REVIEW
『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
『ため息に乾杯』はパートナーの突然の死という悲劇に向き合い、立ち直ろうとする主人公の旅をゲイテイストに描いた作品。『シッツ・クリーク』ダン・レヴィが初めて監督した長編映画です。

2020年のエミー賞でコメディシリーズ7部門を完全制覇するという快挙を成し遂げた『シッツ・クリーク』。脚本、監督、出演(ゲイの息子役)も務めたダン・レヴィは一躍時の人となり、その才能が世界的に注目されることとなりました。そうして今回、初めて長編映画の脚本・監督デビューを飾り、Netflixで1月5日から配信されました。
ダン・レヴィが主人公を、ゲイのイケオジ俳優ルーク・エヴァンス(『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』『インモータルズ -神々の戦い-』『美女と野獣』)がその夫の役を演じています。
<あらすじ>
アーティストのマークは、名高い作家である夫・オリヴァーの影で生きることに満足していた。しかし、クリスマスパーティの夜、オリヴァーが突然の死を遂げたことで、マークの幸せは崩れ去ってしまう。マークは1年後、夫が最期に遺したクリスマスカードの封を開けたことをきっかけに、つらい真実と向き合い、悲しみを乗り越えるべく、2人の親友ソフィ、トーマスと一緒にパリへに出かけるのだが…。




とても素敵な映画でした。
原題はGOOD GRIEFと言います。「これは驚いた!」「やれやれ…」という意味なのですが、GRIEFはそもそも死別による深い悲しみという意味で、最愛の夫が突然亡くなるというストーリーにも沿っています。グリーフワーク(大切な人との死別で受ける悲しみから立ち直るためのプロセス)、グリーフケア(死別の悲しみを抱える遺族をサポートすること)という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。
ダン・レヴィはコメディの人だと思っていたので、このようなシリアスなストーリーだったのが意外でしたが(もちろんコメディ的な要素もあって面白かったです)、すべてがゲイテイストで、繊細で、運命に翻弄されながら生きる人々の感情の機微や人生の真実に迫ろうとする上質なヒューマンドラマになっていたと思います。
冒頭の、オリヴァーとマークのアパートメントでのクリスマスパーティのシーンは、ちょっと感動的ですらありました。オリヴァーがみんなにあらかじめ歌のパートをメールを送り、オリヴァーの元彼でアカデミー賞ノミネート作曲家の人がピアノ伴奏して、「毎日が祝日のよう。愛しい人が帰ってきたら」という歌をゴスペルのようにみんなで合唱するのです。
ゲイだけでなく、オリヴァーのお父さんもいるし、マークの親友の女性・ソフィとその彼氏もいますが、ゲイカップルのおうちでのクリスマスパーティってこういう感じよね、と思わせる、素敵なパーティでした(日本でもこういう感じでマンションのバンケットルームを使ってジャズやクラシックの演奏が行なわれるホームパーティが開かれたりしています)
オリヴァーの突然の死の場面は(「いかにも」かもしれませんが)とても映画的だと思いました。この曲をBGMで使うのか!と思ったり。
お葬式の場面の、オリヴァーが書いた世界的な人気シリーズ「ビクトリア」の映画に主演していた女優のズレまくったスピーチは、クスッと笑わざるをえませんでした。
マークは、ソフィ、トーマスという親友に支えながら、なんとか最愛の夫の死を受け入れ、悲しみを乗り越えて、日常を取り戻そうとしますが、1年が経ち、夫が最期に遺したクリスマスカードの封をようやく開ける気になったとき、そこに書かれていた言葉に驚きます。さらに、資産管財人の女性から、驚きの事実を教えられ、パリ行きを決意するのです。
パリでのいろいろは詳しくは語りませんが、美術館でのロマンチックなシーンもあり、ゲイの恋愛の「あるある」というか、アチャー…って思う出来事(すったもんだ)もあって、ドラマチックでもあり、また、人生の真実に迫るようなシリアスな部分もあって、それがパリの美しい風景とあいまって(ちょっと観光映像的というか、パリの風景に頼りすぎなきらいもありましたが)なかなかに映画的で印象的なシーンが描かれていたと思います。
ロマンスもあるのにSEXのシーンは描かないところは潔く、清潔感があるとも言えるかもしれませんが、個人的には物足りない気がしました。もうちょっと脱いだりとか、せめてベッドに行くところまでは描いたほうが自然なのでは?
ダン・レヴィの友達との接し方や、ちょっと困ったような微笑みや、ハグの仕方、ちょっと友達に甘えちゃうというか、少しselfishに振る舞う部分があったりしつつも、チャーミングで魅力的でっていうところが身近なゲイの友達にそっくりで、こういうのって本当に万国共通なんだなぁと思いました。
マークをアーティスト(挿絵画家)という設定にしたのも効いています。
ゲイの画家なんてありふれてる、クリシェじゃない?と思う向きもあるかもしれませんが、アーティストじゃなかったらこの映画は成り立たないでしょうし、これでよかったと思います。
ゲイだけでなく、レズビアンの人物も登場しますし(ワオ!と思う明かされかたです)、親友のソフィーを演じたルース・ネッガがエチオピア系アイルランド人、トーマスを演じたヒメーシュ・パテルはインド系移民2世の英国人で、人種的多様性にも配慮されています。
ちなみに愛する家族を喪った悲しみを癒すためにパリに向かうというストーリーは『Winter boy』と全く同じです。パリとはそういう街なのでしょう(でもそれはきっとニューヨークも同じでしょうし、もしかしたら東京もそうかもしれません。都市はゲイを自由にするのです)
いつかパリに行ってみたい、と思わせる映画でもあります。
ため息に乾杯
原題:Good Grief
2024年/米国/100分/監督:ダニエル・レヴィ/出演:ダニエル・レヴィ、ルース・ネッガ、ルーク・エヴァンス、ヒメーシュ・パテルほか
Netflixで1月5日より配信
INDEX
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
SCHEDULE
- 01.17令和のぺ祭 -順平 BIRTHDAY PARTY-
- 01.17GLOBAL KISS
- 01.18がいずば14周年&がい還暦パーティー







