REVIEW
プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
本物のドラァグクイーンが大活躍する笑いあり感動ありの舞台『リプシンカ ~ヒールをはいた男!?たち~』。大阪公演に続き、東京公演がスタートしました!
(大阪公演ゲネプロより (C)「リプシンカ」製作実行委員会/撮影:大久保啓二)
本物のドラァグクイーンが登場し、ゲイテイストなショーも繰り広げる笑いあり感動ありの舞台『リプシンカ ~ヒールをはいた男!?たち~』。ナジャさんなども出演した大阪公演に続き、八方不美人が大活躍な東京公演もスタートしました。プライド月間にふさわしく、GAY PRIDEを感じさせる素晴らしい作品でした。初日のレビューをお届けします。
6月22日、銀座・博品館劇場。小雨が降るなか、大勢のお客さんが列を作っていました。
客席はほぼほぼ満員で、ほとんどが女性またはゲイ(と思しき方)でした。BGMがシモーヌ深雪さんの伝説的な名作ショーの音源「よしこ」で、心の中で狂喜乱舞してました(なんで「よしこ」?と思ったのですが、「いっしょに銀座を歩きましょう」のところで納得)。また、開演までの時間に、アロムさんとGAGAちんさんが客席を盛り上げ、女性のお客さんたちが「キレイ…」とウットリしていました。
期待が高まるなか、いよいよ幕が開きました。
舞台は繁華街の片隅にある『リプシンカ』というドラァグクイーンが常駐するカフェレストラン(堂山の「do with cafe」がモデルだそう)。10周年パーティを盛り上げるため、ドラァグクイーンになりたい人を募集したところ、やってきたのはリストラされたサラリーマン、陰気な中年女性、ベトナム人留学生の3人。古参のクイーン、ドロシーも呆然となるなか、オーナーは彼らを修行させることにして…という、ドラァグクイーン愛にあふれた物語です。
キホン、ストレートプレイなのですが、ショーあり、ライブあり、ちょっとミュージカルっぽいシーンもありの、エンタメ要素盛りだくさんな舞台で、それでいて、ドラァグクイーンとは何か?といったこともきちんと説明され、GAY PRIDEや、民族差別や、技能実習生などの社会問題も描かれた、笑いあり(怒りあり)涙ありの作品になっていました。
エスムラルダさん&ちあきホイミさんは『リプシンカ』で働くクイーンとして出演しています。また、ニューヨーク帰りのゴージャスなクイーン、レディ・スプラッシュの役でドリアン・ロロブリジーダさんも登場。八方不美人としてのライブもあって、パレードで歌える歌をという趣旨でつくられたハッピープライドソング『地べたの天使たち』を披露していました(主演の室龍太さんもサビの「ハピネス♪」の振付をいっしょにやっててくれてハピネス♪でした)
25年来の友人であるエスムラルダさんをはじめ、よく知ってるクイーンのみなさんが天下の博品館劇場のステージに立っていることには感慨を禁じえませんでした。
考えてみれば、ノンケさんに媚びずにドラァグクイーンというゲイカルチャーにこだわって、本当のドラァグクイーンもたくさん出るし、出演者ほとんど全員ドラァグするという、こんなにドラァグづくしの舞台が、天下の博品館劇場で上演され、1万円近いチケット代の商業演劇として成立しているというのは、ものすごい偉業(異形?)なんじゃないかと思います。
ゲイによる、ゲイカルチャーをテーマにしたドラァグクイーンだらけの舞台。それだけでも意味があるのですが、今回、2011年版と比べてさらに内容がアップグレードされていたと思い、特に、いい意味で驚かされ、素晴らしいと感じたのは、ハッテン公園でのゲイバッシングのようなシーンから始まり、ノンケ男がゲイを「気持ち悪い」と言い、暴力を振るったりする、でもゲイだって女性をバカにしたり傷つけたりすることもある、いやいや日本に来たベトナム人はもっとひどい目に遭ってる、というように、社会に現存する差別や暴力の問題が多様な視点で描かれていたことです。
『リプシンカ』というお店の「世界」では、楽しくドタバタに描かれてはいるけど、実はあらゆる人が差別されたり、差別したり、問題を抱えていたり、問題を起こしたりしている「るつぼ」で、それでも騒動が起こるたびに謝ったり、反省したり、励ましあったりしながら、ちょっとずつ人として成長し、アライに生まれ変わったり、前に進んでいく(ちょっとだけ「世界」を良くしていく)のです。しかし後半、とんでもない悪の親玉(クズというかゴミみたいな)が現れ、みんなで立ち向かうという展開になり…ちょっと吉本新喜劇っぽくもあるけど、日本社会の縮図を表しているようにも見えるという、人によって見方が変わるかもしれない、奥深い作品だったと思います。
そんなドタバタがあっての大団円が、プライド月間を祝うレインボーなショーで、(ノンケのみなさんはあまりピンときてなかったかもしれませんが、一人で)目をウルウルさせてました。男性がドラァグクイーンになり、女性がドラァグキングになって絡むという演出にもシビれました。
「プライド月間にふさわしい名作!」と書いたのは、『リプシンカ』がこのように、PRIDEに裏打ちされた作品だったからです。
個人的には、(毎週欠かさず観ている)よしもと新喜劇で「バレエ芸」を披露している松浦景子さんの生バレエが観れて、感激でした(しかも、この作品じゃないとありえないような格好で…)
あと、ドロシー役の下村青さんが、めっちゃ青森弁とバトンが上手くて、ビックリしました(この方、この舞台のために猛練習なさったのだろうか…と気になってググってみたら、もともと青森出身で、バトントワリングで世界チャンピオンになったことがある方でした)
菊池ハルさんもなかなか上手い役者さんだと思いました(笑わせてもらいました)
こうした、ゲイやドラァグクイーンに理解のあるプロの役者さんたちのおかげで舞台が成り立っているし、しかも自分自身、ドラァグするわけですから、なかなかのアライですよね。拍手!です。
というわけで、いろんな意味で素晴らしい舞台でした。
東京公演は26日までです。ぜひみなさん、ご覧ください!
『リプシンカ ~ヒールをはいた男!?たち~』
作・演出:仲谷暢之
音楽:鎌田雅人
出演:室 龍太、彦摩呂、髙汐 巴、下村 青、松浦景子、小谷嘉一、菊池ハル、ドリアン・ロロブリジーダ
ゲスト出演:八方不美人
東京公演 ドラァグクイーン:エスムラルダ、ちあきホイみ ほか、東西人気のドラァグクイーンが多数日替わりで出演
【東京公演】
日程:6月22日~26日
会場:銀座 博品館劇場
INDEX
- ゲイが女性の体を手に入れたら!? 性をめぐるドタバタを素敵に描いた台湾発のコメディドラマ『美男魚(マーメイド)サウナ』
- 家族のホモフォビアゆえに苦悩しながらも家族愛を捨てられないゲイの男の子の「旅」を描いた映画『C.R.A.Z.Y.』
- SATCのダーレン・スターが手がける40代ゲイのラブコメドラマ『シングル・アゲイン』
- 涙、涙の、あの名作ドラマがついにファイナルシーズンへ…『POSE』シーズン3
- 人間の「尊厳」と「愛」を問う濃密な舞台:PLAY/GROUND Creation『The Pride』
- 等身大のゲイのLove&Lifeをリアルに描いた笑いあり涙ありな映画『ボクらのホームパーティー』(レインボー・リール東京2022)
- 近未来の台北・西門を舞台にしたポップでクィアでヅカ風味なシェイクスピア:映画『ロザリンドとオーランドー』(レインボー・リール東京2022)
- 獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
SCHEDULE
- 01.17しゃぶしゃぶガールズ
- 01.18令和のぺ祭 -順平 BIRTHDAY PARTY-
- 01.18GLOBAL KISS