REVIEW
夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
イシヅカユウさんが『片袖の魚』に続き、トランス女性の役として主演した短編映画です。痛みや辛さを抱えながら夜の街で生きる女性たちへの讃歌のような作品です

イシヅカユウさんは「パンテーン PRO-V ミセラーシリーズ」や、オンワードの「IIQUAL」の広告のメインビジュアルを務めたモデルであり、『片袖の魚』の主演に抜擢されて俳優としても有名になった方です。『片袖の魚』は東海林毅監督が「トランスジェンダー役はトランスジェンダー当事者の俳優に」との思いでトランス女性俳優を公募し、オーディションでイシヅカユウさんのキャスティングを決めた作品で、理解ある同僚に恵まれ、同じトランス女性の友人もいて(時に周囲の人々との間に言いようのない壁を感じながらも)東京で暮らしていくことができている主人公が、出張で故郷の街に行くことになり、ひさしぶりに、勇気を出して(好意を抱いていた)同級生の男性に連絡を取って会うことになったものの、行ってみるとそこにはクラスの男たちが集まっていて、無遠慮な視線や心ない言葉を浴びて傷つき…というお話でした。トランス女性が直面しがちな生きづらさに寄り添いながら、でも、過度に深刻だったり悲劇のヒロインだったり亡くなったりせず、いまのリアリティを描き、救いもある、主人公の美しさや生き生きとした表情も描く、魅力的な作品でした。
今回の『Colors Under the Streetlights』もイシヅカユウさんが当事者の役として主演した短編映画です。イシヅカユウさんが演じているのはガールズバーのキャストたちを送迎するユリカというドライバーの役。イシヅカさんは最初、「ほかの人にバトンを渡すという意味でも、これは私がやる必要があるのかな?」と考えてお断りしたそうですが、監督と会って話すうちに、脚本の面白さに惹かれ、「いかにもトランスジェンダーっぽい」役ではないと思って引き受けることにしたんだそう(CINRA「イシヅカユウが俳優として目指す表現とは。主演映画『Colors Under the Streetlights』をめぐるフォトインタビュー」より)
<あらすじ>
ガールズバーのキャストたちを乗せ、夜の街を走るドライバーのユリカ。バーカウンターに立つミチルは、今夜も上手く客をあしらっている。カオルは、デート相手の男の車を降り、家に帰るふりをして店に出勤する。スタッフルームに身を潜めるユリカは、そんなミチルやカオルの様子を遠くから見つめていた。そしてその夜、仕事あがりのミチルとユリカが路肩で言葉を交わしていると、巡回していた警察官が二人に事情を聞き始め……。




すごくいい映画でした。映画館で、しみじみと、いい映画を観たなぁと思ったのはひさしぶりかも。短編なので、あっという間でしたが、心に灯がともったような、ふだん歩いてる夜の街がいつもと違う温度に感じられるような、しみじみとした余韻がありました。
イシヅカさんが「いかにもトランスジェンダーっぽい」役ではないと語っていたので、もしかしたら、ほとんど誰もトランスジェンダーだと気づかない、トランスジェンダーじゃなくてもいいような役柄なのではないかと思いながら観たのですが、全然そうじゃなくて、そのことが物語の中心にありましたし、胸が痛みましたし、憤りも覚えました。がっつりクィア映画でした。
同時にこれは、夜の街に生きる女性のやるせなさや、つらい現実(を忘れたいという思い)を描く、言ってみれば「女はつらいよ」な作品であり、そういう女性たち(もちろんユリカも含め)への讃歌なのでした。
イシヅカさんの役は『片袖の魚』のときとはだいぶ違っていて、ちょっと影のある、言葉少ないキャラクターで、どこかミステリアスな印象も受けます。たぶんですが、二度、三度と観ていくと、新たな気づきがあるというか、ユリカがこのシーンではこういう思いでいるんだな、とか、そういうところの見方が変わっていく気がします。深みのある演技です。
クィア女性のドライバーが主人公の物語といえば、橋本治の短編小説「愛の牡丹雪」の主人公であるレズビアンのトラック運転手を思い出す方もいらっしゃるかもしれませんが、ユリカはそういうぶっきらぼうな感じではなく、ジェンダー論的にも、たぶんですが、ドライバーという職業のイメージとしても、新しいキャラクターになっているんじゃないかと思いました。
短編にしては珍しいと思うのですが、セリフが少なめで、ものすごく「間」や「余白」を重視した表現になっていたのも印象的でした。
あと、これは自分自身が喫煙者で、何十年にもわたってたくさんの映画を観てきた人として感じたことですが、こんなに「タバコを吸う」という行為にポジティブな意味が込められた映画を観たのって初めてかも、と思いました。人生、どうしようもなく「やってらんねえ!」と思うこともあるし、泣きたくなるような夜もあるし、クソな世の中の現実を生き抜く人々にとって、タバコはなくてはならないものだったりするし(ドライバーとかお酒飲めないですからね)、ときにはタバコを吸うことを通じて「友情」とか「連帯」が生まれたりもする、そういう(多くの人が実感してきたであろう)リアリティが見事に、これ以上ないくらい素敵に描かれていて、そのことにも感動しました。
テアトル新宿という、靖国通りに面した場所で上映されています。通りを渡れば、まさに映画で描かれたようなガールズバーやたくさんの風俗店がひしめく歌舞伎町です。少し東に行けば二丁目です。そんな映画館で『Colors Under the Streetlights』を観て、いつもとは違った気持ちで夜の街に繰り出してみてもよいのでは?と思います。
Colors Under the Streetlights
2024年/日本/22分/監督・脚本:定谷美海/出演:イシヅカユウ、大森亜璃紗、千國めぐみ、斉藤陽一郎、関口アナン、マギー
12月13日よりテアトル新宿にて公開
INDEX
- 映画『シカダ』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『ノー・オーディナリー・マン』(レインボー・リール東京2021)
- 映画『恋人はアンバー』(レインボー・リール東京2021)
- 台湾から届いた感動のヒューマン・ミステリー映画『親愛なる君へ』
- 日本で初めて、公募で選ばれたトランス女性がトランス女性の役を演じた記念碑的な映画『片袖の魚』
- 愛と自由とパーティこそが人生! 映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』レビュー
- 苛烈なホモフォビアに直面しながらも必死に愛し合おうとするけなげな二人…しかし後半は全く趣旨が変わる不思議な映画『デュー あの時の君とボク』
- かけがえのない命、かけがえのない愛――映画『スーパーノヴァ』
- プライド月間にふさわしい観劇体験をぜひ――劇団フライングステージ『PINK ピンク』『お茶と同情』
- 同性と結婚するパパが許せない娘や息子の葛藤を描いた傑作ラブコメ映画『泣いたり笑ったり』
- 家族的な愛がホモフォビアの呪縛を解き放っていく様を描いたヒューマンドラマ: 映画『フランクおじさん』
- 古橋悌二さんがゲイであること、HIV+であることをOUTしながら全世界に届けた壮大な「LOVE SONG」のような作品:ダムタイプ『S/N』
- 恋愛・セックス・結婚についての先入観を取り払い、同性どうしの結婚を祝福するオンライン演劇「スーパーフラットライフ」
- 『ゴッズ・オウン・カントリー』の監督が手がけた女性どうしの愛の物語:映画『アンモナイトの目覚め』
- 笑いと感動と夢と魔法が詰まった奇跡のような本当の話『ホモ漫画家、ストリッパーになる』
- ラグビーの名門校でホモフォビアに立ち向かうゲイの姿を描いた感動作:映画『ぼくたちのチーム』
- 笑いあり涙ありのドラァグクイーン映画の名作が誕生! その名は『ステージ・マザー』
- 好きな人に好きって伝えてもいいんだ、この街で生きていってもいいんだ、と思える勇気をくれる珠玉の名作:野原くろ『キミのセナカ』
- 同性婚実現への思いをイタリアらしいラブコメにした映画『天空の結婚式』
- 女性にトランスした父親と息子の涙と歌:映画『ソレ・ミオ ~ 私の太陽』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
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