REVIEW
ドラマ『Looking/ルッキング』
huluで配信されているドラマ『Looking/ルッキング』。名作ゲイ映画『ウィークエンド』のアンドリュー・ヘイが監督・脚本を務め、今のサンフランシスコで生きるゲイたちの日常をリアルに、あたたかく描く素敵な作品です。
huluで配信が始まったゲイのドラマ『Looking/ルッキング』。東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映され、感動を呼んだゲイ映画『ウィークエンド』のアンドリュー・ヘイが監督・脚本を務め、今のサンフランシスコで生きるゲイたちの恋や仕事など日常生活をリアルに、愛情を持って描いている、画期的にして素晴らしい作品です。レビューをお届けします。(後藤純一)
まずは、2012年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映され(昨年PFFアワード2016の特別プログラムとして再上映されました)、静かな感動を呼んだ名作ゲイ映画『ウィークエンド』のことをご紹介しましょう。
アンドリュー・ヘイというイギリス出身の無名のゲイの映画監督の作品は、2012年の映画祭において「ゲイ版『ビフォア・サンライズ』とも言うべき、奇跡の出会いを描く。一生忘れられない48時間の恋。会話と官能に彩られたロマンティックドラマ」だと称されていました。
実際に観たところ、予想をはるかに超えた名作でした。当時のレビューを再掲します。
「ノンケの友達だって本当に理解があるし、結婚もできるし(イギリスはまだシビル婚ですが)、ゲイとして不自由なく生きていける現在のイギリスで恋をするということのリアリティ。プールの監視員をしているラッセルは、ゲイクラブでグレンと出会い、一夜を共にし、恋の炎が燃え上がります。しかし、グレンは2日後にアメリカに移住することが決まっていて、つきあうことはできません(おまけにグレンは恋人を作らない主義)。ラッセルも、せいぜい2日間のラブ・アフェアを楽しめばよいのでしょうが、そうはできません(真っ直ぐなのです)。グレンも、ラッセルのナイーブさ、純粋さ、不幸な生い立ちにもかかわらず真っ直ぐに生きている姿に、どんどん魅かれていきます(ラッセル役の方、笑ったときの目尻の小じわとか、たまらなく優しい笑顔にやられます。惚れました)。ラストシーンが素晴らしく、まるで『トーク・トゥ・ハー』とか『グラン・トリノ』を観たときのように、静かにハラハラと、とめどなく涙があふれ、しばらく口も聞けなくなりました…」
ここ数年の映画祭の上映作品の中で、個人的には最も素晴らしかったという印象が強い作品です(DVDになっていないのが本当に残念!)。これまでの映画祭の上映作品の中でももしかしたら5本指に入るかもしれません。
まず、公園でハッテンしてる最中に友達から電話がかかってきてプレイを中断し…というオープニングが素敵です。
ゲーム会社で働く普通系のパトリック、アート制作の仕事をしているロン毛のアグスティン、カフェで働いているヒゲの野郎系・ドムが仲良し3人組で、それぞれ、出会いがあったりなかったり、元彼との確執があったり、彼氏と一緒に住むことにしたり、仕事がうまくいってなかったり、仕事がらみで出会いがあったり、という日常のいろいろ、今のサンフランシスコのゲイのリアリティを映し出しています。
これまで映画やドラマに登場してきたゲイは往々にして、誇張されたオネエだったり、過剰にインランだったり、全然ゲイっぽくなかったり(ノンケの俳優さんの演技の限界、みたいな)、リアルで感情移入できるようなゲイのキャラクターって決して多くはなかったと思いますが、『Looking/ルッキング』の登場人物たちは、『ウィークエンド』がそうであったように、どこにでもいる平凡な、どこかしら共感する部分があるゲイたちです。当初、ゲイ版『SEX AND THE CITY』と言われていたようですが、あんなふうにみんなスゴい仕事をしてて、キラキラ輝いてて、何かハデな(笑える)事件が起こったりするわけでは全くありません。どちらかというと地味な、パッとしない3人です。誰もが経験したことのある出会いや別れ、仕事上の悩みや、失敗や、様々なエピソードが織り込まれていて、ゲイライフを描きつつも過剰にゲイゲイしくもなくて、落ち着いたトーンで(ややコメディタッチで)、だからこそ真実味があり、目が離せなくなり、いつの間にか彼らを応援している自分がいる、そんなドラマです。
舞台がサンフランシスコというだけあって、カストロ・シアターやゲイクラブ、バスハウス(ハッテンサウナ)、宅配ストリッパー、ハスラー、そして本邦初公開だと思うのですが、サンフランシスコが世界に誇るレザー野郎たちの祭典「フォルサム・ストリート・フェア」もフィーチャーされいて、ちゃんと全裸の方(もちろんボカシは入っています)が歩いてたりするあたりも拍手モノでした。そして、エイズ禍の時代のサバイバーの方が登場したのも素晴らしいと思いました。コミュニティへのリスペクト、愛が感じられます。
キャストとしてちゃんとゲイの俳優がたくさん起用されているところもポイントが高いです。
主人公のパトリックを演じているのは、『glee』でジェシー(ボーカル・アドレナリンから差し向けられたスパイ。レイチェルとつきあう)を、アナ雪でクリストフの声を演じたジョナサン・グロフ。オープンリー・ゲイで、私生活は『HEROES/ヒーローズ』のザッカリー・クイントとの交際がニュースになったりするほど華やかなのですが、今回はパッとしない感じのドジな地味キャラを演じているのが面白いところです。
ドムを演じているマレー・バートレットもオープンリー・ゲイです。SATCでキャリーに声をかけてくるオーストラリア人のバイヤー、オリバー・スペンサーを演じていた俳優です。
アグスティン役のフランキー・J・アルバレスはストレートです。
それから、パトリックの上司となるイケメン・ゲイの役をラッセル・トーヴィが演じているほか、シーズン2にはダニエル・フランゼーゼが登場するそうです(いずれもゲイの俳優です)
製作陣も同様です。
そもそも『Looking/ルッキング』は『Lorimer』という短編映画をベースに作られたドラマなのですが、この短編の作者であり、『Looking/ルッキング』のプロデューサーも務めているのがマイケル・ラノンというゲイライターです。
そして、エグゼクティブ・プロデューサーを務めているのが、ゲイの俳優、デヴィッド・マーシャル・グラントです。
さすがはアンドリュー・ヘイだと思えるような、文句なしに素晴らしいドラマであり、そして、ドラマを愛し、ゲイコミュニティを愛する製作陣や出演者が作り上げた、思いのこもった作品なのです。
『Looking/ルッキング』シーズン1(全8話)
Huluにて12月23日(金)から独占配信スタート、以降毎週金曜日に1話ずつ追加配信予定
INDEX
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」
- アート展レポート:moriuo個展「IN MY LIFE2023」
- 「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
- 女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
- これは傑作! ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』
- シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
- 台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』
- ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
- 史上最高にゲイゲイしいファッションドキュメンタリー映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
- ryuchellさんについて語り合う、涙、涙の番組『ボクらの時代 peco×SHELLY×ぺえ』
- 涙、涙…実在のゲイ・ルチャドールを描いた名作映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』
- ソウルにあったハッテン映画館の歴史をアニメーションで描いた映画『楽園』(「道をつくる2023」)
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
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