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ジョージ・マイケルの伝記映画の企画が浮上していますが、またしてもストレートの俳優がゲイ役を演じるのかという批判の声も上がっています

2023年01月20日

 昨年7月、ジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』が上映され、話題を呼びましたが、今度は、『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』、『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』のような伝記映画の製作の話が持ち上がっているそうです。それ自体は本当にエキサイティングで、ぜひ観てみたい!と思う方も世界中にたくさんいるでしょうが、またしてもストレートの俳優が主役を演じるのか、との批判の声が上がっています。
 
 
 ワム!の後、ソロシンガーとしてもの成功を収め、30年超にわたるキャリアでの通算売上枚数が1億2000万枚を超え、2012年ロンドン五輪の閉会式にも出演するなどした英国のスーパースター、ジョージ・マイケル。世界のスターダムにのし上がっただけでなく、音楽界の常識やルールを覆すべく自由を求めて闘い、ゲイとして真実の愛を希求し、苦悩・葛藤した人物でもありました。『ボヘミアン・ラプソディ』や『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』のように、ライブのシーンをメインに据えた音楽エンターテイメントとしての伝記映画を製作したら、きっと大ヒットすることでしょう。
 そんなジョージの伝記映画の主演として白羽の矢が立っているのは、ドラマ『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』のテオ・ジェームズだそう(確かにジョージによく似てる…)。まだ正式決定ではないものの、関係者が「脚本は最終段階に入っていて、プロデューサーは主役を探しているところです。テオの名前は誰もが口にしています。彼はこの役にぴったりでしょう。これはジョージの物語です。全てを含めてね」と、テオが最有力候補として挙げられていると明かしたそうです。
 そのニュースを『Advocate』がインスタグラムにアップしたところ、アダム・ランバートが「またストレートの人がゲイのアイコンを演じるんですね。やったー」と皮肉交じりにコメントしました。同じゲイのシンガーとしてジョージをリスペクトしているアダムは、フレディ・マーキュリーやエルトン・ジョンの役もストレートの俳優が演じてきて、ジョージ・マイケルの伝記映画でまたしてもストレートの俳優が主役を演じるというニュースに対して、このようにコメントしたのだと見られます。

 LGBTQの役をシスジェンダー・ストレートの俳優が演じることに対して、ハリウッドでは、リプレゼンテーションの観点から、特にトランスジェンダーの役はトランスジェンダー俳優が演じるべきだとの共通認識になっており(その過程で『POSE』という名作ドラマが誕生しました)、また、シスジェンダー・ストレートの俳優がLGBTQの俳優のチャンスを奪ってしまっていることも「ストレート・ウォッシング」だとして問題視されるようになっています。また、アカデミー賞が人種/民族的マイノリティ、女性、LGBTQ、障がい者などの多様性に配慮した作品賞応募資格の新基準を発表したように、映画界では、製作にマイノリティが関わらない(異性愛白人男性ばかりで固められる)ような作品は認められなくなりつつあります。

 LGBの役をストレートが演じることについて、俳優の間でもさまざまな意見・考えがあるようです。
 これまで『glee/グリー』でゲイのブレインの役を演じて世界をトリコにし、『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』で男娼のアンドリュー・クナナン(主人公)を演じてエミー賞主演男優賞を受賞するなど、ゲイの役で売れっ子になり、評価もされてきたダレン・クリスは2018年、「ストレートである僕が本来は同性愛の男性が演じるべき役を奪ってしまうのは、もうやめにしたいんです」と語り、もうゲイの役はやらないと宣言しました(詳細はこちら

 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でアラン・チューリングを演じ、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でゲイのカウボーイの役を演じたベネディクト・カンバーバッチは、「リプレゼンテーション、多様性、包括性についてはすごく気をつかっている」とヴェネチア国際映画祭でコメントしています。「何も考えずに役を引き受けたわけではない。『私たちのダンスカード※は公開されなければならないのだろうか』という気持ちも少しあります。私たちの性の歴史におけるプライベートな瞬間をすべて説明しなければならないのだろうか?私はそうは思わないです」と、俳優の性的指向は必ずしも明かされるべきではないのではないかという考えも示しています。
 昨年、『ハートストッパー』に出演したキット・コナーが、一部のファンの執拗な性的指向の詮索に堪えかねてバイセクシュアルであることを半ば強制的にカミングアウトさせられるという出来事がありました。たとえどんなに影響力のある役を演じたとしても、俳優が自身の性的指向を明かさなければいけないということはなく、プライバシーは守られなくてはいけません。そう考えると、カンバーバッチの言うことはもっともで、ゲイ役を演じたからといってその俳優がカミングアウトを強制させられるいわれはなく、また、ストレートだと嘘をついたり強調したりする必要もありません。俳優が有名人だからといってセクシュアリティについて明示しなくてもやっていける、語らずにいられるような環境が守られてよいはずです。
 
※舞踏会においてダンスごとに踊る相手の予定をメモしておくカード。ここでは、性的な関係を結ぶ相手という意味

 女性と交際しているクリステン・スチュワートは、「コミュニティの物語を伝えようとしている時に、そのコミュニティから歓迎されていないのだとしたら、身を引きなさいということ」と語っています。

 『ボヘミアン・ラプソディ』ではフレディ・マーキュリーによく似たラミ・マレックが素晴らしい演技を見せ、アカデミー主演男優賞に輝きましたし、『ロケットマン』のタロン・エジャトンや、『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』のナオミ・アッキーも、本人にできるだけ近い見た目+実力派の俳優として起用されたのだとわかりますし、納得の演技でした(ちなみにアダム・ランバートは以前、ジョージ・マイケルの役をやりたいと語っていたそうですが、いかんせん俳優としては主役を張るほどのキャリアはないですよね…)
 近い将来、欧米では、もっとたくさんカミングアウトした俳優が活躍するようになり(楽にカミングアウトできるようになり)、あらゆるジャンルの映画やドラマでLGBの役を当事者が演じられるようになることでしょう。そういう時代がすぐそこまで来ているのではないでしょうか。 
 
  
 ちなみに今回のジョージの自伝映画のことは、ジョージの遺族は認めていないそうです。
「ジョージの愛するファン、そして彼の音楽を愛するすべての皆さん、ジョージ・マイケルの家族が彼の人生についてのいわゆる伝記映画を支持したとする記事が掲載されました。ジョージの家族とGMEを代表して、この話には何の真実もなく、私たちはこのプロジェクトについて何も知らず、いかなる形でも支持しないことを明確にしたいと思います」とオフィシャルサイトで声明を出しています。
 
 

参考記事:
ジョージ・マイケルをストレートの俳優が演じることにゲイシンガーから批判(フロントロウ )
https://front-row.jp/_ct/17600873

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