REVIEW
バンパイアというマイノリティの悲哀と愛をクィアになぞらえて描いた異色作:映画『シレンシオ』(レインボー・リール東京)
6月のユーロライブに続き、7月に東京ウィメンズプラザホールで開催されたレインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜。1日目、7月11日(土)に上映された異色作『シレンシオ』のレビューをお届けします

レインボー・リール東京は昨年から(TRPのリニューアルに合わせるかのように)6月に渋谷ユーロライブで、7月に青山の東京ウィメンズプラザホールで開催されるようになっています。ユーロライブでは『ボディ・ブロー』『せき止められた水』『来訪者』『クィア・アズ・パンク』を観てレビューをお届けしました。7月11日(土)、まだ観ていなかった映画『シレンシオ』を東京ウィメンズプラザホールで観ましたので、会場の様子とあわせてレビューをお届けします。
表参道の駅の改札を出て、ああ、以前は左に進んでスパイラルに向かってたのにな…とちょっと寂しさを覚えながら、間違わず右へと歩みを進め、ウィメンズプラザを目指しました。このエリアってお高いお店ばかりなイメージですが、ウィメンズプラザの近くには奇跡的にやよい軒もあるしサーティワンやファミマもあるし、いい感じです。
映画を観終わってロビーに出ると、毎年必ず映画祭で会う茨城在住のカップルさんにお会いして、再会を喜びました(この次の上映が『来訪者』だったので、結構ゲイの方がたくさんいらしてました)。代表の宮沢さんなどにもお会いできました。こういうのが映画祭の楽しさですね。
さて、『シレンシオ』ですが、映画祭の公式サイトでは、こういうふうに紹介されていました。「黒死病による「清浄な人間の血」不足を生き延びた吸血鬼の姉妹。しかし、真の毒は彼女たちを取り巻く沈黙だった。数世紀後、彼女たちの末裔の一人がスペインのエイズパンデミックの中で同じ葛藤に直面する。キッチュな世界観の中繰り広げられるファンタスティック・ラブストーリー」。これを読んで、まさか、HIVを含んだ血を“不浄”なものとして描いているのでは…?と不安になり、ちょっと問い合わせてみたのですが、逆に「吸血鬼に対する偏見をHIVに対する偏見に見立てた作品」であり、HIV陽性者への差別は全くない、とのお返事をいただき、安心しました。
<あらすじ>
歴史の陰で、秘密が心臓の鼓動のように脈打っていた。吸血鬼の姉妹たちは黒死病(ペスト)による「清浄な人間の血」不足を生き延びたが、しかし、本当の毒は、彼女たちを取り巻く沈黙にあった。ペストの時代、エイズ禍の時代、そしてポストパンデミックの未来という3つの時代にまたがり、吸血鬼というアウトサイダーは、彼女たちを責め立て脅かす世界の中で愛と欲望と喪失の旅を進めていく――

面白かったし、いい映画でした。予想外に哲学的というか、深い作品でした。
冒頭、ピンクトライアングルと「SILENCE=DEATH」の文字が映し出され(80年代、米政府がエイズ対策をろくに行なわず、ゲイ・バイセクシュアル男性がたくさん亡くなっていったなか、ACT UPのような団体が立ち上がり、「SILENCE=DEATH」のスローガンを掲げ、抗議デモを行ないました)、ハッとさせられ、HIVのことをどう扱っているのかという懸念はすぐに吹き飛びました。そして、「シレンシオ」ってイタリア語で「SILENCE(沈黙)」って意味だったのか!とも気づいたり。
そして、未来的な映像で、女性が意味ありげな追悼のようなことをした次の瞬間、映像は急に中世に。ゴシックホラー的なビジュアルとコメディっぽくもある女性バンパイアたちのかしましいやりとりが展開されます。このペストの時代に彼女たちの犠牲者となるフェリペという青年がとてもセクシーでした(まさかこんな素敵な男性の裸が出てくるとは思いませんでした。眼福)
(黒死病による「清浄な人間の血」不足という紹介文とは矛盾するのでちょっと疑問なのですが)エイズの時代において、バンパイアたちは人間の病気はuntransmittable(感染しない)であり、そもそもHIVを含んだ血液への差別がないということや、バンパイアはいわば中世の「魔女」であり、人間に忌み嫌われ、殺されてきた存在であり、世間から隠れ、「沈黙」を余儀なくされてきた存在であるということが描かれました(そういう意味ではこの作品におけるバンパイアは、幽霊とかX-MENなどと同様、クィアのアレゴリーとして描かれていたと言えます)。そんなバンパイアも、人間と恋に落ちます。けれどもそれは、寿命が違いすぎるし、そもそも正体がバレたらどんな酷い目に遭うかわからない、カミングアウトにはとてつもない勇気がいるし、あまりにも無謀な恋です。それでも、その高い障壁を乗り越えて愛し合うことは不可能じゃない(しかも女性どうしで)という、予想外の、ものすごく高度な愛が描かれていました。もう一点、バレたら殺されるから絶対に正体を明かさない、というバンパイアの「鉄の掟」が、愛ゆえに変わっていく、「沈黙(シレンシオ)」を破り、命を賭けて声を上げていこうとする、その勇気にも感動させられました。
あとで調べてわかったのですが、監督のエドゥアルド・カサノバは自身もHIV陽性の方でした。エドゥアルド・カサノバ監督は「あなたに触られて」などのダークな(それでいてマイノリティに寄り添う)社会派コメディをつくってきた方で、今作もそうした作品の系譜に連なるものだと言えそうです。そこでHIV差別自体を扱うのではなく、HIV差別の歴史を踏まえながら(過去と接続しながら)バンパイアというマイノリティの悲哀と愛をクィアになぞらえ、同時に女性たちを主人公に据えて描いたところが新しく、有意義だったと感じます。
ラストシーン、すごくよかったです。
実はミュージカルにもなっていて(風変わりな=クィアな歌です)、そこも面白かったです。
今後またどこかで上映される機会があるかどうかはわかりませんが、その際はぜひ。
シレンシオ
英題:Silence 原題:Silencio
監督:エドゥアルド・カサノヴァ
2025|スペイン|56分|スペイン語 *日本初上映
シッチェス・カタロニア国際映画祭コンペティション部門出品
INDEX
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
- 休日課長さんがゲイ役をつとめたドラマ『FOGDOG』第4話「泣きっ面に熊」
- 長年のパートナーががんを患っていることがわかり…涙なしに観ることができない、実話に基づくゲイのラブコメ映画『スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月』
- 驚愕のクオリティ、全編泣ける究極のゲイドラマ『Ours』
- 女子はスラックスOKで男子はスカート禁止の“ジェンダーレス制服”をめぐるすったもんだが興味深いドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』
- 恋愛指向の人がマイノリティである世界を描いた社会実験的ドラマ「もしも世界に 『レンアイ』がなかったら」
SCHEDULE
- 07.24LOVELY DAYS
- 07.24Oyaji-huGe+ -兄貴や親父の昭和イベント‼︎-





