REVIEW
女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画です。『8人の女たち』と並ぶフランソワ・オゾンの最高傑作と言えるんじゃないでしょうか
フランソワ・オゾンといえば、今年6月に『苦い涙』が上映されたばかりですが、早くも新作映画が届きました。
1930年代のパリを舞台に、映画プロデューサー殺人事件の“犯人の座”をめぐって3人の女性たちが繰り広げる騒動をユーモアたっぷりに描いたクライムミステリー『私がやりました』。女性たちによるオシャレで痛快な「反逆同盟」を描いた(ちょっと毒のある)キャムプな傑作コメディです。
<あらすじ>
有名映画プロデューサーが自宅で殺された。容疑者は、売れない新人女優マドレーヌ。プロデューサーに襲われ、「自分の身を守るために撃った」と自供する彼女は、親友で駆け出しの弁護士ポーリーヌと共に法廷へ。マドレーヌは正当防衛を訴える鮮やかな弁論と感動的なスピーチで裁判官や大衆の心をつかみ、見事無罪を勝ち取り、「悲劇のヒロイン」として一躍時の人となって、スターの座へと駆け上がっていく。ところが、二人の前にオデットという往年の大女優が現れる。プロデューサー殺しの真犯人は自分で、マドレーヌたちが手にした富も名声も自分のものだ、こんなに魅力的な“犯人の座”は渡せないとオデットは主張する。果たしてスターの座は誰の手に?
いやあ、本当に面白かったです。手に汗握る、あっと驚く展開。愉快、痛快、爽快なエンタメ作品。オゾンの最高傑作の一つだと思います。
ベルリン国際映画祭で8人の女優全員が銀熊賞を贈られるという伝説をつくった大傑作映画『8人の女たち』を思い出す方も多いはず。『8人の女たち』も女性たちが主人公で、家長のマルセルを殺したのは誰か?をめぐるミステリーとコメディが一体となった作品でした。犯罪を利用して有名になる女性2人が主人公ってところは『シカゴ』っぽくもありますね。これで歌や踊りが入ったら、さらに人気作になるのでは?
ポップでキャッチー、そして、古い映画のスタイルをわざとらしく使うキッチュさもいい感じです。女性たちの着ている衣装もとても素敵で、オデットにいたってはまるでドラァグクイーンのような派手さ加減です(トゥーマッチなキャラクターも含め、キャムプの称号に値するでしょう)
フランスの古典喜劇を感じさせる部分もありますし(どうやらモリエールだかコルネイユだかの喜劇のセリフが引用されているようです)、マリー・アントワネットも出てきますし、フランスらしさが随所に盛り込まれつつ(大衆受けを狙ってるんでしょうね)、『魔笛』とかビリー・ワイルダーの『ろくでなし』とか(どちらも「悪女」が登場する作品ですね)、いろんな要素が入っているところも面白いです。
業界の大物である爺さんの殺人をめぐるミステリーでありながら、女性たちが機転を利かせ、あっと驚く芝居で世間を味方につけ、男尊女卑な世の中を変えていくところの痛快さ、「してやったり感」がたまらなく、男たちに虐げられてきた女性たちが結託して世間を欺き、あまりにも美しく鮮やかにのしあがっていく様にシビレます。ピチカート・ファイヴのアルバムで『女性上位時代』ってありましたけど、『女性上位時代』という「概念」を映画化したらこうなるんじゃないかと思いました。正直、『バービー』よりも面白くて誰もが共感できる女性礼賛映画だと思います。
本国で大ヒットしたのもうなずけます。
ただゲイテイストなだけでLGBTQとは関係のない映画なのかというと、そうではありません。
はっきりとではなく、ほのめかしなのですが、同性愛要素はゼロではありません。そこはかとない切なさを感じさせます。
この映画、マドレーヌとポーリーヌという2人の女性が主人公なのは間違いないのですが、たぶんゲイの観客の多くは、(サイレント時代の)往年の大女優で、トゥーマッチなキャラクターのオデットに「アガる」と思います。イザベル・ユペールという、『8人の女たち』では「ざますメガネ」をかけたキャラを、『ピアニスト』という映画では、性欲をたぎらせたピアノ学科教授を演じていて、割とカタブツなイメージが強いと思うのですが、そんなイザベル・ユペールがこういう役で登場したのが面白いです。カトリーヌ・ドヌーヴではなく、イザベル・ユペールがやるからギャグになるんだと思います。さすがはオゾンです。
ついこの間『苦い涙」が上映されたばかりなのに、またもやこんなに面白い映画を作り上げたなんて…オゾンの衰え知らずの多作っぷり、才能やエネルギーがあふれてしまって嬉々として映画を撮ってる様子が窺えます。本当にスゴいと思います。感服せざるをえません。キホン、ゲイか女性のための映画しか撮ってないっていうところも素敵です。次はどんな作品を観せてくれるのか、今から楽しみです。
私がやりました
原題:Mon crime 英題:My Crime
2023年/フランス/103分/G/監督:フランソワ・オゾン/出演:ナディア・テレスキウィッツ、レベッカ・マルデール、イザベル・ユペールほか
INDEX
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」
- アート展レポート:moriuo個展「IN MY LIFE2023」
- 「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
- 女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
- これは傑作! ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』
- シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
- 台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』
- ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
- 史上最高にゲイゲイしいファッションドキュメンタリー映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
- ryuchellさんについて語り合う、涙、涙の番組『ボクらの時代 peco×SHELLY×ぺえ』
- 涙、涙…実在のゲイ・ルチャドールを描いた名作映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』
- ソウルにあったハッテン映画館の歴史をアニメーションで描いた映画『楽園』(「道をつくる2023」)
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
SCHEDULE
記事はありません。