REVIEW
宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
宮沢賢治が生涯でただ一人、保阪嘉内という男性を愛したという史実を検証した「宮沢賢治 銀河への旅 ~慟哭の愛と祈り~」という番組を観て感銘を受けたOM-2の真壁茂夫さんが、その報われない恋の切なさや、同性愛が認められない時代の苦悩を表現したパフォーマンス公演が行なわれています。初日のレビューをお届けします。

OM-2の真壁茂夫さんからメールをいただいたのは約1ヵ月ほど前でした。宮沢賢治と保阪嘉内の報われない恋をテーマとした『椅子に座る』という公演をやります、とのことでした。私はETV特集「宮沢賢治 銀河への旅 ~慟哭の愛と祈り~」を観て、幼少期から影響を受けてきた(学校の授業で『雨ニモ負ケズ』を暗唱させられ、教科書に載っていた『なめとこ山の熊』に衝撃を受け、その後も『よだかの星』や『銀河鉄道の夜』などを読んで感動し…故郷の隣の岩手にはこんな凄い人がいたのかと崇めた)宮沢賢治という人が、同性を愛した人だったということにいたく感銘を受けましたが、同じ番組を観て感銘を受けた真壁さんがそれを舞台にするというお話にはもちろん興味を惹かれましたし、握手したい気持ちになりましたし、すぐに観に行きますとお返事しました。
実は、その時はピンとこなかったのですが、あとで調べてみると、OM-2はもともと黄色舞伎團という名前で(聞いたことがある!)、真壁茂夫さんは神楽坂の「die pratze」(行ったことがある!)を運営もしていた人でした。たぶん真壁さんが書いていると思われるOM-2のツイートを読んでいると、演劇人としても人間としても極めて真っ当で、誠実な人だと感じました(と私が言うのもおこがましいのですが)
私は中学時代から演劇が好きで、田舎町ではあったけど、劇団四季が来たりすると心ときめかせながら市民会館に出かけ、うっとりしながら前田美波里さんを観ていた子どもで(将来はミュージカル俳優になりたいと思い)、大学進学と同時に学生劇団に入り、諸事情で辞めた後も(貧乏学生でしたが)お金があれば『演劇ぶっく』や『ぴあ』や『シティロード』で得た情報をもとに演劇やパフォーマンスのチケットを買う、その感想をミニコミ誌として発表するサークルまで立ち上げるということをしていたくらいの「芝居バカ」だったので、アングラも小劇場もダンスもバレエも、実験的なパフォーマンスもたくさん観てきました(長くなるので一つだけ挙げると、学生時代に観たなかで最も心動かされたのは大阪・中之島公園野外音楽堂横特設テントで行なわれた新宿梁山泊の『人魚伝説』です。就職で東京に来てからも、リーマンをしながら週末は芝居を観に行くという生活をしていて、その流れのなかでダムタイプの『S/N』に出会い、人生が大きく変わりました)。なかには、激しく心揺さぶられる、一生忘れられない演劇体験もありましし、思わず涙するような、心が鷲掴みされるような舞台も、逆に(世間では人気を博していたけど)何が良いのかさっぱりわからないような劇団もありました。ただ、演劇やパフォーマンスは本当に好きだし、どんな舞台でも観てみたいと思うし、今回もひさびさに、生の舞台の、あの「これから一体何が始まるんだろう」的な、アドレナリンが噴出するようなワクワク感を覚えましたし、観れてよかったです(プラス、佐々木敦さんのパフォーマンスを間近で観ることができてよかったです)
ただ、読者のみなさんに、この舞台をおすすめしてよいのかどうか、については、ものすごく悩みました。g-lad xxはいわゆる提灯記事は書かない、読者の方が不快な思いをする可能性がある場合おすすめしないというポリシー(責任感)でやってきました。悩んだ結果、忌憚のない感想や意見をそのまま出そう、あとは判断していただこう、と思いました(客席もかなり埋まってましたし、g-lad xxがおすすめしようとしまいと、あまり影響はないだろうな、とも)
前置きが長くなりましたが、初日の観劇レポートをお届けします。
3月17日(偶然にも、札幌地裁で同性婚についての歴史的な判決が出てから1周年、新宿のLUSHでは同性婚を求めるキャンペーンが繰り広げられていた日でした)、日暮里のサニーホールに出かけました。
まず、なぜ宮沢賢治のことを舞台化したのか、について語る24ページもある分厚いテキストが配布され、真壁さんの本気を感じました。裏表紙には「…おれはひとりの醜い修羅(ケダモノ)なのだ…。生きながら地獄に堕ちたこの修羅のからだ、空のみじんに散らばれ…」という『春と修羅』の一節が大きく印刷されていました。この冊子を幕が上がるまでの間に読み込みました。大正〜昭和初期という時代背景とも重ね合わせながら、同性愛者として生きることが不可能だった当時、賢治がどれだけ苦しい思いをしたか、そしてその思いがどのように作品に反映されていったのかということについて考える、熱い文章でした(このような熱く「過剰な」文を読んだのは本当にひさしぶりだと思いました)
前振りというか「準備体操」として、舞台に下げられた大きなスクリーンに映し出された映像と、その横に立った劇団員の方が先生となって、体育や国語の”授業”が行なわれました。その場で立ち上がってラジオ体操をしたり(ギュウギュウの客席で、です。なんという無茶ぶり)、配られたテキストを、お客さんに読み上げさせたり、全員で音読したり。舞台と客席の壁を取り払う試み。面白かったです(ただ、コロナ禍で、マスクをしているとは言え、満席の間引きされてないギュウギュウの客席で声に出して読むことの是非は問われるのでは…オミクロン株の感染力の強さだと、換気の悪い場所で密になって一斉に声を出すのはエアロゾル感染の危険は否めません…汗)
今回、宮沢賢治を演じた「100kgを超えるパフォーマー」佐々木敦さんは、「おれはひとりの醜い修羅なのだ」と書かずにはいられなかった賢治の”異端”の人間としての孤独や苦悩、保阪嘉内への報われない恋情を、銀河鉄道の夜など賢治の生み出した言葉を語りながら表現していきます。「椅子に座る」佐々木さんが、大粒の(紙の)雪を浴びるシーンは美しかったですし、短髪髭の佐々木さんが巨体を震わせながら吠え、同性愛者としての苦しみを表現するシーンは、瞬間、「イカニモ」なベアー系ゲイの方たちが叫んでいたように見え(おそらく作り手は意識してなかったと思いますが)、シンクロしたというか、自分のことを代弁してくれてるんだなという錯覚を覚えました(たまたまOM-2に佐々木さんがいたからという偶然が生んだことであるにせよ)。世間の多くの方は「賢治はこんな巨漢じゃない」などと、BLに慣れ親しんでいるような方は「同性愛者はこんなじゃない」などと思うかもしれませんが、私たちにとっては間違いなくこれがリアルだと感じられるわけで、これまでの世間の数多のゲイ描写の「これは自分じゃない」感から初めて脱することができたと、ようやく「これは自分だ」と思える表現に出会えたと感動する方もいらっしゃるのではないかと思いました。
教室のシーン。車椅子に乗った小人症の野澤健さんが、カンパネルラ(保阪嘉内)として転校してきます。生徒たちは「風の又三郎」じゃないかと言い、能面のような顔で、どっどど どどうど どどうど どどうというあの一節を歌いながら、野澤さんを倒し、車椅子をぶつけ、という残酷な「いじめ」を繰り広げます。(見ていられないほど苦しいとかではないですが)衝撃的でした。先日パラリンピックが行なわれたばかりですが、障がいを持った方に対してさえ容赦なく暴力を振るえてしまうことの怖さ…マイノリティへの抑圧、日本社会の残酷さの告発のように見えて、戦慄を覚えました。(一方、野澤さんは、力強くもあり、パワフルで魅力的な方だと感じました。もしかしたら東ちづるさんのところに出てたっけ?と思ったり)
この教室の場面で、カンパネルラとしての野澤さん(保阪嘉内)に対して、背景に退きながらもジョバンニとしての佐々木さん(宮沢賢治)が思いを寄せるようなパフォーマンスがあるのですが、それは非常に微かでささやかな表現にとどまっています。佐々木さんが苦悩を表現するシーケンスにも野澤さんは登場するのでが、総じて、宮沢賢治が保阪嘉内と共に過ごし、関係性を深めていき、恋するようになるという「親密な感じ」は表現されておらず、そこは正直、物足りなかったです。「同性愛者としての苦悩」は描かれていましたが、「同性愛」自体はほとんど描かれていなかったと言ってもよいかと思います。
「現在進行形」と題された、若い女性の方たちによるコンテンポラリーダンスの群舞のシーンが何度か出てきます(苦悩を感じさせるダンスは、おそらく賢治の心象風景を表現していたのでしょう)。ここには賢治の言葉もなく、今回のテーマとの関連も明らかではなく、このパートが入る必然性は特に感じられませんでした。
もう少しクィア論的に掘り下げると、宮沢賢治という名を与えられた佐々木さんという男性が、きちんとしたスーツを着て、主人公として自分の胸の内や個人的な思いを表現するシーンを与えられている(ある程度自由に演じる裁量を与えられている)のと対照的に、名もなき若い女性たちは、露出度の高い衣装で、決められた振付を(ある意味)踊らされているという印象…このジェンダー的な非対称(既存のジェンダー規範をなぞっている感じ)は、あまり見ていて気持ちのよいものではありませんでした(もし男女が逆転していたら、とても面白かったと思います)
今回は3団体合同の公演ということで、このような形になったのだろうな、と想像されますが、OM-2単独公演とか、いっそのこと佐々木さんのソロパフォーマンスにしたほうが、賢治の思いや苦悩をよりよく表現できたのではないかと思いました。
というわけで今回は、OM-2や、佐々木敦さんというパフォーマーに出会えてよかったな、という感想です。世間には佐々木さんのようなベアータイプの(イマドキの言葉で言うとプラスサイズな)男性ってたくさんいるわけですが、女性だけでなくそういう方たちがダンスやパフォーマンスを志し(映画『リトル・ダンサー』で描かれていたように、男の子はそういうことをやるべきじゃないという世間の古いジェンダー規範がはたらく結果だと思うんですよね。「太った」男性はホモソーシャルの中でもバカにされ、いじけてしまいがちであるということの結果でもあると思います)、ベアーパフォーマーがもっとたくさん現れ、集団でカッコいいコンテンポラリーダンスを披露したり(すごい迫力が出ると思うんですよね)、活躍するようになってほしいと思いました。佐々木さんにはぜひその道を切り開いていただきたいと思います。
「M/Mフェスティバル」参加作品
OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-
公演スケジュール:
3月17日(木) 19:15
3月18日(金) 19:15
3月19日(土) 15:15
会場:日暮里サニーホール(東京都荒川区東日暮里5-50-5ホテルラングウッド4階)
チケット料金(全席自由・税込):
一般 前売 3,200円、当日 3,700円、学生(要学生証) 前売 2,200円、当日 2,700円
出演:佐々木敦、野澤健、柴田恵美、鈴木綾香、小野麻里子、手塚紀江、杉田亜紀、大塚郁実、安岡あこ、上松萌子、柴田美和、丹澤美緒、倉島聡、石塚晴日、中島侑輝、ヒラトケンジ他
構成・演出:真壁茂夫
共同演出・振付:柴田恵美
共同演出:宗方勝
映像:兼古昭彦、町山葵
照明:三枝淳、vitec
音響:許斐祐、川村和央
舞台監督:長堀博士、てとら
舞台監督助手:大根田真人
人形製作:稲熊未来
衣装:金田かお里(undailygate)
チラシデザイン:小田善久
映像・PV製作:Archifact
映像撮影・編集:水内宏之
写真:玉内公一、大洞博靖、丸山雄二
記録映像・写真:船橋貞信
パフォーマンスアシスト:中井尋央、柴崎直子
特別協力:牛川紀政
制作:金原知輝、松波春奈、中村麻美、村岡尚子
INDEX
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
- 休日課長さんがゲイ役をつとめたドラマ『FOGDOG』第4話「泣きっ面に熊」
- 長年のパートナーががんを患っていることがわかり…涙なしに観ることができない、実話に基づくゲイのラブコメ映画『スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月』
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