REVIEW
ブリティッシュ・カウンシル+BFIセレクション:トランスジェンダー短編集+『5時のチャイム』上映(レインボー・リール東京2025)
6月21日(土)・22日(日)に渋谷ユーロライブで第32回レインボー・リール東京が開催されました。21日(土)の「ブリティッシュ・カウンシル+BFIセレクション:トランスジェンダー短編集+『5時のチャイム』上映」のレビューをお届けします

1992年から始まり、国内で最長寿のLGBTQコミュニティイベントとなっているレインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)。2年ぶりとなる今年はプライド月間に渋谷のユーロライブで、7月第2週に東京ウィメンズプラザホールで開催されることになりました(詳しくは特集をご覧ください)
今回、渋谷のユーロライブで全6プログラムのうち4プログラムを鑑賞しました。レビューをお届けしていきます。
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21日(土)の18:45〜、英国映画協会(British Film Institute: BFI)のBFIフレア・ロンドンLGBTQIA+映画祭とブリティッシュ・カウンシルのパートナーシップに基づいて2015年から毎年優れたLGBTQIA+短編作品を世界に発信し続けているオンライン映画祭「Five Films for Freedom」およびその姉妹プロジェクト「More Films for Freedom」との共同企画によるトランスジェンダー短篇作品4本と、併せて英国人監督が日本で制作した日英共同制作作品『5時のチャイム』が上映されました。
上映前に、『5時のチャイム』のジェイムズ・クーパー監督と、主演の森かなたさんの舞台挨拶がありました。
監督はまず、今回このようにブリティッシュ・カウンシルのトランスジェンダー作品と一緒に上映されること、うれしく思います、と語りました(拍手)。監督は2012年に学生として来日し、その後、2020年に再び来日したのですが、コロナ禍が始まってしまい、帰るか悩んだのですが、日本ではクィアが製作したクィアフィルムが限られているなか、クィアの自分が映画を撮ることに意味があると思い、この作品を作ったんだそうです。
森さんは、5時のチャイムは子どもの頃は家に帰る合図だった、日本の人にとっていろんな思い出があると思うが、この作品がその一つにこれからなります、と語りました。この作品が俳優デビューだったそうですが、撮影中、日本人はこういうときこう振る舞うことが多い、といったところをアドバイスしていたそうです。
最初に上映された作品は英国・ブラジル合作の短編『記憶の鳥』。いなくなった鳥を探すトランスジェンダー女性がリオの街を歩く。ロカルノ、トロントなど多数の国際映画祭で上映された短編です。芸術的で素晴らしかったです。コンテンポラリーダンス、特に3人のトランス女性がグリーン(内側は赤)のワンピースで踊るシーンはカッコよかったです。「メモリア(記憶)」という鳥の失踪はメタファーで、あの街から見えなくされて記憶だけになったトランスの人たちへのオマージュなのかな、と思いました。ラストシーン、スゴいです。
続いての短編は英国の短編『トランス・ハッピネス・イズ・リアル』。トランスジェンダーの活動家がオックスフォードの街に出て、グラフィティを通して反トランスの感情と戦う様子を描いた作品です。トランスヘイトの執拗なシール貼りに対抗し、それを毎日剥がしてはシールに貼り替える、そのメッセージが「TRANS HAPPINESS IS REAL」という素敵な言葉なのでした。
それから、2021年に創設された英国のトランスジェンダー選手のサッカーチームの姿を追った『レッツゴーTRUKユナイテッド!』。トランスヘイトの空気が高まるなか、安全でインクルーシブなコミュニティを築こうとする苦難に満ちた歩みを2年にわたって追いかけたドキュメンタリーで、とても感動しました。サッカーには全く興味がないのですが、このチームの試合だけは観たいと思いました。臨場感や手に汗握る興奮、喜びや人間らしい感情にあふれていました。名作です。
トランスジェンダー短編集の4本目は『おいしい水に捧ぐ祈り』。南アフリカ共和国・ケープタウンでセックスワーカーとして生きる3人のトランスジェンダーがコロナ禍に直面しての心情を語ったドキュメンタリー作品です。同性婚は早くに認められた南アフリカですが、トランスジェンダーは何の支援も受けられず、生きていくのが本当につらい…という語りが身につまされました。
最後は日英合作の短編『5時のチャイム』です。防災行政無線の5時のチャイムが鳴り響くなか、主人公のセイジは、ある青年との満たされなかった出会いに夢中になり、どんどん空想の世界に引き込まれていってしまう…という物語です(セクシーなシーンもあります)。あの時、あの青年ともっと話しておけば…という人生の分かれ道を描くとともに、ちょっとサスペンスな要素もあったり。最後のおまけ的なシーンがめっちゃ日本を意識した遊び心満載な映像で、笑いを誘ってました。
次は7/12(土)12:15から東京ウィメンズプラザにて上映されます。見応えのあるプログラムですので、ぜひ。
◎ブリティッシュ・カウンシル+BFIセレクション:トランスジェンダー短編集+『5時のチャイム』上映
『記憶の鳥』
原題:Pássaro Memória 英題:A Bird Called Memory
監督:レオナルド・マルティネリ
2023|UK・ブラジル|15分|ポルトガル語
More Films For Freedom 2022/2023
『トランス・ハッピネス・イズ・リアル』
英題:Trans Happiness Is Real
監督:クイントン・ベイカー
2020|UK|8分|英語
Five Films for Freedom 2021
『レッツゴーTRUKユナイテッド!』
英題:We’ll Go Down in History
監督:キャメロン・リチャーズ、チャーリー・ティドマス
2025|UK|25分|英語
Five Films for Freedom 2025
『おいしい水に捧ぐ祈り』
英題:Prayers for Sweet Waters
監督:イライジャ・ヌンベ
2021|UK・南アフリカ|16分|英語、フランス語、キルンディ語
More Films For Freedom 2021/2022
『5時のチャイム』
英題:The 5 O'Clock Chime
監督:ジェイムズ・クーパー
2024|UK・日本|15分|日本語
上映後、ブリティッシュ・カウンシルのプロジェクト・マネージャーである武部浩子さんと、フェンシング元女子日本代表でトランス男性の杉山文野さんのトークショーがありました。
武部さんが最初に、ブリティッシュ・カウンシル(日英交流の機関)やBFIフレア・ロンドンLGBTQIA+映画祭、「Five Films for Freedom」「More Films for Freedom」について説明しました。世界中から公募を受け付けているそうなので、日本の映画制作者の方、BFIフレアに応募してみては?とのことでした。
杉山さんは、今回上映された作品の制作国、英国、ブラジル、南アフリカのすべてに行ったことがあるということで、南アフリカは怖いイメージがあるかもしれないが、人権意識の高い国だし、特に危険はなかったとか、リオ五輪でプライドハウスを訪ねたときの思い出、ケンブリッジ大学でフェンシング部で(キャプテンがレズビアンの方だったそうで)受け容れてもらえた話などを語ってくれました。
武部さんが、英国のトランスジェンダー差別やバッシング(JKローリングのこととか)について語りました。
杉山さんは、スポーツの世界でトランスジェンダーが排除されがちな理由を「政治利用されている」「複雑でわかりにくい」ということを挙げて説明してくれました。ひとくちにトランスジェンダーと言っても、性別移行の段階など幅があり、多様である、スポーツも、競技によって特性が幅広く多様である、さらに子ども向けのスポーツからオリンピックまで幅広い、それらの掛け合わせを丁寧に見ていかないといけない、というお話。とてもわかりやすかったです(さすがです)
最後に杉山さんは、今回レインボー・リール東京が6月のプライドマンスに開催されたことに触れて、「個人的にはTokyo Prideと一緒にやれたらいいと思っています」とおっしゃってくださいました。来年以降、何らかの協働が実現し、一緒にやれたら理想的なのではないでしょうか。かつて東京のパレードは、毎年安定して開催することが難しく、そこからTRPが毎年の継続開催を目指して立ち上がったという経緯がありますが、同様に(パレードがなかった年も貴重な東京のコミュニティイベントとして頑張っていた)レインボー・リール東京が今、毎年の継続開催が難しくなっているわけですので。
とても有意義なトークセッションでした。拍手!
INDEX
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- ブリティッシュ・カウンシル+BFIセレクション:トランスジェンダー短編集+『5時のチャイム』上映(レインボー・リール東京2025)
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