見に抗い女性らしさを貫く主人公・ロザリーが誕生しました。他人と自分を愛することがロザリーの闘いです。本作を通して無条件の愛、自己受容・自己創造の自由を描くために、髭が不可欠な要素となっています。他人と自分を愛することがロザリーの闘いです。本作を通して無条件の愛、自己受容・自己創造の自由を描くために、髭が不可欠な要素となっています」とコメントしています。
『ロザリー』は3月の横浜フランス映画祭で上映されたあと、5月2日から全国でロードショー公開されます。レビューをお届けします。
<あらすじ>
ロザリーは生まれつきの多毛症を隠し、田舎町でカフェを営むアベルと結婚する。彼の店を手伝うことになり、「ひげを伸ばした姿を見せることで、客が集まるかもしれない」とひらめいたロザリーに対し、初めは嫌悪感を抱くアベル。しかし、次第に彼女の純粋で真摯な姿に惹かれていくのだった…。





生まれつき多毛症であったロザリーは、体も毛深く、放っておくとひげもボウボウに生えてしまうので、カミソリで周到に毛を剃ることを日課にしています。ロザリーは夜な夜な悪夢にうなされ、自分みたいな女性は「この世界にたった一人しかいない」と思い、人々の蔑視や嫌悪に怯え、「絶対にこのことは他の人に知られてはならない」と心に決めて生きてきました…LGBTQと同じです(だからこそクィア・パルムにノミネートされたのでしょう)
一方のアベルは、(決して不格好でも不細工でもないと思うのですが)まあまあいい年で、腰が悪く、ちょっと気難しいところもあり、なので、結婚相手がいなかったんだと思います。そんなアベルのもとに、パッと見、すごい美人がやってきたので、それはそれは喜んで、うれしそうでした。が、ロザリーの体質の秘密を知ったアベルは、騙されたと憤慨し、露骨に嫌悪するのです…。
ただでさえ女性の社会的地位が低い時代でもあり、狭い田舎町でもあり、ロザリーが選べる道はほとんどないように思えました。が、努めて明るく振る舞い、人並みに幸せになりたい、コンプレックスであるこの多毛をもしも長所に変えられるならそうしたいと願うロザリーは、いちかばちかでカフェの客に、ひげの姿を見せることにするのです。前向きに、健気に奮闘するロザリーの姿に、アベルも少しずつ心を開いていきます。体質的なマイノリティであるロザリーのことを受け容れ、愛そうとするアベルは、例えば愛するパートナーがトランスジェンダーだったと知った人のように、やはり葛藤を抱え、苦しんだりしながらも、愛を育んでいこうと努める健気さを感じさせます。
しかし、いつの世も(『チョコレートドーナツ』に登場した蛇のような目をした男のように)マイノリティを排除しようと目論む輩がいるもので、二人の前に暗雲が立ち込めはじめます…。
たった独りで世界と闘おうとしても挫折してしまうかもしれない、けど、誇りを失わず、勇気を出して本当の自分をさらけだしたとき(まさに『This is me』ですよね)、きっと味方は現れるし、世の中捨てたもんじゃないと思えます。そんな光景を『ロザリー』は見せてくれます。希望が絶望に変わっても、それでも、愛することをやめないし、差別者に心まで汚されはしない…つまり、これまで作られてきたたくさんのクィア映画と同様の感動を、この作品は届けてくれます。
フランスの田舎町。『ピアノレッスン』みたいな音楽。森や川、道端の花、子どもたち。『弦楽のためのアダージョ』。この映画には美しいシーンがたくさんあります。
美しくも切ない、愛と人生を描いた名作でした。
ちなみに、ロザリーを演じた女性、どこかで観たことが…と思ったら、フランソワ・オゾンのオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』に主演していたナディア・テレスキウィッツでした。どちらの映画でも、自ら人生を切り開こうとする強い女性の役として素晴らしい演技を見せています。

ロザリー
原題または英題:Rosalie
2023年/フランス・ベルギー合作/115分/PG12/監督:ステファニー・ディ・ジュースト/出演:ナディア・テレスキウィッツ、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ、ギョーム・グイ、ギュスタブ・ケルベン、アンナ・ビオレほか
5月2日から新宿武蔵野館ほか全国で公開
INDEX
- HIV内定取消訴訟の原告の方をフィーチャーしたフライングステージの新作『Rights, Light ライツ ライト』
- 『ルポールのドラァグ・レース』と『クィア・アイ』のいいとこどりをした感動のドラァグ・リアリティ・ショー『WE'RE HERE~クイーンが街にやって来る!~』
- 「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』
- 同性の親友に芽生えた恋心と葛藤を描いた傑作純愛映画『マティアス&マキシム』
- 田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
- 『人生は小説よりも奇なり』の監督による、世界遺産の街で繰り広げられる世にも美しい1日…『ポルトガル、夏の終わり』
- 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
- GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
- カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
- 秀才な女子がクラスの男子にラブレターの代筆を頼まれるも、その相手は実は自分が密かに想いを寄せていた女子だった…Netflix映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
- 映画やドラマでトランスジェンダーがどのように描かれてきたかが本当によくわかるドキュメンタリー『Disclosure トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』
- 人生のどん底から抜け出す再起の物語−-映画『ペイン・アンド・グローリー』
- マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2
- 「夢の国」の黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から暴いた傑作ドラマ『ハリウッド』
- ゲイタウンでポルノショップを40年近く経営していた夫婦の真実の物語『サーカス・オブ・ブックス』
- ルポールとSATCの監督が贈るヒューマンドラマ『AJ&クイーン』
- Netflix視聴者数1位を記録中の衝撃実話『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?』
- ゲイのために「いい子ちゃん」から脱却したテイラー・スウィフトの真実を描いた『ミス・アメリカーナ』
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- 若き天才監督のスタイリッシュでスリリングな傑作映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
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