REVIEW
料理を通じて惹かれ合っていく二人の女性を描いたドラマ『作りたい女と食べたい女』
『きのう何食べた?』の女性版みたいな感じ…ではなく、料理を作る喜び、食べてもらう喜び、食べる喜びが描かれつつ、料理を通じて惹かれ合う二人の恋愛模様も描かれた、素敵なドラマでした。

ドラマ『作りたい女と食べたい女』の放送がスタートしました。漠然と、『きのう何食べた?』の女性版みたいな感じなのかなぁと思ったら、登場する料理が凝っているとかレシピが紹介されるとかではないのですが、料理を通じて惹かれ合う二人を描く、思わず引き込まれしまうような、魅力的で素敵なドラマでした。レビューをお届けします。
ゲイの方のなかには、料理を作るのが好きな方、得意な方がきっと大勢いらっしゃると思います。お花見となると立派なお重をこしらえてくるプロ顔負けの方とか、ホームパーティで目にも鮮やかな洒落たパーティ料理を振る舞う方とか、お菓子作りが得意な方とか。そこまで立派な料理人じゃなくても、作るのは好きだし、ふつうの家庭料理だけど、できたら好きな人に食べてもらいたい、美味しいって言ってくれたら本当に幸せって思う方、とても多いと思います。
そういう、料理を作ることの純粋な喜び、自分の作った料理を美味しく食べてもらえることの喜び、食べる喜びが、実に素敵に、ドラマチックに描かれているのがこの作品です。
また、第1話では、女性が料理を作ることへの世間のステレオタイプな見方(“いい奥さん”になるよ、とか)や、外食したときに勝手にご飯を少なめに盛られることなどへの批判も込められていて、ウンウン、そうだよね、と共感します(男性だってご飯少なめにしたい人もいるし、見た目で勝手に大盛りにされると不愉快だったりしますよね)
さらに、そんな「作りたい女」と「食べたい女」が出会い、惹かれあっていく様が描かれるという、シビれるほど素敵で、味わい深い作品でした。
きっと多くの人が比べてしまうであろう「何食べ」との違いについて言うと、「何食べ」は毎回料理のレシピを紹介しつつ、二人の日々のよしなしごと(ときにはドラマチックなこと)がコメディタッチで描かれるわけですが、「つくたべ」はコメディではなく、もっとナチュラルテイストで、料理自体が凝ってるわけではなく、料理を作ること、食べてもらうことの喜びと、料理を通じた二人の関係性に焦点が当てられている感じです。そして「何食べ」はすでに家族化したゲイカップルで性の匂いが一切しないのに対し、「つくたべ」は料理をきっかけに惹かれ合っていく女性どうしの恋心がドラマチックに描かれる、というところが対照的です。
この作品、たぶん、素晴らしくレズビアンテイストなのですが、ドラマとして成功しているなぁと思えるのは、「食べたい女」役の西野恵未さんの存在感です。おそらく原作のイメージにぴったりな方としてオーディションで選ばれたと思うのですが、その一挙手一投足から目が離せないような、独特の魅力があります。今まであまりテレビで見たことがないようなタイプのキャストです。ぜひご覧ください。
1話1話が朝ドラと同じ15分という短さで、サクッと観れるのもポイントです。
また、こちらでもご紹介したように、オリジナルのチャリティグッズが販売され、収益が「結婚の自由をすべての人に」(同性婚訴訟)に寄付されます。そういう意味でも応援したい作品です。
夜ドラ『作りたい女と食べたい女』(全10話)
2022年11月29日(火)~12月14日(水)
(総合)月~木 22:45~23:00
原作:ゆざきさかおみ
脚本:山田由梨
音楽:伊藤ゴロー
出演:比嘉愛未、西野恵未、森田望智、中野周平(蛙亭)、野添義弘ほか
INDEX
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
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