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リル・ナズ・Xが、LGBTQユースの自殺防止に取り組む団体から表彰されました

 リル・ナズ・Xが、LGBTQユースの自殺防止に取り組む団体「トレヴァー・プロジェクト(The Trevor Project)」が新たに設立した「Suicide Prevention Advocate of the Year Award(自殺防止提唱オブ・ザ・イヤー)」の第1回受賞者となりました。 
 

 1998年に設立されたトレヴァー・プロジェクトは、LGBTQの自殺を防ぐための24時間ホットラインを運営したり、「LGBTQの若者のメンタルヘルスに関する全国調査」を実施したり、LGBTQのためのネットワーキングサイト「TrevorSpace」を運営したり、チャリティイベントを開催したりしている、世界で最も有名なLGBTQユース支援団体の一つです。
 記念すべき新しい賞の第1回受賞者としてリル・ナズ・Xを選んだ理由について、トレヴァー・プロジェクトは「自身のセクシュアリティの葛藤や過去に自殺願望を抱いていたことをオープンにしていること、メンタルヘルスの問題について継続して声をあげていること、そしてクィアとしてのアイデンティティを悪びれずに祝福していること」と述べています。
 トレヴァー・プロジェクトのアミット・ペイリーCEO兼エグゼクティブ・ディレクターは声明で、「自己受容と自己表現を求める彼の繊細さは、メンタルヘルスやセクシャルなアイデンティティに関する率直な会話の空間を創り出し、LGBTQの若者たちに独りではないということを示しました」と語っています。

 リル・ナズ・Xは今回の受賞を受けて次のようにコメントを寄せています。
「セクシュアリティやジェンダー・アイデンティティをめぐる偏見は未だに現実としてあり、私たちのコミュニティには、サポートを受けていると実感し、自分らしくあることへの完全な自由を得る権利があります。私はよく、鬱や自殺願望に悩まされているというファンからメッセージをもらうのですが、(自分の声は)自分自身よりも大きい何かなのだということを実感します。もしも私の声や、音楽を通じての自己表現が孤独を感じている一人の子どもを助けているのだとしたら、それだけで価値があると言えます」

 
 
 もしかしたら、リル・ナズ・XはLGBTQ団体から表彰されるほど立派なのか?と疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。「MONTERO (Call Me By Your Name)」のMVではサタン崇拝とも受け取れるような表現をして物議を醸しましたし、BET Awards 2021で披露したパフォーマンスでは男性ダンサーとキスして見せましたし、「INDUSTRY BABY」のMVでは全裸でダンスするシーンを盛り込んだりしていて、彼はわざとセンセーショナルで挑発的なことをして話題作りにつなげようとしている(注目を浴びて売れようとしている)のではないかと見る向きもあるでしょう。
 「MONTERO (Call Me By Your Name)」のMVが「同性愛者は地獄に堕ちる」と断罪してきたキリスト教への批判であることはこちらでご紹介している通りですが、「INDUSTRY BABY」については、the fashion postの記事「today's study:lil nas x - industry baby」で素晴らしく的確に分析されています。「INDUSTRY BABY」の序章として発表された「INDUSTRY BABY (Prelude)」のMVで、検察官に「お前はゲイか?」と追及されてリルナズが「そうです」と答えると、「モンテロ州立刑務所」での懲役刑が言い渡され、「INDUSTRY BABY」での刑務所の映像へとつながります。この序章での裁判のシーンは、かつて黒人が、黒人であるがゆえに裁判で有罪判決を受け、その場で撲殺されたり、遺体が木に吊るされたり(ビリー・ホリデイが「奇妙な果実」で歌ったことです)というおぞましい経験をしてきたが、全く同じことを(黒人も)ゲイにしているではないかという告発です。しかし、刑務所というのは(なかにはレイプなどの性暴力もあるものの)同性間のセックスがバンバン行なわれている場所であり、ゲイにとってはある種の「天国」でもあるわけで、「INDUSTRY BABY」のMVではリルナズが他のゲイたちと一緒に刑務所をセクシャルな楽園と見立てて生き抜くという物語が描かれたのでした。
「「ゲイである」ということによって刑務所に入れられるも、「ゲイである」ことによって刑務所の環境を楽園として生き抜くリル・ナズ・X の姿は、自分が黒人でありゲイであることを誇りに思う彼の力強い態度表明と見ることができます」
「黒人でありさらに同性愛者である境遇は、映画『ムーンライト』でも描かれているような被差別者としての二重の困難といえます。黒人も同性愛者は、いずれも長く、無根拠に「サタン/悪魔」と結びつけられてきました。黒人を悪魔と同一視する考え方や、ゲイを治療するための悪魔祓いは残念ながら現代にも残っています。その考え方を仮に引用するならば、彼は最も悪魔的な存在となるわけですが、しかし、その彼こそが、音楽業界を浄化する存在なのかも?と思われてなりません」

 考えてみれば、デビュー曲の「Old Town Road」が、白人のものと思われていたカントリーと、黒人のものと思われていたラップの融合であり、最も人種のカラーが色濃く根づいていた音楽ジャンルの垣根を取り払い、音楽業界に一石を投じたことで、リル・ナズ・Xは時代の寵児となったのでした。そして彼は、「Old Town Road」が大ヒットを記録している人気絶頂のさなか、ゲイであることをカムアウトしたのです(カントリーもHIP HOPも、そのファン層は最もゲイ嫌いな人たちが多いジャンルですから、その勇気たるや…どれほど称えても称えきれません)
 世界に(LGBTQコミュニティにも)大きな影響を与えたBlack Lives Matter運動が、アリシア・ガーザやパトリッセ・カラーというクィア女性によって立ち上げられた、男性中心主義的だった黒人解放運動のパラダイムシフトであったのと似て、リル・ナズ・XはZ世代らしいセンスで黒人カルチャーとゲイカルチャーを融合しつつ、白人/黒人、異性愛/同性愛、聖/俗といった対立軸をポップに脱構築し、音楽業界のパラダイムシフトに挑んできた存在だと言えるのではないでしょうか。
 同時に彼は、「SUN GOES DOWN」で10代の頃の苦悩、孤独感、鬱、自殺願望を赤裸々に表現して、多くのLGBTQや鬱などで苦しむ方たちの共感を呼びました。アフリカ系のLGBTQ(アフリカで難民になっている方たちなど)にとって「希望の星」的な存在にもなっています。
 言ってみれば、サタンに扮したりもする「天使」であり、ある人にとっては「救世主」でもあるのです。
 
 リルナズが身の危険を感じてセキュリティを雇うはめになったほど狂信的なクリスチャンたちを怒らせた「MONTERO (Call Me By Your Name)」のMVが、9月12日(現地時間)開催の「MTV Video Music Awards(VMA)」において(ビデオ・オブ・ザ・イヤーなどと同時に)ビデオ・フォー・グッド賞にノミネートされていることも象徴的です。この賞はその名の通り、社会を良くすることに貢献したMVに贈られる賞で(栄えある第1回(2019年)はテイラー・スウィフトの「You Need To Calm Down」が受賞しています)、リルナズの意図がグッド(善)であると認められたのです。
 リルナズはVMAのステージでライブを披露することも決まっています。どんなパフォーマンスを見せてくれるか、楽しみですね(日本では9月19日(日)20時〜MTVにて独占放送)
 


 なお、リル・ナズ・Xは待望のデビューアルバム『Montero』を9月17日にリリースします。エルトン・ジョンやマイリー・サイラスらとコラボした楽曲も収められます(エルトンとのコラボ曲「One of Me」は、エルトンのニューアルバムにも収録されます)



参考記事:
リル・ナズ・X、LGBTQ+の自殺防止に取り組む団体から表彰(フロントロウ)
https://front-row.jp/_ct/17478165


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