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REVIEW

プライド月間にふさわしい観劇体験をぜひ――劇団フライングステージ『PINK ピンク』『お茶と同情』

「座・高円寺」という劇場の立派なホールで上演された『PINK ピンク』『お茶と同情』の初日レポートをお届けします。

プライド月間にふさわしい観劇体験をぜひ――フライングステージ『PINK』『お茶と同情』

 劇団フライングステージが「座・高円寺」で公演というニュースでお伝えしたように、「座・高円寺」という劇場の立派なホールで、学校を舞台にした2作品『アイタクテとナリタクテ』『お茶と同情』が交互に上演されています。各回の上演前に、新作短編『PINK ピンク』も上演されます。

 たまたま、2018年初演の『お茶と同情』は諸事情で観ることができず、今回初めて観ることができました。ので、『PINK』『お茶と同情』の初日レポートをお届けします(『アイタクテとナリタクテ』については、こちらのレビューをご覧ください)

 『お茶と同情』の初日は6月24日の夜の部でした。個人的には、家からチャリで行けるというのがとても新鮮で(たぶん中野〜阿佐ヶ谷辺りにお住まいの方も多いと思うのですが、ぜひチャリで。駐輪場も完備されてます)、また、いつもの下北沢の小さなハコと違って、「座・高円寺」という劇場のいちばん大きなホールの広々としたステージで観るというのもの新鮮でした。(座席が1席ずつ空けられて隣に人が座らないようなかたちだったり)徹底したコロナ感染防止策が講じられていて、安心して観ることができました。たぶん、いろんな意味で、こういう感じのフライングステージ体験はもう二度とないんだろうなぁ…と思いました。
 『お茶と同情』はプライド月間にとてもふさわしい作品でしたが、終演後にたまたま東京プライドやピンクドット沖縄を立ち上げた砂川秀樹さんとお会いして、2000年の頃のパレード&レインボー祭りの盛り上がりのことを思い出したりして、なんだか感慨深かったです。
 

◆『PINK ピンク』
 新作の短編作品です。
 小学校に上がる主人公の男の子が、おばあちゃんに「何色のランドセルがいい?」と聞かれ、「ぼく、ピンクのランドセルがいいな」と即答。おばあちゃんは「ピンクは女の子の色だよ。黒のほうがカッコいい」と反対しますが、男の子は譲りません。お母さんもお父さんも、「私もピンクがいいから、お兄ちゃんは違う色にして」と言う妹も、家族みんなでピンクをあきらめさせようとするのです…。
 主人公の男の子が性的マイノリティなのかどうかはわかりません。それはどちらでもよいことです。ただ、ピンクのランドセルがほしいと言うだけで、周りがこんなにも狼狽したり、怒ったり、文句を言ったりする、そのことの不思議さが際立ちます。
 絵本のような、童話のような語り口で、ジェンダーについて考えさせる、とてもカラフルで素敵な作品でした。


◆『お茶と同情』
 高校が舞台で、ゲイだとカミングアウトしたい教育実習生をめぐる騒動や、彼の担当教官の先生に降りかかる災難・ドタバタを描いています。
 タイトルの『お茶と同情』は、同名の舞台を原作にした1957年公開のアメリカ映画『お茶と同情』に由来しています。男らしくないと言われる高校生と彼を見守る寄宿舎の舎監の妻の物語です(美輪明宏さんが当時「シスターボーイ」と呼ばれたのはこの映画からだそうです)

<あらすじ>
とある高校に、教育実習生として、卒業生のイケメン・藤原大地がやってくることになった。校長、副校長、担当教官の浅野との顔合わせの場で、藤原は、最初に生徒たちに「自分はゲイだ」とサラッと伝えたいと言う。校長と浅野先生は賛成したが、副校長の猛反対を受けて職員会議にかけられることに。「別にいいんじゃないですか、"LGBT男性"でも」「同性愛などという"生産性"のない…生徒が混乱します」いろんな意見が上がり、結局、藤原はカミングアウトを断念する。そうして始まった教育実習で、藤原は教材に漱石の『こころ』を選ぶ…

 何よりもまず、これは「PRIDE」の話だと感じました。まるでアメリカの映画の、大統領とかキング牧師とかハーヴェイ・ミルクとかがスピーチするシーンのような、堂々とした、心からの言葉で綴られた真っ直ぐなスピーチが胸を打ちます。感涙ポイントです。

 藤原大地は、自分が高校生のとき、堂々とカミングアウトしている先生がいたらどんなに世界が違って見えただろうと感じ、この学校にもいるであろう当事者の生徒を勇気づけたいという真っ直ぐな思いから、カミングアウトを望みます。LGBTQムーブメントの時代の申し子的な、少しも後ろめたさを感じていない若い世代を象徴するようなキャラクターで、惚れ惚れするくらいカッコいいです(しかもイケメン)。時代はとうとうここまで来たんだな、という感慨があります。
 一方で、これは予想外でしたが、そんな今の若いゲイの人たちとは異なり、(漱石の『こころ』と絶妙にシンクロするのですが)堂々とはカミングアウトできなかったもっと上の世代の人たちの葛藤や苦悩に寄り添うような部分もありました。「世代の違い」ということも一つのテーマになっていたと思います。

 様々なホモフォビアも描かれていました。
 冒頭の職員会議で差別発言をしていたアンチ派の教師たちだけでなく、生徒たちの間にもホモフォビアがあり、まるで『glee/グリー』のカロフスキーのような生徒も出てきました(その役を、ちょっとオネエ入ったゲイの役が板についている岸本さんが演じてるところが面白かったです)

 2018年夏に初演された作品なので、時事ネタ的に杉田議員による「"生産性"がない」発言や一橋大学アウティング事件などにも触れられているのですが、同じ党の議員による差別発言が相次ぎ、LGBTを守る法案も阻まれた今、それらが決して「過去のこと」になっていないと感じました(早く「過去のこと」になってほしいですね…)
 
 レズビアン・マザーの中野友理が登場して「息子の雄太がこの高校の1年生で」という話をしたところで、これが『Friend, Friends』や『Family,Familiar 家族、かぞく』から続いている世界線の物語なんだとわかり、心躍りました。
 断固としてカミングアウトに反対していた高齢男性の副校長が、生徒の保護者である友理と話し、その家族のことを知って、同性愛者に対する接し方が変わっていくというくだりは、フライングステージらしくていいなぁと思いました。どこか下町っぽい「人としての情」が偏見を持っていた人たちを変えていくというテーマは、フライングステージが初期の『ひまわり』の頃から繰り返し描いてきたことですね。

 客席は見たことのない人が多く、おそらく初めてフライングステージのお芝居を観たという一般の杉並区民の方なども多かったと思うのですが、もしかしたら、レズビアンマザーを演じていた関根新一さんや、女性の校長先生(なんとなく金八先生の赤木春恵さんを思い出させます)を演じていた石関準さんが女装した男性だったということに気づかない人もいたかも…と思いました。

 いくつものテーマが複雑に絡み合いながら、物語がちょっとスリリングに展開し、考えさせる部分もありつつ、大いに共感したり、キャスティングや演出を楽しんだり、感動を得られたりする「フライングステージ節」を大いに満喫しましたが、今回、あらためて、その根底に「PRIDE」がしっかりと横たわっているのだなぁということを感じました。
 
 プライド月間に観るお芝居として、これ以上ふさわしい作品はないだろうな、と思いました。
 英訳されて海外にも発信されるといいのに、とも思ったりしました(きっと「日本のゲイコミュニティはこんなに素晴らしい作品を上演していたのか!」と驚かれると思います)
 
 27日の日曜日まで上演されます。お時間のある方、ぜひご覧ください。

 
座・高円寺 夏の劇場06 日本劇作家協会プログラム 
劇団フライングステージ第47回公演
「アイタクテとナリタクテ/お茶と同情」
□日程:
2021年6月23日(水)‐ 27日(日)
23日(水)19:00A
24日(木)14:00A★ / 19:00B
25日(金)14:00B★ / 19:00A
26日(土)14:00A★ / 19:00B
27日(日)14:00B
A:「アイタクテとナリタクテ」 B:「お茶と同情」
※各回の上演前に15分ほどの短編「PINK ピンク」を上演します
※★は託児サービスがある回です
※受付開始、開場は開演の30分前です
□会場:座・高円寺1(杉並区高円寺北2-1-2、JR中央線「高円寺」駅北口を出て徒歩5分)
□チケット料金
≪全指定席≫
一般:3,500円 学生:2,500円 小中高生:1,500円 子ども:1,000円
ペアチケット:6,500円
※税込、前売・当日同一価格
□チケット取扱い
【座・高円寺 チケットボックス】
劇場事務室チケット窓口(10:00-19:00/月曜定休)
電話予約:03-3223-7300(10:00-18:00/月曜定休)
【座・高円寺 Webチケット】
https://www.e-get.jp/za-koenji/pt/
【劇団フライングステージ Web予約】
https://ticket.corich.jp/apply/112125/

□作・演出:関根信一
□出演:石坂純、石関準(劇団フライングステージ)、井手麻渡(無名塾)、木内コギト(\かむがふ/)、岸本啓孝(劇団フライングステージ)、小林将司、清水泰子、関根信一(劇団フライングステージ)、中嶌聡、芳賀隆宏、山西真帆(劇団桃唄309)
□スタッフ
照明:伊藤馨
音響:樋口亜弓
衣裳:石関準
舞台監督:水月アキラ
イラスト:ぢるぢる
フライヤーデザイン:石原燃
制作:渡辺智也、三枝黎
協力:M・M・P、\かむがふ/、無名塾、桃唄309
主催:劇団フライングステージ
提携:NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺

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