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米教育省、学校でのトランスジェンダー生徒のスポーツ参加を支援する方針を発表

2021年06月18日

 米バイデン政権のミゲル・カルドナ教育長官は16日、学校での性差別禁止を定めた法律が、性自認や性的指向による差別の禁止にも適用されるとの方針を示しました。これにより(すでにいくつもの州で排除されている)トランスジェンダーの生徒たちが自認性に基づいてスポーツに参加したりトイレを使用したりすることが保障されることになります。
 
 昨年6月、米連邦最高裁が公民権法をLGBTQに適用し、性的指向・性自認に基づく解雇を違法であると認める歴史的な判決を下しましたが、今回の判断は、この最高裁判例に基づき、雇用分野だけでなく教育分野にも適用するものです。
 
 この判断がいかに歴史的で画期的で素晴らしいものであるかということを理解していただくために、2016年以降先鋭化したトランスジェンダー排除の動きについてお伝えします。
 ドキュメンタリー映画『最も危険な年』でも語られていたように、2015年6月にアメリカ全土で結婚の平等(同性婚)が認められると、それまで「伝統的な家族観と相容れない」などとして同性婚実現を強硬に阻止しようとしていたアンチLGBTQ(主として宗教保守)の人たちは、矛先をトランスジェンダーに変え、攻撃を始めました。
 オバマ大統領は公立学校でトランスジェンダー学生が自認性に基づくトイレや更衣室の使用を認めるよう求める通達を出していましたが、2017年1月に就任したトランプ大統領はすぐに(2月に)これを撤回し、7月にはトランスジェンダーの従軍を禁止すると述べ、2018年10月には性別変更を禁じる法案を準備していることが明らかになり、以降、医療保険制度の性差別禁止条項からのトランスジェンダーの排除(医師が堂々と差別できるようになる改悪)を進めるとともに、トランス女性の選手が学生の女子競技に参加することは女性の活躍の機会を奪うことになる(「教育機関における性差別を禁止した法律(通称タイトルナイン)」に違反する)との見解を示していました。トランスジェンダーへの直接的な暴力も激化し、2020年には40名超が殺害され、史上最悪となっていましたh。
 トランプ政権下でトランスジェンダーへの差別や暴力、排除が激化した流れのなかで、2019年、複数の州で、トランス女性の生徒が女子として競技に参加することを禁じる法案が可決され、現在、保守派の共和党議員が実権を握る州を中心に全50州のうち31州で、このようなトランス排除法案が可決または議論されているという深刻な状況です(フロントロウ「トランスジェンダーの学生の女子スポーツ参加議論が過熱するアメリカ、大人に批判集まる理由とは?【解説】」より)
 アンチ派がたびたび槍玉にあげるのが、2017年に開催されたコネチカット州の陸上大会でトランス女子生徒が1位2位を獲得したというケースです(山谷議員の発言もこのケースを指していたのではないでしょうか)。複数のシスジェンダー女子生徒が自分たちの入賞や奨学金の機会が奪われているとして裁判を起こしたのですが、結局、被害の事実が示せなかったとして訴えは棄却されています。なお、提訴の数日後に行なわれたレースでは、提訴したシスジェンダーの生徒の1人がトランスジェンダーの生徒の1人に勝利しています。
 現時点で、トランスジェンダーの生徒の女子スポーツ参加を全面禁止すべき理由を示した科学的データは1つもありません。
 IOCは2016年に「性自認が女性であることの宣言」「出場前1年間はテストステロン値が10nmol/L未満に維持」をクリアしていればトランス女性が女性競技に参加できると決めました(東京五輪が(開催されれば)史上初めてトランス女性選手が参加する輝かしい大会となります)
 国際スポーツ医学連盟は今年3月に発表した声明で、「トランス女性が女子で競技をすることを不平等とする証拠はなく、体格などの外見は性別に関係のない個人の特徴である」と謳っています。
 大阪府立大准教授の熊安貴美江氏は「現在は医学的には男女の境界線は分けられないということが明確になりました。にもかかわらず、近代スポーツは性別の境界線を維持しようとする最後の社会装置かもしれないです」と述べています(西宮市『女性とスポーツ「より速く、より高く、より強く」って何だ!』より)
 
 
 米教育省のミゲル・カルドナ教育長官は16日、雇用におけるLGBTQ差別禁止を命じた昨年の最高裁判決に基づき、「教育機関における性差別を禁止した法律(通称タイトルナイン)」がLGBTQにも適用されるとの見解を発表しました。
「教育省は今日、LGBTQを含むすべての学生が、差別のない学校で学び育つ機会があることを明確にします」 

 バイデン大統領は、史上初めて大統領勝利演説でトランスジェンダーに言及し、トランス女性のレイチェル・レヴィン氏を保健福祉省次官補に指名、そして就任初日に署名したLGBTQ差別禁止の大統領令では「誰であろうと、誰を愛そうと、子どもたちはトイレや更衣室の使用、スポーツについて心配せず学べるようにすべきだ」との見解が示されていました。そして6月1日、プライド月間の始まりに際して発表した声明では、「ある州では、トランスジェンダーの若者をターゲットとする差別的な法を採択しているが、これは私たちの国のすべての人の包摂や自由という価値観に真っ向から対立するものである」と述べられ、トランスジェンダーの保護を力強く訴えました。
 こうしたバイデン政権の全面的なLGBTQ支援の方針を受けて、教育省は、少なくない州で進みつつあるトランス女子生徒排除の動きを食い止めるために、今回のトランスジェンダー擁護声明を発表したのです。
 政府は今後、トランス女子生徒のスポーツへの参加を認めるなどの具体的な指針を示すものとみられており、各州の政府や学校が今後どう対応するかが注目されます。政府は、方針に従わない州や学校に対しては、補助金削減などの対抗措置を取ることができます。

 

参考記事:
Education Department Will Protect Students From Anti-LGBTQ+ Bias(Advocate)
https://www.advocate.com/youth/2021/6/16/education-department-will-protect-students-anti-lgbtq-bias

LGBTの学生も競技参加へ 米国、性差別禁止法を適用(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASP6K424TP6KUHBI007.html

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