REVIEW
殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に、そして同性愛を嫌悪するすべての人にも観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話

本当にひどいニュースが続きます。世の中はますます殺伐とし、暗澹たる気持ちになる方も多いことでしょう。そんななか、世の中捨てたもんじゃない、ゲイライフこそが人生だ、と思わせてくれる素晴らしいドラマが配信されました。ドラマ『THE LAST OF US』第3話です。『THE LAST OF US』自体は、米国のサバイバルホラーアクションゲームで、これをドラマ化した作品が、今年の1月からHBOで配信され、日本でもU-NEXTで配信されています。
1話・2話は、割と原作に忠実に作られているようで、ゲイ要素は全くないのですが、3話は大胆に物語ををふくらませたエピソードになっており、結果、CNNが「2023年のベストエピソードの一つに早くも名乗りを上げた」と、TotalFilmも「2023年のベストエピソードの一つに早くもノミネート」と、『Esquire』誌も「この10年で最高のドラマエピソード」といった絶賛の声が相次いでいます。
日本でも早速、RealSound「『THE LAST OF US』75分かけて描いた第3話の衝撃 2020年代をリードするクィアドラマに」や、(杉田議員の”生産性”ない発言の時に一緒に怒ってくれた)ぬまがさワタリさんのblogなどで激賞されています。
<あらすじ(1話〜2話)>
2003年、世界中で謎の寄生菌による感染症が拡大、感染した人々は凶暴な怪物となって他の人々を噛み、さらに感染を広げる。パニックのなか、ジョエルは娘を失うも、弟のトミーに救われる。20年後、人口は激減して文明は崩壊し、アメリカでは軍が少数の生存者を隔離地域で過酷に支配する。ボストンでパートナーのテスと住んでいたジョエルは、音信不通となったトミーの住むワイオミングに向かおうとする。反乱グループ「ファイアフライ」から、貴重な車のバッテリーと引き換えに、菌に耐性を持ち治療法の手掛かりとなる少女エリーを西に運ぶよう頼まれる…。
1話〜2話は原作に忠実で、デストピアでサバイバルホラーな世界です(たぶん『ウォーキング・デッド』とかに似た感じなんじゃないかと思います)
ホラーとかスリラーとか流血が苦手で、1話〜2話をグッタリしながら観た私は、この流れで一体どんな素敵なゲイの物語がありえるのだろうか…と半信半疑で3話を観はじめたのですが、観終わって、いろんな人が絶賛している理由がよくわかりました。
部屋で一人で観ているのをいいことに、オイオイ、声をあげて泣きました(『世界は僕らに気づかない』で号泣し、『エゴイスト』でハラハラと泣いたと書いているので、泣いてばかりじゃないか!と言われそうですが、本当なのだから仕方ありません。こんなに名作にたくさん出会える時代に感謝しています)
ストーリーにはあまり触れないようにしますが、殺伐とした世界にあって、ゲイのパートナーシップにこそ人間らしさがあり、愛があり、自由があり、生きる意味があり、文化や、喜びや、豊かさや、潤いがあり、幸福があり、希望があるということが、このうえなくロマンティックに描かれ、砂漠に咲いた一輪の花のように、奇跡のような美しさと癒しと救いをもたらしていました。
第3話だけでも観るといいよ、とオススメしていた方もいらっしゃいましたが、やはり、Post Apocalypticな、自由も希望もない殺伐とした世界であるということを踏まえたうえで、主人公のストーリーと接続するかたちで3話を観たほうが、ビルとフランクの物語がいかに奇跡的で感動的で素晴らしいかということが感じられると思いますので、頑張って1話からご覧になってみてください(ホラーやスリラーが苦手な方はご無理なさらず、3話のみご覧ください)
ゲイには“生産性”がないとか、生殖可能性がない以上、現状国家が保護すべき利益が見当たらないとか、「見るのも嫌だ」とか「異常な性癖」だとか言う人たちも全員、このドラマを観てほしい、と思いました。
このエピソードの監督をつとめたピーター・ホアーは、ドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』を手がけた監督で、自身もゲイの方です。だからこそ、このエピソードを、リアルに、愛をもって、最高に素晴らしく作り上げることができたんだと思います。フランクを演じたマレー・バートレットもゲイの俳優です。ビルを演じたのはニック・オファーマンというストレートのベテラン俳優なのですが、ものすごくいいです(『パロマ』のトラック運転手に匹敵するラブリーなイケオジです)。この役に本当にピッタリだし、感情表現が本当に素敵で、魅力的です。いま、世界中のゲイの方たちが(パンデミックのように)次々に彼に恋してるんじゃないでしょうか。
正直、U-NEXTはあまり好きじゃなく(月会費が2000円超で、しかもあまり観たいものが入ってないので…)、これを観るためだけに再加入するのは気が進まないな…とも思ったのですが、結果、よかったと思います。まだU-NEXTに加入したことがない方は最初の1ヵ月はトライアルで無料ですので、『AND JUST LIKE THAT... セックス・アンド・ザ・シティ新章』と『THE LAST OF US』だけ観て解約してもよいと思います。
というわけで『THE LAST OF US』3話、ぜひご覧になってみてください。
(文:後藤純一)
『THE LAST OF US』
2023年/米国
U-NEXTで独占配信(全8話で、現在1〜3話配信中)
INDEX
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
- 料理を通じて惹かれ合っていく二人の女性を描いたドラマ『作りたい女と食べたい女』
- ハリー・スタイルズがゲイ役を演じているだけが見どころではない、心揺さぶられる恋愛映画『僕の巡査』
SCHEDULE
記事はありません。