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REVIEW

Netflixで配信中の日本初の男性どうしの恋愛リアリティ番組『ボーイフレンド』が素晴らしい

Netflixで7月9日、日本初の男性どうしの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』の配信が始まりました。プロデューサーもゲイの方なので、ヤラセ一切なしでリアルに徹しているところがとてもよかったですし、恋愛リアリティショーとしても面白く、安心して楽しめる、画期的な番組だと思いました

日本初の男性どうしの恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』





 カズトくんが割と最初のほうでコーヒートラックを運転しながら「なんでこんなふうに生まれてきちゃったんだろうって、こっちの人は誰しも思うよね」と語るシーンがありましたが、さらっと言ってたこのセリフの重みってものすごいものがあると思って。ゲイが思春期の頃に感じるであろう孤独感や寂しさや後ろめたさや「誰にも言ってはいけない」と思ってしまったりという苦悩が凝縮された一言だったと思います。
 そしてエピソード8の「夜中にお酒でも飲みながら素で話し合おう」の時間。カミングアウトの話になって、テホンくんが10歳のときにご両親と離れてしまっていて、まだカミングアウトできていないと語って、ダイくんやアランくんが「テホンが幸せでいることが何よりなんだよ」と励まして(最後に「この番組を観てもらったらきっとわかってもらえるはず」とも)、カズトくんが「去年カミングアウトしたけど、母親が思ったより悲しそうにしてて…」と言って(最後にテホンくんが「胸を張って言えると思う」と決意を語ったとき、カズトくんがボロ泣きしてて、それは自分のこととも重ね合わせて、感情があふれてしまったんだろうなと思いました)というシーンは涙なしには観られませんでした。みんながカミングアウトというハードルを乗り越えてここに来ているという、そのことだけでもスゴいことだと思い、みんなを抱きしめたくなりました。
 シュンくんが複雑な家庭環境ゆえに(テホンくんもそうでしたが、家庭環境が複雑な方、何人もいらっしゃいましたね)家族の団欒というものに憧れていた、いつか結婚して子どもをさずかり、育てていくのが夢だと語ったのも、本当に身につまされたし、泣けるシーンでした。スタジオのホランさんとかも、家族の選択肢がある社会システムであってほしいとコメントしてて素晴らしかったです(総じてスタジオの方たちのリアクションやコメントはとてもよかったです。ドリアンさん、おつかれさまでした)
 こういったシーンは男女モノの恋愛番組ではありえない、ゲイだからこそのリアリティですよね。世間のノンケの視聴者にはその重みをしっかり受け止めてほしいなと思いました。

【追記】2024.8.6
 8月5日にYouTubeで公開された『ボーイフレンド』未公開映像「傷つけられた一言」は、『ボーイフレンド』に出演したみなさんが、ホモフォビア(同性愛嫌悪)を持っている人や、悪意がないとしてもマイクロアグレッション的に傷つくことを言ってしまう人に言われたことされたことをダイニングテーブルで語る場面になっています。アランくんやカズトくん、テホンくんがこれまでに言われたこと、されたことを明かし、リョウタくんなどもそれに対してコメントしています。きっと誰もが多かれ少なかれ体験したことがあるであろうこと、そこまではされたことない、と驚くようなこと。身につまされ、共感し、また、これを観ているストレートの方たちがきっと考えさせられるであろうお話で、そういう意味では『ボーイフレンド』の持つ「世間にゲイのリアリティを理解してもらう」という意義を最も鋭く体現した映像だと感じました(これを本編で公開してもよかったのでは?と思ったり)

 
 同じNetflixの『クィア・アイ in JAPAN』でカンさんがインフルエンサーとして羽ばたいたように、『ボーイフレンド』に出演した人たち、例えばゲンセイくんが「愛は平等です」というメッセージを発信したり、すでに世の中にいい影響を与えているのも素晴らしいと思います。

 男女モノの恋愛リアリティだと(観たことないですが)ライバルを蹴落とそうとしたり、ドロドロした部分も描かれるようですが、そういうのが一切なかったですね。イヤな人だなぁと思うことが一度たりともなかったです。みんな本当にいい人だなぁって。礼儀正しくて、気遣いができて、真っ直ぐに、純粋に人を思える、魅力的な人たちばかり。それもスゴいこと。 
 中盤でGOGOのユーサクくんが仕事の都合で「Green Room」を去って、そのあとイクオくんのような人が現れて。それも本当にスゴい。よくこんな逸材を持ってきたね、と思いました。あとから来て、あれだけの存在感を放ち、場を盛り上げられる、しかも好感度の高い人、そうそういないと思います。
 
 一方、みんなの恋のベクトルがカズトくんに集中したのは、なんだかんだ言ってモテ筋な人がモテるよね、という真実を浮き彫りにした感があります。みんな優しいとか気配りができるとか料理上手とか言ってたけど、それは他の人もそうだと思うので、やっぱり見た目じゃないかと(アランくんも一目惚れって言ってたし)。そこもまたリアルなのかな、と。
 でも、考えてみれば、セクシュアリティに関係なく、古今東西、恋ってそういうものですよね…人々の視線はまず「美しい人」に注がれるのです。
 


 一点だけ、この、映画かと見紛うばかりに美しい『ボーイフレンド』の世界に欠けていたのは、ある意味で”美しさ”の基準に満たないと判断されたのであろう、しかし、ゲイシーンの重要な一角を占める(主流の一つと言っても過言ではない)「ベアー」や「イケオジ」な人たちでした。20代、30代の太ってないカメラ映えするような人だけで固めたことは、世間にゲイのことを理解してもらいたいという意図があってそうしているのかもしれませんが、ゲイの世界の多様性を伝えていないという意味では、残念でした。(欧米のゲイシーンではミナ・ゲルゲスがドラァグレースのピットクルーに選ばれたり、次世代GOGO発掘番組にも何人か太めの人が登場したり、英国を代表するゲイ雑誌『ATTITUDE』もBearコミュニティをフィーチャーしていたり、逆にトロイ・シヴァンのMVに対して「体型的多様性がない」との批判の声が上がったり、Bearのインクルージョンが当たり前になりつつありますが、そうした趨勢に鑑みると)少なくともボディポジティヴィティへの意識は感じられませんし、もしかしたらルッキズムだと言われかねないんじゃないでしょうか…。
 SNSでも「GMPDバージョンでこれを観たい」という投稿がいくつもありましたし、ぶっちゃけ、シンコイの時のほうがコミュニティ内の熱狂が感じられました。とあるブロガーの方は「自分がいる!と思えるからすごい勢いで感情移入できた」と語っていましたが(ゲイのリプレゼンテーションという意味では全くその通りなのですが)、おそらく見た目や年齢の偏りのせいでそこに「自分がいる」と感じることができなかった方たちもいらしたでしょうし、「結局テレビに出れるゲイってこういう人たちなんだよな」と疎外感を感じた方もいらっしゃると思います。見た目や年齢のせいで世間的にも疎外されているうえに、ゲイの代表を集めました的な番組からも疎外される悲しみ。(僕を含め)お腹が出た中年のゲイが世間に受け容れられる日は来るのでしょうか…。
エスクァイア』誌のインタビューでTaikiさんは「「続きが観たい」とか「違うタイプのボーイズも観たい」という反響をいただけたなら、ぜひともNetflixさんでお願いしたいです。実は、次のシーズンがあるんだと思って、応募してくれてる方々のお声もいただいているんです」と語っています。次回はぜひGMPDバージョンで製作を!とお願いしてみてもいいかもしれません。
 
(文:後藤純一)

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