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【追悼】90年代からHIV陽性であることをカムアウトして活動してきた偉人、長谷川博史さん

2022年03月07日

 日本HIV陽性者ネットワーク「JaNP+(ジャンププラス)」から、団体の設立者であり現理事の長谷川博史さんが2022年3月7日、亡くなったとのお知らせがありました。享年69歳でした。心よりご冥福をお祈りします。
 なお、お通夜と葬儀告別式は行なわれず、近親者の方々の火葬式のみとなるそうです。
 

私はワタシ over the rainbow」という映画をご覧になった方は、車椅子に座ったドラァグクイーンとして自作の詩をリーディングしていた長谷川さんの姿を憶えていらっしゃることと思います。ゲイ雑誌『バディ』『G-men』『SM-Z』を創刊した編集者であり、HIV/エイズのことがまだタブーに等しかった90年代からHIV陽性であることをカミングアウトし、ゲイ雑誌にHIV/エイズの連載を掲載したり、「Delight」や「ArcH」などでクラブイベントを開催してコミュニティに大切な情報を届け、二丁目のゲイバーの方たちに働きかけて(aktaができる以前に)コンドーム配布のプロジェクトを立ち上げ、HIV陽性者団体「JaNP+」を立ち上げ、当事者として行政のHIV関連施策の委員を務めるなど、数えきれないくらい様々な活動をしてきたレジェンドです。
 2005年には、『熊夫人の告白』という素敵な著書を発表しています。
 また、友人のパートナーがエイズで亡くなるという出来事に直面し、「自分がやってきたことが身近な人に伝わっていなかった」と大きなショックを受け…葬儀に出かけるときの写真を友人の菊池修さんに撮ってもらい、それが『MONSTER』という写真集に収められています。
 2011年の第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で『あの頃、僕らは——いま語られるエイズの記憶』の上映の時のトークショーに出演した長谷川さんは、映画の中でバスハウス(サウナ)の強制閉鎖をめぐってコミュニティ内でも議論になったということに触れて「SEXは尊厳」と語っていらっしゃいました(素晴らしい)
 2017年の『AERA』誌のLGBT大特集にも出演した長谷川さんは、腎機能が悪化して人工透析を受けることになり、病院を探したものの、HIV陽性であることを理由に30~40軒から断られ、死を覚悟…やっと決まった病院で透析を受けに行く予定だった日、内出血で倒れて意識を失い、病院の方が心配して大家さんに連絡し、倒れているところを発見され、一命を取りとめたものの、壊疽の進んだ右足を切断…そして車椅子生活へ、というお話を語っていました。長谷川さんは自分のことを「しくじり先生」だと言い、「僕の失敗を見て学んでほしい。でも、同時に、しくじっても大丈夫だということを伝えなければ」と語っていました。思わず目頭が熱くなる記事でした。
 
 著書『熊夫人の告白』やヨミドクターのロングインタビュー、「出張!akta Talk Show ヒューマン・ライブラリー 長谷川博史さんが語る「HIVとゲイコミュニティ」」をご覧いただけると、長谷川さんのライフヒストリーが生き生きと伝わってきます。
 
 
 ここからは個人的な思いを書かせていただきます。
 何度か書いていますが、私が長谷川さんを初めて見たのは、1997年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で、私はHIV関連の短編集の字幕をボランティアでやっていたのですが、トークゲストで登場した長谷川さんが「今日の映画は最低です」と言い始め、「なんだこのオヤジ、ケンカ売ってるのか?」と思ったのですが、「なぜなら、エイズは死に至る病だという前提だからです」と言って、今はカクテル療法が登場したおかげでHIV陽性者が生き永らえることができるようになったというお話を始め、会場中の観客を惹きつけていました。とても衝撃を受けましたし、そういうことを知らなかった自分を恥ずかしく思いました。その後すぐに、長谷川さんと近しくなり、以来、長谷川さんが主催するクラブイベントに出たり、HIVに関連するあらゆるイベントでお会いして、友達と言うとおこがましいですが、お兄さんというかお姉さんというか…そんな存在でしたし、どれだけたくさんのことを教わったかわかりません。
 出会った当時の長谷川さんは髭熊ガチムチ系で(『G-men』では「ピンクベア」というハンドルネームでした)、さぞかしモテただろうな…と想像される見た目でしたが、糖尿病を患ったおかげでだんだんと痩せていき、2010年代には車椅子の生活に入っていました。
 一時期はビルから飛び降りようかと考えたくらい、精神的に辛い時期もあったそうです。
 長谷川さんほど、波乱万丈というか、天国も地獄も見た方というのはそうそういないだろうと思います。
 
 どなたが、ということは絶対に言いませんが、約20年前、とあるゲイの方が、長谷川さんとハグして、長谷川さんが涙を流しながらその方の背中をよしよしとさすっていた場面をうっかり見てしまったことがありました。おそらく、その方はHIVに感染してることが発覚し、それを長谷川さんに打ち明け…という場面だと悟りました(それ以外にその二人がそういうふうにハグすることはちょっと考えられなかったので)。ほとんどHIV陽性であることをカミングアウトしている方がいなかった時代、長谷川さんはそうやって多くのHIV陽性者を支え、励ましてきたんだな…と思いました。
 
 最後にお会いしたのは、確か3年くらい前。何かのイベントの時に(何だったか思い出せないのですが)お会いした際、「頑張ってるね」と声をかけてくださいました。ちゃんと私の書いた記事を読んでくださっていたこと、とてもうれしかったです。
 コロナ禍の間、たぶんほとんど外出もせず、寂しく過ごしていらっしゃったのでは…と想像し、心が苦しくなります。
 
 
 長谷川さんの詩に「さくら、さくら、さくら…」というフレーズから始まる「さくらさくら/センチメンタルジャーニー」という詩があります。エイズを発症した亡くなっていった友人たちのことを綴った、涙なしには聞けない詩です。そんな長谷川さんが、もう少しで桜が咲きそうなのに、今年の桜を見ることなく逝ってしまわれたことが、とても悲しく感じられます…。


【追記】
 3月7日の夜は、本当にたくさんの方がSNSで長谷川さんとの思い出を語ったり写真を上げたりしていて、まるでみんなで故人を偲ぶ集まり(お通夜)のようでした。Twitterをこんなに熱心に読んだのはひさしぶりだなぁと思ったり。
 亡くなる前夜、長谷川さんはプライドハウス東京の企画で大塚隆史(タック)さんと対談していたそうです。そのお話が最後の活動になったわけですから、記事が出たら心して読まなければという気持ちと、きっと古くからのお友達であるタックさんと楽しくいろいろ語らって、どこか吹っ切れたというか満足したのかもしれないな(よかったですね)…という気持ちにもなりました。
 最期まで精力的に活動し、命を燃やした長谷川さん。本当におつかれさまでした。ありがとうございました。


【長谷川さんにメッセージを届けよう!】
 アクティビストとしてHIV/AIDSコミュニティ、LGBTQコミュニティに多大なる貢献をし、独自の詩の世界をドラァグクイーンとしても表現された長谷川博史さんが、去る3月7日に逝去されました。自らも多くの苦難を乗り越えながら、HIV陽性者や性的マイノリティが直面してきた険しい壁を打ち壊し、多くの人たちを支え、励ましてきた長谷川さん。おしゃべりで、ええカッコしぃで、毒舌だけれどチャーミングな長谷川さん。多くの人に愛を注ぎ、多くの人から愛された長谷川さん。長谷川さん/ヒロシ/ハセコ/ピンクベア/べアリーヌと一緒に、みなさん一人ひとりが紡いできた時間や思いを、旅立った長谷川さんに届けます。
 メッセージをカードにご記入の上、メッセージボードに貼り付けてください。芳名帳にお名前やニックネームだけを記帳いただいても構いません。(※お寄せいただいたお名前とメッセージは今後の企画などで公開する場合があります。あらかじめご了承ください)
 もし、この場所で隣り合う人がいたら、長谷川さんとの思い出を共有して、すこしお話してみませんか? 大切な友人たちがつながっていくことを、長谷川さんはきっと喜ぶにちがいありません。
(メッセージプロジェクト発起人:長谷川さんの「新しい家族」一同)

<メッセージ受付期間と場所>
期間:2022年3月11日(金)〜3月20日(日)
場所:
◆コミュニティセンター akta(東京都新宿区新宿2-15-13第二中江ビル301)
開館時間:木曜、金曜、土曜、日曜の15:00〜21:00
◆総合LGBTQセンター プライドハウス東京レガシー(東京都新宿区新宿1-2-9 JF新宿御苑ビル2階)
開館時間:月曜、火曜、金曜、土曜、日曜の13:00〜19:00

<オンラインでもメッセージと写真を募集中>
 長谷川さんが創設者となったJaNP+が追悼メッセージやエピソードなどのテキスト、写真をオンラインで募集しています。Googleアカウントでフォームにログインのうえ、ご投稿ください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfKAb_WvmxV82bt4h4uYrqHFuzjGgXddoZUyYvzgDkN8aI7cw/viewform


【追記】
 ジャンププラスさんが、寄せられたメッセージを集めたメモリアルページを作ってくださいました。ぜひご覧ください。

故・長谷川博史さん 追悼メッセージ&思い出エピソード(JaNP+


 それから、TOKYO AIDS WEEKS 2015の一環として国立国際医療研究センター病院で行なわれたゲイの合唱コンサートで、長谷川さんが『さくらさくら/センチメンタル・ジャーニー』の朗読をした際の動画が公開されました。長谷川さんのポエトリー・リーディングの貴重な記録です。ぜひご覧ください。

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