REVIEW
映画『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描き、大好評を博したドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』の劇場版が公開されました。ゲイのことがメインでしたし、いろんな意味で良い作品でした。ぜひご覧ください

差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(通称「おっパン」)の劇場版が公開されました。ドラマは古いジェンダー規範や偏見で凝り固まり、家族にも部下にも嫌われている典型的なおっさん・沖田誠が、ゲイの青年・五十嵐大地との出会いによって人としての成長を誓い、常識をアップデートしていくというホームコメディで、女子のような服装やメイクが好きな引きこもりの翔が(セクシュアリティについてははっきり言ってないのですが、たぶんゲイかトランスジェンダーで)大地のおかげで学校に行けるようになったり、だんだん誠がアライに変わっていき、最終話では大地のホモフォビックな父親を家族一丸となって説得し、大地と彼氏の円の結婚式の仲人までするという、たいへんドラマチックで感動的な作品でした。
その「おっパン」が映画化されるということで、期待もありつつ、映画版『きのう何食べた』のトラウマ※ゆえの一抹の不安もありました。どんなにドラマが良くても映画になるといろんなことが変わったりするからです。
※映画版『きのう何食べた』は、キスをねだるケンジに対してシロさんが何度も何度も「やめろよ」と拒む(笑いながら突いたりもする)シーンが「笑いのネタ」として使われていたのが嫌でたまらず(体育会などの男社会でよくある、男どうしで許容される距離の近さの一線を越えたときの「やめろよ」にしか見えませんでした)…ドラマが素晴らしかっただけにたくさんのゲイの方たちがお金を払って映画館に観に行ったと思いますが、そんなみなさんにあのようなシーンを見せることの無神経さ。映画となるとやはり興行成績が重視されるわけで、当事者視点を疎かにしてでも世間受けを優先するんだな、と思い知りました。(過去にも、ゲイのための映画ですというフリをしてストーリー上全く必要のない男女のsexのシーンを延々と入れたり、LGBTQへの理解もリスペクトもない映画を撮った監督もいましたし、ゲイのエキストラを使いながら態度が横柄でコミュニティへのリスペクトが感じられない監督もいました。世間で話題になるような商業的な映画ってだいたいそんな感じで…不信感を覚えずにはいられませんでした)
<あらすじ>
ゲイの大学生・大地との出会いをきっかけに、間違いだらけだった自分の考えをアップデートしはじめた沖田誠。家族もそれぞれの「好き」を変わらず謳歌し、沖田家にようやく平穏な日常が訪れたかに見えた。しかしそんな矢先、アップデート前の誠からパワハラとも言える扱いを受けていた元部下の佐藤が、誠の取引先相手として現れる。一方、大地はパートナーの円と遠距離で暮らすことになり、彼に会えない寂しさや不安を募らせていく…。





果たして、劇場版はどうだったかというと…とてもよかったです。この映画のいちばんのクライマックスの部分でゲイのことが描かれていて、感動しました(ちょっと泣けました)
遠距離恋愛となった大地と円が、自治体の同性パートナーシップ証明制度はあるけれども、距離が離れて自治体の境を越えてしまうと(法的に家族になれないがゆえに)何かあったときに連絡が行かないんだ、と寂しそうに語るシーン、そして、円がなんとかその問題を解決したくてとった行動が大地を感動させるシーンがとてもよかったです。
コスメ大好きな翔(かける)とその仲間のギャルたちが、不運な出来事に見舞われた野球部の長谷川たちを励まそうと奮起するシーンもよかったです。翔がレースっぽい襟のシャツの上にピンクのカーディガンを羽織って公共の場所(あまり派手な格好ではいかないような場所)に現れるシーンも素敵でした。
女子であるがゆえに壁に阻まれ、悔しい思いをしている人に向かって、「やりたいことより性別が先に来るって難しいよね」と語りかけるシーンもよかったです。今回の映画のメインテーマは「好きなことをやり通すって難しい」だったと思いますが、生まれつきの性別でできることが制限されてしまう不条理を、翔とその女子生徒が体現していました(同時に翔とその女子生徒が活躍する場面も描かれていて、シビれました。カッコよかったです)
誠はほぼほぼアップデートが完了していたのですが、パワハラ上司だった過去の自分がやらかしたことの尻拭いをするハメに。
美香(誠の妻。萌と翔のお母さん)はアイドルの推し活のために正社員になるも、いろいろと苦労し…。
萌は二次創作のBLの同人作家としての地位を捨ててオリジナルの非BL作品にチャレンジするが…。
家族みんなが何かに打ち込んでいながらそれぞれがお互いを気遣い、ケアしあい、大地&円カップルのことも家族同然に扱かっている様が本当に素敵で、この世界に住みたいとすら思いました。
あと、誠の職場の様子も面白かったです。パワハラ体質なおっさん上司に辟易している方は、きっと笑えると思います。
安易なハッピーエンドや予定調和に落とし込まず、それぞれが直面するしんどさや課題は大部分、未解決のままなのですが、それでもちょっとずつ前進があったり、希望が見えたりする、そういうお話になっているところがリアルでいいです。
男性・家長・部長として威張ったり女性やゲイを見下してきた(有害な男性性をふりまいてきた)おっさんと、マイノリティである女性&ゲイ連合との闘いから始まったこの作品は、おっさんが自分自身の差別意識を自覚し、これまでの言動を反省し、態度を改め、下駄を脱ぐ(偉そうな場所から降りる)ことで、お互いを認めあい、尊重しあい、対等に話せるようになり、女性蔑視&同性愛嫌悪vs男性嫌悪の不毛な負のスパイラルから抜け出し、理想的な家族や職場のありようを見せてくれました。
世の中にさまざまな差別やヘイトスピーチ、特定の集団が不当に優遇されているから排除すべきだといった恐怖と怒りを煽る言説があふれる時代にあって、この映画はなんと美しい、素晴らしいホープスピーチにあふれていることでしょう。誰もが自分らしく生きられる社会、目指すべき未来や等身大の理想社会を生き生きと、リアルに描いてくれています。
役者さんはこれまでの主要な方たちが全員続投で、新たにトータス松本さんなども出演しています。ウルフルズが提供した「おっさんのダンスが変だっていいじゃないか!」はめっちゃこの映画に合った歌で、原田泰造さんのダンスシーンも観られます。お楽しみに。
というわけで、ぜひ、映画館でご覧ください。
おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!
2025年/日本/114分/G/監督:二宮崇/出演:富田靖子、原田泰造、中島颯太、城桧吏ほか
INDEX
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
- 同性愛者を含む4人の女性たちの恋愛やセックスを描いたドラマ『30までにとうるさくて』
- イケメンアメフト選手のゲイライフを応援する番組『コルトン・アンダーウッドのカミングアウト』
- 結婚もできない、子どももできないなかで、それでも愛を貫こうとする二人の姿を描いたクィアムービー『フタリノセカイ』
- 家族のあたたかさのおかげで過去に引き裂かれた二人が国境を越えて再会し、再生する様を描いた叙情的な作品――映画『ユンヒへ』
SCHEDULE
- 09.26さっぽろレインボープライド
- 09.26First kiss
- 09.26POP POP BUNNIES -2nd STEP-
- 09.26露ナイ 秘密の楽園
- 09.27さっぽろレインボープライド






