REVIEW
ドラマ『New Normal』
『glee』のライアン・マーフィによるゲイカップルのドラマ『New Normal』が4月から日本上陸! 『glee』よりもゲイゲイしいのはもちろん、『モダン・ファミリー』よりも笑える最強クィア・コメディ。「いつ観るの? 今でしょ!」って感じです。
ついに『glee』のライアン・マーフィが満を持してゲイカップルのドラマを作った!というだけでも興味津々だったのですが、実際に観てみると、『glee』よりもゲイゲイしいのはもちろん、『モダン・ファミリー』よりも笑えて、さらに奥深いという、最強クィア・コメディに仕上がっていました。レビューをお届けします。(後藤純一)
そして昨年秋の放送スタート直後から早くも人気が高まり、シーズン途中で製作話数の追加が決定。また、2013年のピープルズ・チョイス・アワードで「お気に入りの新コメディ」に選ばれ、GLAADメディア賞では最優秀コメディ・シリーズ賞に輝きました。
このヒットを受けて日本でもさっそく放送が決まり、FOXチャンネルで『New Normal おにゅ~な家族のカタチ』というタイトルで4月18日から第1話がスタートしていました(現在第5話くらい)
『New Normal』は、LAに暮らすブライアン(TVプロデューサー、ちょいオネエ)とデヴィッド(産婦人科医、実直なキャラクター)のゲイカップルが主人公。経済的な余裕もあり、カップルとしても幸せに暮らしていますが、子どもがほしい!とブライアンが言い出し、代理母にお願いすることに…というのが第1話です。何人もの代理母候補の中から選ばれたのが、ゴールディという若くて美しい女性。彼女は、浮気ばかりしている夫と保守的な母親に愛想をつかし、一人娘シャナイアを連れてオハイオから家出してきたのですが、その身の上にシンパシーを感じ、またシャナイアのかわいらしさ(かなり変わった子で、見た目は『リトル・ミス・サンシャイン』の女の子みたいな感じ)を気に入ったのでした。無事に妊娠もうまくいって、4人の幸せな共同生活が始まります。
ゲイカップルが主人公ではありますが、ゲイであること自体はことさら面白おかしく描かれているわけではなくて(当たり前で)、ゴールディの元夫が笑っちゃうくらい頭の悪いキャラだったり、オトコに飢えたゴールディが子持ちのバツイチであることを隠して若いイケメンにモーションをかけたり、娘のシャナイアがヘンテコな行動をしたり(毎回何かやらかしてくれます)、ゴールディたちを連れ戻そうとLAにやってくる母ジェーンのゴリゴリの差別主義者っぷりがあからさまに浮いていたり、むしろ(確信犯的に)ノンケ家族の方が面白おかしく描かれているところが面白いです。
そしてこの『New Normal』、コメディとしても秀逸です。個人的にツボだったのは、第2話でシャナイアがTVで『グレイ・ガーデンズ』の映画を観てリトル・イディみたくスカーフを頭に巻いた格好で家の中を走り回るシーン。ゲラゲラ笑いながら、なんてラブリー!こんな子どもほしい!って思いました。油断してると「コーヒー吹いた」ってことになりかねないシーンが随所にちりばめられています。
シャナイア、超ラブリー!
ベビー用品売り場でスウィートなキモチが盛り上がってついキスをしてしまったブライアンとデヴィッドに対し、子連れのパパが「やめろ、子どもに何て説明したらいいんだ」と難癖をつけ、ブライアンは得意の弁舌でそれに反論するのですが、家に帰ってから泣きだします…(「僕らの子どももそんなふうに言われるんだろうか…」)
長蛇の列ができている中でなかなか注文ができない(本当はできるのにわざとやってるようにも見える)障がい者に向かって「早くしろ、バカ」と言った男を、デヴィッドが「侮辱はやめろ」と殴る、けど、逆に障がい者から「俺の問題に首を突っ込むな、オカマ」と侮辱される、というシーンもありました。
大統領選の時期、ブライアンとジェーンが民主党か共和党かで言い争い(「左翼のホモ」とか罵られながら)、ジェーンに「黒人だからというだけでオバマに入れるのなら、それも人種差別よ」と言われ、ブライアンは「そういえば、周りに黒人の友達っていないかもしれない…」と気づく、というシーンもありました。(そういったシーンもコメディタッチの中でうまくソフトに描かれています)
そしていちばんの見どころというか、たぶんこのドラマの重要な鍵を握っているのが、ゴリゴリのレイシストとして登場するジェーン(ゴールディの母親、シャナイアの祖母)です。彼女は初め、言いたい放題でゲイや黒人を罵って周りを不快にさせていますが、次第にブライアン&デヴィッドにも心を開いていきます(ある意味、義理の息子みたいな関係になるわけなので)。そして第5話ではなんと、ホテルのバーで男にナンパされ、(何十年ぶりに)熱い一夜を過ごすという展開に。翌日、産婦人科医であるデヴィッドの元を訪ね(ゲイの医者はいやだとか有色人種の医者はいやだとかゴネながら)、体がシビレるような感じがしておかしいと相談し、「それはオーガズムだ」と(笑)。そうして彼女は、夫婦性活には恵まれなかったけど、自分も男遊びをしたり人生を楽しんでいいんだということに目覚めていくのです。
このように、『New Normal』は、表向きは「ゲイカップルの子育て」をテーマにしているように見えますが、裏テーマは「差別とはどういうことか」だったりします。『glee』でもすでに、さまざまなマイノリティを登場させて次々にタブーを破っていくということをやってくれていましたが(あくまでもさわやかに、直球で)、それをさらにエッジの効いた手法で掘り下げているのです。差別する人イコール悪で、差別されている人たちが清廉潔白(一方的な被害者)という図式では決してないし、レイシスト呼ばわりされているような人にもその人なりの実存があるし、とか。実は差別と笑いは密接に結びついているのでは?ということを視聴者に投げかけていたりもします(思わず笑ってしまったあとで、ふとそのことに気づかされたり)。そういう中で、すでに解体しかかってる家族の愛とか絆を再構築するために必要なのは、伝統的家族観の押しつけではなくゲイカップルが象徴する新しい家族観なんじゃないの?という「新しいフツー」を浮かび上がらせているのです。
きっと脚本も慎重に書かれたでしょうし、演出はもちろん、役者さんも難しい演技を求められたはずです。その見事な恊働作業とバランス感覚のもとに、この名作が誕生したんだと思います(拍手!)
New Normal おにゅ~な家族のカタチ
FOX(スカパー!やCS、IPTVで視聴可能)
放送日時:毎週木曜25:00-25:30
リピート:毎週金曜8:00-8:30、15:00-15:30
INDEX
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