REVIEW
ドラマ『センス8』
ウォシャウスキー姉妹によるNETFLIXオリジナルドラマ『センス8』が好評を博しています。キホン『マトリックス』のようなSF大作でありながら、随所にゲイやレズビアン、トランスジェンダーが登場し、そのリアルな苦悩や歓びが描かれ、セクシーなシーンも満載な、どんどん次が観たくなる作品です。

『マトリックス』シリーズで世界を席巻したウォシャウスキー兄弟ですが、2008年に兄のラリーが性別適合手術を受けてラナと改名、2012年の『クラウド アトラス』公開の際は女性の姿になっていました(同年、ヒューマン・ライツ・キャンペーンから表彰されました)。そして、弟のアンディもまた、2016年に性別適合手術を受けて、リリーとなりました。トランスジェンダーに生まれる確率は約0.3%(約300人に1人)だそうですから、姉妹ともにトランスジェンダー(しかも映画監督)というのはスゴいことです。
そんなウォシャウスキー姉妹の作る映画には、『マトリックス』以来、一貫したテーマがあったと思います。人々を苦しめている不条理な社会(システム)の真実に気づいた主人公が、人間らしさを取り戻すべく、愛と勇気によって闘いを起こす(または、ほんのわずかな可能性に賭けて行動し、奇蹟を起こしていく)といったテーマです。『クラウド アトラス』ではさらに、時代を超えた6つのエピソードが交錯し、ゲイのキャラクターが登場しました。今回のドラマ『センス8』もその延長線上にあります。世界各地に散らばっている8人の「感応者」と呼ばれる主人公たちが、意識や感覚を共鳴させ、まるで瞬間移動したかのように同じ場所に居合わせ、話し合ったり、本来そこにいる人に代わって行動したりということが可能で、その能力を使って「敵」と戦っていくのです。「敵」が誰なのか、何をしようとしているのかは、実にゆっくりとしたペースで少しずつ明らかにされるのですが、その過程で、8人がそれぞれどんな人で、どんな仕事をしていて、どんな人と愛し合い、何に悩んでいるかといった日常生活のエピソードが描かれます。SF的な設定だけではなく、そうしたところにこそドラマらしいドラマがあります。世界各地で大規模なロケが行われ、家にいながらにしてアイスランドの大自然やインドの雑踏やサンフランシスコのパレードを体験できるような、素敵な作品です。シーズン1のレビューをお届けします。
























エピソード1では、二人の女性がベッドで愛しあうシーンが登場します。彼女たちはセックスが終わった後で「HAPPY PRIDE!」と言い、パレードの日の朝なんだな、とわかります。一見、ドレッドヘアーとブロンドのレズビアンカップルに見えますが、ブロンドの方(ノミ)はトランスセクシュアル女性なのでした。ノミはブログでLGBTについて書いている人で、たくさんのLGBTがピクニックをしている公園(素敵!)で、ある人に記事を批判され、傷つきますが、彼女のアマニタが守ってくれます。ノミがエイズ禍の時代のゲイたちの物語を描いた舞台を見て、涙を流すシーンもあります(「80年代のパレードはお葬式だった」という語りもありました)
エピソード2では、ノミのトランスジェンダーとしての苦悩がより鮮明に描かれます。彼女は親にトランスジェンダーであることを受け入れてもらえず(未だにマイケルと呼ばれるのです…)、若い頃は両親を恐れていました。「パレードも怖かった。拒絶されるかもしれないから。私は今日、パレードに参加する。昔のように恐れていた仲間のために。私はもう独りじゃない。誇りを胸に、参加する」とブログに書いた後、ノミは「ダイクス・オン・ザ・バイクス」の一員として笑顔でパレードに参加するのです(本当に幸せなシーンです)
天才ハッカーであるノミはこのようにトランスジェンダーのキャラクターで、8人の(「感応者」である)主人公たちのなかには、ゲイの人もいます(「ホイットニーの気分だ」とか、ゲイテイストなセリフもちらほら)。彼は仕事の性質上、公にカミングアウトしづらく、ストレートして振る舞っています。婚約者とまでは言わないものの、とある女性をいつも連れ歩き、カムフラージュしているのですが、とうとう彼女にバレる日が来て…。その後、カミングアウトしていないことが理由で厄介な出来事に巻き込まれ、最愛のパートナーが離れていきます(恋愛一つをとってみても、ストレートであれば簡単で何の問題もないことが、LGBTにとっては、社会の偏見ゆえに、とんでもなく困難な、人生の一大事であるということが痛いほど伝わってきます)。彼は泣き、叫び、ボロボロになり…。切なくもあり、また、たまらなくセクシーなシーンでした。
セクシーといえば、ラブシーンや裸のシーンがとても多いのも今作の見どころです。特にエピソード6では、感覚を共有しあう主人公たちが、男女トランスジェンダー入り乱れてのセックスへと突入、「最高のオーガズム」を経験するという、美しくもエロティックなシーンが見られます(素晴らしいです)。このシーンでは、ふだんストレートとして行動している人物も同性やトランスジェンダーとも愛し合っているのですが、それは、相手の五感を通してあたかもその場にいるかのように世界を感知できる「感応者」としての能力としての擬似的なセックスなんだろうなと解釈していました。が、ウィル役のブライアン・スミスのコメントによると、監督のラナは、8人全員がパンセクシュアルだと考えているそうです(スゴい!)
一方で、アクション満載で、時に目を覆いたくなるくらいバイオレンスなシーンもあったりする今作ですが、8人の中で最も武闘派なのが女性であるというところもカッコいいです。この女性・サンは、下卑た男たちが幅を利かせる男尊女卑な社会の犠牲者で、あまり感情を表に出さず、拳に全てをぶつけるのです(日本で同じような思いをしてきた女性たちやLGBTは、きっと応援したくなることでしょう)。主に彼女の助けを得て戦い、人生を切り開いていくのは、ナイロビに住むジャン=クロード・ヴァン・ダムを崇拝する青年・ケフィアスです。彼は別に喧嘩が強いわけではない、お母さん思いの優しい青年で(胸がキュンとなります)、サンとシンクロすることでヴァン・ダムのようになれたのです。
世界中でロケを展開し、主役の8人以外にもたくさんの人物が登場するドラマですが、エピソード3のソウルのとある重要なシーンでホン・ソクチョン(韓国で最も早くゲイであることをカミングアウトし、そのせいで仕事を干されたり、とても苦労してきた俳優)が登場したのは胸アツでした。
エピソード9の、胸がキューっと締めつけられるようなシーンでは、天使の声とも言われるトランスジェンダーのアントニー・ヘガティ(現在はアノーニと改名)の歌声が流れました。そして、クリスマス・スペシャル"Happy F*cking New Year"では、ルーファス・ウェインライトの歌う「ハレルヤ」が、8人のクリスマスを彩ります。
物語の中で発せられるセリフは、時々、ハッとさせるような重みがあります。例えば「進化には多様性が必要」とか、「本当の暴力は、決して許せない暴力は、自分自身への暴力。自分を偽ること」とか。トランスジェンダーの監督だからこその真実味があります。

『センス8』はネットドラマということもあって世界的に配信され、ファンを獲得しているようで、昨年はサンパウロの世界最大のパレードにフロートを出展し(映像はこちら)、キャストがシャツを脱いで踊ったり(中にはパンツ一丁になる方も!)、役柄通りのカップルでキスを披露したりして、パレードの参加者たちを熱狂させました。東京にも来てほしい!と切に願います。
『センス8』
Netflix
製作:アナコス・プロダクションズ、ジョージヴィルTV、ジャヴリン・プロダクションズ
製作総指揮/脚本/監督:ウォシャウスキー姉弟
出演:アムル・アミーン、ペ・ドゥナ、ジェイミー・クレイトン、ティナ・デサイ、タペンス・ミドルトン、マックス・リーメルト、ミゲル・アンヘル・シルヴェスタ、ブライアン・スミス、ダリル・ハンナほか
5月5日に待望のシーズン2全10話が公開!
INDEX
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