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レポート:歴史的であり、感動的でもあったP7サミット

3月30日、歴史的な「P7」サミットが衆議院第一議員会館国際会議室で開催され、LGBTQの社会的課題に関してG7首脳に提出する政策提言(コミュニケ)について話し合いが行なわれました。

レポート:歴史的であり、感動的でもあったP7サミット

G7に向けてLGBTQの人権保護と政策提言を促進する新たなエンゲージメントグループ「P7(Pride7)」が設立され、歴史的な「P7」サミットが30日、衆議院第一議員会館国際会議室で開催されました。G7を含む計10ヵ国から12団体が参加し、LGBTQの社会的課題に関してG7首脳に提出する政策提言(コミュニケ)について、5時間超にわたって話し合いが行なわれました。レポートをお届けします。


P7とは

 G7に向けてLGBTQ+の人権保護と政策提言を促進する新たなエンゲージメントグループ『P7(Pride7)』が設立されましたというニュースでもお伝えしていましたが、P7とはなんぞや?ということについて再度、簡潔にまとめてみます。
 G7(やG20)においては、各国政府から独立した、国際社会におけるステークホルダー(企業、非営利団体、市民団体等)によって形成されるエンゲージメントグループがG7の諸課題について議論し、各国首脳に政策提言などを行ないます。これまでC7(Civil,市民社会)、B7(Business,経済団体)、L7(Labour,労働組合)、S7(Science,科学者)、T7(Think,シンクタンク)、W7(Women,女性)、Y7(Youth,ユース)などのグループがありましたが、今回初めて、P7(Pride、LGBTQ+)が設立されました。LGBTQに関してはW7などでも議論されていましたが、LGBTQが直面する社会的課題(イシュー)の重要性や、G7のなかで日本だけがLGBTQの権利や平等に関する法整備が進んでいないことなどに鑑み、LGBT法連合会、公益社団法人 結婚の自由をすべての人に -Marriage for All Japan-(以下MFAJ)、国際人権NGO ヒューマン・ライツ・ウオッチ(以下HRW)の3団体によって、独立したエンゲージメントグループが形成されました。これにG7を含む10ヵ国のLGBTQ団体や、日本の企業や議員の方たちなども賛同し、歴史的な「P7」サミットが衆議院第一議員会館国際会議室で30日に開催されることになりました。

 
レポート:P7サミット(1)来賓の挨拶

 3月30日、国会議事堂や桜の花を横目に見ながら国会議事堂前駅を降り、衆議院第一議員会館に着くと、P7のスタッフの方がプラカードを持って立っていて、通行証発行の案内をしてくれました。
 国際会議場は、国連や何かの会議で見るような丸く並べられたテーブルと、さらにその周囲を囲むたくさんのテーブルと椅子、大きなモニター(スクリーン)が整備された立派な会議室でした。
 HRW日本代表の土井香苗氏と、みたらし加奈氏(臨床心理士/公認心理師)が司会を務め、会議は日本語と英語で行なわれました。日英の同時通訳のほか(通訳機が配られました)、手話通訳も行なわれていました。

 はじめにメディア向けの写真撮影が行なわれ、来賓や政府関係者、国会議員の方たちからの挨拶が13時半まで行なわれました。
 MFAJの寺原真紀子共同代表は英語で「P7実行委員会の3団体がLGBTQ差別禁止、婚姻平等、非人道的要件のない法的性別変更、SOGIの観点での人権を確保することを求めて立ち上げました」「最低限必要なこと、根本的な差別・偏見を解消するための象徴的なステップです」とP7の趣旨を説明し、「日本はアジアで唯一のG7の国であり、今回は議長国。必然的にSOGIの課題に取り組むことが求められます」「すでにこの課題に取り組んできたW7に敬意を表し、家父長制を打破し、サミットにおける議論とコミットメントにつながる声明をまとめたいと思います」「今日という日を世界に誇れる日にしましょう」と述べました。

 続いてLGBT理解増進担当の森まさこ首相補佐官が登壇し、「お招きいただきありがとうございます」「P7の開催を喜ばしく思います」「当事者や親の会のみなさまと会ってお話し、家族に理解されず誰にも相談できない苦しみ、心が許せる人間関係がつくれない、自殺のハイリスク層である等の悲痛な声を聞きました。多様性が尊重され、すべての人々がおたがいの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした生活を享受できるよう、しっかりと取り組み、国の内外に示し、丁寧に説明していきたい」とご挨拶しました。

 駐日米国大使館のフィリップ・ロスキャンプ広報・文化交流担当は、「すべての国民の人権、政治的意見や宗教、立場にかかわらず平等な市民の生活が守られるよう、差別をなくすことが大事です。LGBTQもまだまだたくさんの課題がありますが、政府も市民社会もみんなが協力し、各国で努力していきましょう」と語りました。

 駐日英国大使館のヘレン・スミス首席公使(『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』を支援し、出版記念イベントにも登壇してくださっています)は、「歴史的な瞬間です」と語りました。「ここ数ヵ月、LGBTQへの認識が高まっています。多くの方々が積極的に役割を果たし、議論が進むことを期待します」「英国ではSOGIに関する差別が禁止され、LGBTQが社会的、経済的にも完全かつ自由な役割を担っていけるように法整備されています。これは私たち全員の問題です。LGBTQは議会でも政府でも、経済界においてもパートナーです。包括的な差別禁止法が必要です。ここで直接議論できることを楽しみにしています。具体的な取り組みを支持します」と語りました。

 駐日ドイツ大使館のクラウス・フィーツェ首席公使は、「今年はG7議長国として日本が大切な役割を担います。LGBTQの権利についても議論すべきです。去年はエルマウでコミュニケを出しました。これを進めるのは困難も伴うことでしょう。LGBTQコミュニティのみなさんは、困難に向き合ってきました。私たちひとりひとりが果たせる役割を果たし、市民社会からの意見を聞いて、日本の市民社会も、G7各国のパートナーも議論すべきです」と語りました。

 駐日オランダ王国大使館のテオ・ペータス全権公使・部長は、「LGBTQの平等な権利はオランダとしても重要だと考えます。憲法にも第1条で、国民の平等な取扱いが謳われ、性的指向も含まれています」「同性婚を認めてからもう20年が経ちますが、オランダでも一夜でできたわけではなく、LGBTQコミュニティの長年の苦闘の結果です。同性婚が社会に、家族にどのような影響を与えるのかという議論がありましたが、結果、何も悪影響がなく、2004年からは同性カップルも子育てに関われるようになり、より多くの人が幸せになりました。そして最近の幸福度のレポートでオランダは世界6位です。LGBTQも、すべての人が自分らしく生きられる社会を目指しましょう」と語りました。

 「2020 OUTstanding LGBT+ Role Model Lists」エグゼクティブ部門の世界2位英INvolveの「100 LGBT+ エグゼクティブ」第1位などに選出されているEY Japanの貴田守亮さんは、「私自身ゲイで、かつ会社のCEO。企業がどのように見ているかを話したい」として、「日本は議長国なのに同性婚を認めていない。このことが労働市場でどう見られているか。先週日本の企業のエグゼクティブの方と話していて、外国の同性婚パートナーを日本に連れてくるのに課題があり、欧米の人が日本に引っ越すのが困難だと語っていました」「G7でLGBTQへの取組みを課題とすることを要望したコミュニケに70企業以上が賛同しています。LGBTQの課題に取り組むこと、MFAJと共同で法整備を要望します」と語りました。

 日本労働組合総連合会の井上久美枝総合政策推進局長は、「連合も2016年にSOGI差別禁止法に向けた組織決定を行ない、さまざまな取組みをしてきましたが、まだ法整備は実現していません。荒井元首相秘書官の差別発言に対しては事務局長談話を発表し、国際女性デーでも緊急アピールを提案しました。職場のなかでのSOGI差別禁止を再確認するとともに、差別禁止法や同性婚の実現を求めます」と語りました。

 駐日オーストリア大使館のシュテファン・ハイスラーオーストリア全権公使は、「オーストリアでは、多くの議員がLGBTQの権利について長い年月、議論を重ね、2019年にようやく同性婚が実現しました」「日本での取組みに敬意を表します。市民団体と協力して差別問題に取り組んでいくことは大事です」と語りました。

 駐日欧州連合代表部のハイツェ・ジーメルス公使は、「日本で議論されているのをうれしく思う。私たちの経験をお伝えすると、EUはジェンダーによる差別を禁止した後、LGBTQコミュニティの権利を守るために努力してきました。2020年には、EUがLGBTQへのヘイトスピーチの禁止や同性婚家族の権利保障などを盛り込んだ指針を取りまとめました。LGBTQカップルの子どもたちも差別や偏見を受けることなく平等な社会で暮らせるよう、訴えています。今日はどんな議論がなされるか楽しみです」と語りました。

 駐日メキシコ大使館のサウル・サンブラーノ首席公使は、「人口が日本と同じくらいのメキシコでは、約500万人がLGBTQコミュニティのメンバーと見られています。すべての国民が人種、性別、宗教、SOGIなどで差別されることのないよう、憲法でも平等が謳われ、LGBTQの差別も禁止されています。2009年から州ごとに同性婚が認められ、昨年32州すべてが同性婚を認めました。私たちは権利をすべての人に認めます」と語りました。

 駐日イタリア大使館のステファノ・ストゥッチー公使は、「私たちは政治・経済にかかわらず人権を守り、暴力・差別がないようにしたいと考えます。2030年までに達成を目指す国連のアジェンダ(SDGs)に沿って、イタリアはLGBTQのいろんな活動をサポートし、積極的にいろんなプラットフォームを提供し、Equal Rights Coalitionにもコミットしてきました」と語りました。

 駐日フランス大使館の二コラ・ティリエ公使は、「LGBTQに対する差別や暴力は、まだ世界の至るところに残っており、許しがたい現実があります。フランスは、性的指向・性自認による差別と闘っていく意志を表明しています。フランスでは、SOGIに対するあらゆる分野での差別を禁止し、「みんなのための結婚」を承認し、コンバージョンセラピーを禁止し、2023年から同性婚養子縁組も可能になるといった平等に向けた意義深い進展がありました」「政府は、既存の35ヵ所のLGBTQセンターに加え、新たに10ヵ所のセンターを立ち上げるために基金を立ち上げました」「外務省はホモフォビアに関する国際会議を主催しました」「10月にはLGBTQの権利を担当する大臣を任命しました」「世界で同性愛やトランスジェンダーの非犯罪化を要望し、世界中のLGBTQ権利擁護団体を支え続けます」「みなさんの平等への取組に敬意を表します」と語りました。

 在日カナダ大使館のマット・フレーザー参事官は、「カナダが重要視するLGBTQの権利について市民団体や国会議員の皆様といっしょに議論できるのをうれしく思います。世界でLGBTQの権利を広げることは優先的に取り組むべき課題です」「カナダではトルドー首相がアクションプランを立ち上げ、権利やイニシアチブを広げる努力をしています」「カナダはどのようにLGBTQコミュニティを支援できるかということを重要視しており、G7でも議論を深めたい、成果物(コミュニケ)にも文言を入れていきたいと考えています。共通の価値を進めていくことが必要でしょう」「日本は2023年はG7議長国で、 12月には国連人権宣言が50周年を迎えます。この機会にぜひ議論を」「LGBTQが生まれながらに持っている権利を享受するためのバリアをなくし、すべての人が人間らしく生き、持っている能力を発揮することができるようになれば、もっと社会がよくなり、みんなが恩恵を受けられます」と語りました。

 日本コカ・コーラのパトリック・ジョーダン人事本部長は、「エモーショナルで重要な取組みであり、ビジネス的にも個人としても、LGBTQの権利のために努力しています。すべての国の政府がこのような差別禁止法や同性婚に取り組むべきです」「日本コカ・コーラでは2021年、すべての社員に同性パートナーシップを認め、ポジティブな声をもらいました。2022年には個人でも会社でも使えるハンドブックを製作しました。私もゲイとして、同性婚を認めていない日本に来て、今までのような異性婚と平等な機会が与えられずにきました。日本はLGBTQの権利も認めてインクルーシブで安全でよりよい社会になってほしいです」と語りました。

 このほか、超党派LGBT議連に携わってきた方々を中心に国会議員の方々が多数、ご挨拶しました。C7、W7、Y7の代表の方も登壇していました。また、LLANの方やぷれいす東京の生島さん、訴訟で在留資格を勝ち取ったアンドリュー・ハイさん、Fruits in Suits Japanのローレンさんなどのコメントもありました。が、本当に長くなってしまうため、申し訳ありませんが、割愛させていただきます。

※みなさんのスピーチにおけるLGBTQの言い表し方は、LGBT、LGBTI、LGBT+、LGBTQ+など様々でしたが、メモを取る都合上(そこを正確に書き写そうとすると手が追いつきません…)、LGBTQで統一させていただきました。ご了承ください。


レポート:P7サミット(2)各国支援団体からの報告とコミュニケについての議論

 30分の休憩をはさみ、各国のLGBTQ支援団体の方たちからの報告やコメントが述べられました。
(諸事情により、最初の方のお話が聞けませんでした。申し訳ありません)
 
 英国の有名なLGBTQ団体「Stonewall」のロビー・デ・サントス氏は、「差別禁止法は非常に重要です。この法に基づいて、雇用者は採用のプロセスや給料、環境などで差別なく平等に取り扱われるよう義務づけられます。プロバイダーは何か人を選ぶときには、不均衡になってないように、インクルージョンを考えています。英国ではこの法が成立してから10年で社会がよくなりました」「とはいえ、差別禁止法はあくまでもベースで、各企業は最高の人材を獲得するために、業界の手本となるよう、このベースからいかに高いレベルにできるかを競っています」「日本も差別禁止法ができたら素晴らしい社会になるでしょう」と語りました。
 
 フランスの「ineter-LGBT」のアルノー・ゴティエ・ファワ氏は、「同性婚法制化は平等の問題です。異性婚と同じ権利ができてないのは受け入れがたいこと。だれしも同じ保護を受ける権利があり、公平、公正な社会を目指さなくてはいけません。結婚はただの法的な契約ではなく、愛とコミットメントの象徴です。同性婚の否定は、異性愛と平等ではないということの表明にほかなりません。私たちは、より共感できる社会をつくらなければいけないのです」「国会議員は平等に国民に仕えると誓ったはずです。日本もワールドクラスのリーダーになる時です」「インクルーシブネス、アクセプタンス、ダイバーシティを大切にすることで、日本はより栄える国になります」と語りました。

 アジア太平洋地域のNGOと連携しながらゲイやトランスジェンダーのHIV予防啓発や陽性者支援に取り組んできたタイのAPCOM(Asia Pacific Coalition on Male Sexual Health)のミッドナイト・プーンカセットワッターナ氏は、「長年、LGBTQの人権の重要性に注目し、アジア太平洋地域で連携し、政府や国連、企業とも組んで平等を確保したい、よりインクルーシブな社会をと願い、同性カップルの権利、LGBTQ差別禁止法、また、出生証明書やパスポートの性別表記など、法整備に向けた努力をしてきました」「2018年には、MFAJもバンコクのAPCOMの会議に参加してくださった。同性婚を認めているのは台湾だけですけれども、だからといって台湾が天国かというと、そうではなく、まだ課題があります」「ポイントは、社会が前に進むために、ステイクホルダーが協力しあい、希望をつないでいけるようにすることです」「最近のレポートでは、実は、グローバルなファンディングの全資金の5%しかLGBTQに注がれていないことがわかっています。今後、もっと増やしていくことが大事です」「日本はアジアで唯一のG7のメンバーとして、積極的にLGBTQの権利を議論していく役割があります」と語りました。

 カナダでの人権団体「Egale」のキム・ヴァンス・ムバンガ氏は、「LGBTQへのフォビアがなくなるよう、偏見に苦しむことがなくなるよう活動しています。研究や教育にも力を入れています」「1986年からLGBTQコミュニティと手を携えて活動してきて、これまで何十という最高裁の訴訟にも関わりましたが、訴訟に負けたことがありません。ただ、コミュニティの平等というのは、法を変えるだけでは達成できない、社会文化的な表現も変えていく必要があります」「カナダは成績表でAだと言われましたが、それでもパンデミックの間にヘイトクライムが64%も増えて、これは警察の統計ですから、報告されてないものもあるはずです。こうした不寛容に立ち向かうためには、政策への反映、政府に対してより具体的な行動を求めていく必要があります」「カナダではアクションプランによって、より多くの資金をコミュニティに投じる道ができました。こうした政策的な保護がないとLGBTQが不寛容な社会へ立ち向かうことが難しいです」と語りました。

 ILGA(国際LGBTI協会)Worldのワールドのディレクターであるジュリア・アート氏は、「ILGAは世界の190もの国、1800以上の組織をカバーし、それぞれのコミュニティに対する活動を行なっています。ジュネーブで国連と関わる活動もしてきましたが、私の理解では、ILGAがG7に関わるのは初めてです。なぜかというと、G7はたくさんのエンゲージメントグループがありましたが、LGBTQに関するものがなかったからです。そういう意味で、日本の市民社会がP7を立ち上げたことは意義深いです。感謝します」「G7は大きな力を持ち、民主主義国家への影響力や責任も大きく、経済的に豊かな国々なので予算や取組みも大きいですが、今日いろんな国が発表してきた事例を見てみると、G7が学べることもあると思います。お互い学べることもあるし、お互いに監視しあい、責任を求めていくことが推進力になってくと思います。そうやってLGBTQの法整備が進むことを期待します」「日本については、やはり婚姻平等、法的性別変更の要件緩和、包括的差別禁止も進んでほしいです」「世界を見渡すとLGBTQの状況はさらに悪く、例えばウガンダで厳しい法律ができましたが、同じような国はほかにもあります。こうした国に対してできることは2つあり、G7も他国と連携して、市民社会をサポートし、その国の制度を変えていく努力、国際的な取組みに一緒に関わっていくことができます。もう一つの推進力は、もっと資金を提供すること。今は1ドルあったら3.5セントしかLGBTQに使われていないのです。私たちのコミュニティはそういうサポートを必要としています」と語りました。

 LSVD(ドイツレズビアン・ゲイ協会)のフィリップ・ブラウン氏は、「今日は保守的な政府だった時期に私たちが行なってきた活動の事例をご紹介します」と言って、なかなか婚姻平等が認められないなか、一歩ずつ、同性パートナーシップ法が通るように動いていた人たちがいたこと、そして2017年に社会民主党などリベラル政党が総選挙後、「婚姻平等を認めないのであれば連立しない」と表明し、メルケル首相も婚姻平等を認めざるをえなくなったというお話をしてくれました。そのほか、包括的差別禁止法の議論、コンバージョンセラピーの禁止、性自認を尊重する法など、極右からの反対にも耐えながら、市民社会の賛同を得て、法制化を目指して活動してきたことに触れて、「今できる歩みを踏み出すことが大切です」と語りました。
 
 ベトナムの「ICSセンター」のリン・ゴー氏は、「LGBTQ権利擁護団体として、婚姻の平等を訴え、いろんなかたちで社会に影響を与えてきました。同性婚禁止規定も2014年に修正され、裁判でも認められました」「まだ法的に権利が認められているわけではないが、議論がされています。婚姻平等は早ければ2026年に成立するかもしれない」「まだ動きとしては後進的で、今後もっと、例えば経済的にももっと力を持つことが大事。G7がそれをリードしていただけるのではないか」「みなさんの発信力や影響力を使って、自国民だけでなく、アジアの国々の権利状況の進展に貢献していただければ。日本でも早く婚姻平等を」と語りました。

 メキシコでILGA WORLDなどの団体で活動しているアランダ・アロヨ・ルース・エレーナさんは、「ラテンアメリカは複雑で、憲法で差別を禁止した国もあれば、法的に保護していない国もあるし、ヘイトクライムもあります。この20年で大きな進歩が。メキシコは法制化によってかなり権利を認めましたが、どうして実現したかというと、人権尊重や経済的な平等といった国のコンテクストに合った議論によってLGBTQの見方を変え、広く国民からの支持を得るようになりました。たとえばジェンダー教育、人権教育、社会的な開発において誰の権利が大事かといった話で差別しない文化が醸成されました」「社会がこうした課題に立ち向かい、私たちでできる方策を探っていくことが必要です」と語りました。

 15時からは、コミュニケ作成のための議論に入りました。主催団体が作ったゼロドラフト(草稿)について、各団体の方々が意見を出し合い…という場でしたが、完全非公開で行なわれました。

 1時間ちょっとの話し合いの後、主催者からコミュニケは4/14に公表予定としていたが、4、5日後ろ倒しになります、発表時期はP7の公式サイトでお知らせします、その後、コミュニケを各国政府に向けて提出しますとアナウンスされました。

 その後、記者との質疑応答がありました。かいつまんでお伝えします。
 コミュニケは、大きな方針としては、ゼロドラフトと大きく変わらないということ、特に差別禁止法、婚姻平等、法的性別認定における自己決定という3つの法制度についてはドラフトを強化し、各国のリーダーたちが、自国の外においても政治的・経済的な支援、リーダーシップをとるように求める内容になるとのことです。
 コミュニケでは日本を名指しする予定はなく、それは、LGBTQの諸課題は日本だけでなく各国等しく負うものだからです。3つの法制度すべてが達成されていない国は日本だけなので、事実上、日本だけが義務違反を犯しているということは読めばわかるようになっているそうです。
 また、ホスト国がリーダーシップをとって、LGBTQイシューを推進しよう、という内容も入るそうです。
 法整備についての政権与党の態度に対する受け止めは?との質問に対しては、日本での法整備の遅れは政権与党が責任を負っているという声がプライド7参加者に一貫しているとの答えでした。
 さらに、海外から来られた方が、日本の法整備の遅れについてどういう印象をお持ちか聞いてもよいですか?との質問に対し、2012年6月のプライド月間にオバマ政権から日本に派遣され、同性カップルの平等は人権の中の重要な理念のひとつだと報道陣に語った米団体「Council for Global Equality」のマーク・ブロムリー氏は、「日本がその法案を議論している理解増進法は、LGBTQを守る法整備としては不十分です。LGBTQに対する取組みの第一歩なのでしょうが、“第一歩”でしかありません」と指摘していました。英「ストーンウォール」のロビー・デ・サントス氏は、「理解増進法案の重要な部分は、差別は許されないという文言です。安全に働き、学校に行けることを担保しています。必須です」とコメント、また、タイ「APCOM」のミッドナイト・プーンカセットワッターナ氏は、「私自身当事者で、法の保護は非常に大切だと感じます。自分らしさを追求し、社会にも示すことができます」とコメントしました。

 最後に、LGBT法連合会代表理事の林夏生先生(富山大准教授)が閉会の挨拶をしました。
「今回の文章は、今日で完成するものではなく、議論を続け、4月中を目指してつくります。それもすべて、今日限られた時間のなかで、濃密で慎重な議論ができたからこそ。会うのは今日が初めてであっても、ここまで様々なものを共有できました。
 共有できているその一つは価値です。G7諸国は自由・民主主義・人権・法の支配という共通の価値で強く結びついています。
 第二は痛みだと思う。私たちは、どんな人を好きになるか、自分が何者であるか、どんな見た目であるかということで疎外され、無視され、攻撃されることがどんなにつらいかよく知っています。だからこそ、誰も取り残さないように練り上げ、世に問うていきたい。
 もうひとつは力です。これまで世界のどこかの国で、差別禁止法や同性婚、非人道的要件のない性別変更が実現したという前向きな動きあれば、後に続く国への勇気となり、力の源となってきました。
 プライド7の歴史は始まったばかりです。これが始まるというニュースを聞いただけで、すごくエンパワーされたという声も上がっています。私自身も大いにエンパワーされました。
 ですから、どうか、今日で終えるのでではなく、近くの方に、P7が始まったよということを知らせてあげてください。そうやって私たちが共に持つ力を広げていくことが、G7のリーダーたちに私たちの声が届くよう、後押しします。
 次のP7でお目にかかれるのを楽しみにしています」
 
 おそらくは英語通訳の方のことを慮っているのでしょう、丁寧にゆっくりと紡がれた林先生の言葉は、日本のLGBTQコミュニティの知性や理性、気高さや奥ゆかしさが結晶したかのような、感動的ですらある名スピーチでした。
 こうして5時間超に及ぶP7サミットは、満場の拍手で幕を閉じました。

 
 林先生もおっしゃっていたように、G7各国首脳にLGBTQイシューについての政策提言(コミュニケ)を届けるPride7というサミットが日本で初めて開催され、おそらくはあまり準備期間もなかったでしょうが、海外のLGBTQ団体の方たちも駆けつけて、たとえ会うのが初めてであったとしても、同じ価値観や痛みを分かち合い、よりよいコミュニケを作り上げるために協働した、その様子を日本のLGBTQコミュニティの方たちもオンラインで見守っていたということ自体が本当に感動的で、エンパワーされるものがありました。日本でも早くLGBTQを守るための法整備を!という願いが、会場いっぱいに満ちて、共鳴しあっていたように感じます。
 劇場版SATCで「ゲイパワーが高まるとライザ・ミネリが生まれるのよ」という名ゼリフがありましたが、あのLGBTQコミュニティのパワーが頂点まで高まっていたP7サミットの会場にもきっと、私たちを見守る神様のような何かが生まれていたに違いありません。奇跡が起こることを期待します。
 

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