REVIEW
シディ・ラルビ・シェルカウイ『テヅカ TeZukA』
世界のダンスシーンで注目を集める振付家、シディ・ラルビ・シェルカウイ(オープンリーゲイの方です)の新作『テヅカ TeZukA』が上演中です。手塚治虫へのオマージュであり、震災後の日本へのエールであり、ゲイとしての表現であり、ラストシーンで感動を喚び起こす……さまざまなメッセージが重層的に展開された舞台でした。









少年がマンガを読んでいると、アトムや御茶ノ水博士、ブラック・ジャックやピノコ、どろろや百鬼丸…手塚作品のキャラクターたちが次々に舞台に登場し、群舞を踊ったり、巨大な白いスクリーンに字を書いたり、映像とシンクロして踊ったり、さまざまなパフォーマンスを繰り広げます。セリフがマンガの吹き出しのように文字として映し出されたり、舞台上の音がマンガの擬音語としてスクリーン上で文字になってやがて絵に変わったりと、随所にマンガを意識した演出が光ります。そんな楽しい雰囲気の中にも、震災や原発事故のことなど、今の日本へとつながるメッセージが貫かれています。
フライヤーにも描かれているアトムが、この作品の核というか、最も重要なメッセージを表現します。人間とロボットとの間で引き裂かれた存在として常に苦悩しつづけるアトムの悲しみ。そして同時に、アトムは原子力で動くロボットとして、原発事故後はアンビバレントな意味を帯びることになるわけですが、この『テヅカ TeZukA』は、そんなアトムに捧げる祈り——「鎮魂」です。ラストシーンのえも言われぬ感動…終演後、拍手が鳴り止まず、多くの人々がスタンディングオベーションを贈ったのもうなずけます。
このアトムのシーケンスの間に、さまざまな作品のエピソードが物語られます。ブラック・ジャックはバクテリアについて語り始めますが、それもまたアトム的メッセージと有機的に連なり、ラストシーンへとつながっていきます。『ブッダ』や『火の鳥』、『どろろ』では、テヅカの仏教的な世界観が語られます。ステージ上で生演奏で届けられる宗教的・民族的な音楽とあいまって、印象的なシーンを生み出していました。
そして、特筆すべきは、『MW(ムウ)』の結城美知夫(ゆうきみちお)と賀来巌(がらいいわお)が登場したことです。すでに読んだ方も多いことと思いますが、簡単に言うと、二人は少年時代、小さな島で某外国軍の「MW(ムウ)」という秘密化学兵器が漏れる事故に遭遇しました。島民がみな変死する様を目の当たりにし、自身も毒ガスを吸い、心身を蝕まれた美知夫は、復讐のためにMWを奪おうと画策し、非情な手段に訴えます。一方、巌はカトリックの神父となり、美知夫を説得…するのですが、二人は会う度に肉体関係をもつのです。ブリーフ姿の美知夫と神父服の巌がからみあう愛のダンスシーンは、二人の関係を見事に表現していました。
他にも『奇子』や『人間昆虫記』といった人間社会のドロドロした暗部を描いた作品も取り上げられ、男性のダンサーが女装した姿で登場し、世間の荒波に翻弄される様が(日本的で)このうえなく美しい演出で表現されていました。(他にも、まるでドラァグクイーンのような女装でのダンスシーンもあり、ちょっとビックリしました)
個人的には、シェルカウイが『SUTRA』で見出した、少林寺の僧侶たちの驚異的な身体能力を駆使したパフォーマンスにも魅了されました(拍手も起きていました)
さまざまな民族、さまざまなバックボーンのパフォーマーが集まった舞台ですが、よく考えるとダンサーはほとんどが男性でした(森山未來の出演も話題になりました)。鍛え上げられた肉体を活かしたアクロバティックで力強いパフォーマンスも、シェルカウイならではの魅力です。(気づけば、カーテンコールではパフォーマーの半数が上半身裸でした)
東京公演は2月27日までです。当日券もあるそうなので、もし可能な方はぜひ、お出かけください!

日程:2012年2月23日(木)~2月27日(月)
会場:Bunkamura オーチャードホール
原拠:手塚治虫
振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
美術・照明:ウィリー・セッサ
映像:上田大樹
衣裳:ササ・コヴァチェヴィック
出演:森山未來、ヨン・フィリップ・ファシストロム、ダミアン・ジャレ、上月一臣、工藤聡、大植真太郎、ダニエル・プロイエット、ギュロ・スキア・ナーゲルフ、ヘルダー・シーブラ、ヴェヴョン・サンドビー、黄家好(中国河南省嵩山少林寺武僧)、李波(中国河南省嵩山少林寺武僧)、鈴木稲水(書道家)、堀つばさ(演奏)、ウー・ジェー・パク(演奏)、オルガ・ヴォイチェホヴスカ(演奏)
INDEX
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
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