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G6とEUの7人の大使が連名でLGBTQの人権を守る法整備を促す書簡を岸田首相宛てに送りました

2023年03月16日

 3月16日、日本を除く先進7ヵ国(米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)と欧州連合(EU)の駐日大使が連名で、LGBTQの権利を守る法整備を促す岸田文雄首相宛ての書簡を取りまとめていたことがわかりました。荒井元秘書官の差別発言をきっかけにラーム・エマニュエル米駐日大使※が主導したそうです。
 
※ラーム・エマニュエル氏は、クリントン政権の大統領上級顧問を経て2003~2009年に下院議員をつとめ、2009〜2010年にはオバマ前大統領の首席補佐官となり、2011〜2019年にはシカゴ市長をつとめました。米国でLGBTQの権利保障がどのように実現してきたかを見届けてきた方であり、シカゴ市長として同性パートナーを持つ市職員や公務員の待遇の平等化を実現し、イリノイ州での同性婚実現につなげた方です。大使として日本に来られてからは、昨年の東京レインボープライドに参加し、「誰もが結婚の自由と平等を達成できるまで共に歩み続けよう」と語ったほか、東京都での「パートナーシップ宣誓制度」スタートに「平等への大きな一歩です」と祝辞を寄せたり、「work with Pride 2022」に登壇したり、名古屋市が制度を導入した際には「日本はG7で唯一、婚姻の平等を認めていない。政府に声を届けよう」とコメントするなど、たいへん活発にコミットしてくださっています。
 
 書簡は2月17日付で、「プライベートレター(私信)」の扱いですが、G6とEUの7人の大使が署名しました。
 東京新聞によると、書簡の内容は、日本でLGBTQの権利を守る法整備が遅れていることを念頭に「議長国の日本は全ての人に平等な権利をもたらすまたとない機会に恵まれている」「国際社会の動きに足並みをそろえることができる」と述べるもので、元首相秘書官の差別発言には直接言及していないものの、「LGBTQへの等しい権利を求める日本の世論が高まっているだけでなく、差別から当事者を守ることは経済成長や安全保障、家族の結束にも寄与する」と、ジェンダー平等をめぐって「全ての人が差別や暴力から守られるべきだ」と明記した昨年のG7サミットの最終成果文書に日本が署名したことにも触れ、「日本とともに人々が性的指向や性自認にかかわらず差別から解放されることを確かなものにしたい」と訴えていました。
 東京新聞は、「米国では、同盟関係の基盤は人権や民主主義といった「共通の価値観」の上にあるとの考えが強い。同盟国の日本がG7で唯一、LGBTQの差別禁止法を持たず、同性婚も認めていないことに対する不満は、エマニュエル氏の言動に表れている」と指摘し、LGBTQの人権促進を担当するジェシカ・スターン特使の「同盟国として、差別禁止を実現するための協力を惜しまない」とのコメントや、マーク・タカノ米下院議員の「日米は同盟を動機づける共通の価値観を忘れてはならない。LGBTQの権利に敵対的なのは専制主義者だ」とのツイート、英国のロングボトム駐日大使が長女が同性婚したことに触れて「LGBTQの権利保護の早期実現で日本に協力したい」と語ったことなども紹介しながら、「各国から厳しい目が注がれている」とまとめました。
 
 関係者によると、大使らは当初、公式な声明を出すことを検討しましたが、内政干渉と受け取られることを懸念し、非公式に各国の意向を示すことにしたそうです。
 書簡のとりまとめに先立ち、エマニュエル氏は2月15日に日本記者クラブで会見し「(LGBTQの)理解増進だけでなく、差別に対して明確に、必要な措置を講じる」ことを首相や国会に注文しました。
 岸田総理は2月17日、当事者団体の代表者らと面会し、多様性が尊重される社会の実現に努力する考えを表明、党にはGBT理解増進法案の国会提出に向けた準備を進めるよう指示しましたが、党内論議は始まっていません。
 東京新聞は、「理解増進法案は、差別禁止規定がない理念中心の内容。当事者らは「差別している側に理解させるための法律はおかしい」と禁止規定の法制化を求めているが、その前段階の議論さえ止まっているのが実情だ」「各種世論調査では同性婚への賛成が多数派となっており、公明党や野党はサミット前の理解増進法案の成立を求めている。このままサミットを迎えれば、日本の違いだけが際立つ可能性もある」と指摘しています。
 
 16日夕方には、松野博一官房長官が記者会見で、G6とEUの7人の大使が署名したLGBTQの人権を守る法整備を促す書簡を受け取ったかどうかについて「G7各国とは日頃からさまざまなやりとりをしているが、その一つ一つを明らかにすることは差し控える」と述べ、明言を避けたことが報じられました。松野氏は「多様性が尊重され、全ての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向け、さまざまな国民の声を受け止め、しっかりと取り組む」「G7議長を務める日本政府として、こうしたことを国の内外に丁寧に説明する努力を続けたい」と話しました。
 LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は会見で「先進国から先進国に書簡が出ることは、極めて異例と聞く。政府は重く受け止めてもらいたい」と訴えました。そして、外務省が公式サイトで「人権は普遍的価値であり、各国の人権状況は国際社会の正当な関心事項で、内政干渉と捉えるべきではない」との見解を示していることにも触れて「当事者団体だけでなく各国政府、経済団体も(日本の法整備に)関心を持っている。連帯を深めていきたい」と語りました。 
 
 G6とEUからこのように極めて異例な書簡(事実上の声明)が出されてもなお、政府はLGBTQの権利を守る法整備に着手しないのでしょうか。総理は荒井秘書官の差別発言についてG7で謝罪することも拒み、小倉将信男女共同参画・女性活躍担当大臣は(当事者団体や経済界の要望を聞き入れいず)LGBTQに関する取組みを独立した議題としない旨を表明しています。このままLGBTQについて何も取り組まないままG7サミットを迎えたら、日本が人権や民主主義という(共有しているはずの)価値観をないがしろにしていると見なされるのではないでしょうか。法整備はもはや「待ったなし」だと言えます。
 
【追記】2023.3.20
 LGBT法連合会がこの件を受けて「「G6」と欧州連合の駐日大使による書簡についての報道を受けて」と題する声明を発表しました。

「2023年3月16日、G7の日本以外の各国および欧州連合(EU)駐日大使により、性的マイノリティを法的に差別から保護する法整備を促す書簡の存在が報じられた。同報道には「結果的に受け取っていない」との政府高官の声が掲載されていたものの、3月16日に松野官房長官は「明らかにすることを差し控える」と述べたと報じられたほか、3月17日の参議院外交防衛委員会でも、林外務大臣が、受け取ったかは明らかにしないとの方針を答弁した。書簡の趣旨は、この間の国際社会、海外の要人らによるメッセージと同じである。書簡の現在の状況はどうあれ、複数の外交筋が書簡の存在自体は認めているとの報道、さらに「先進国」から「先進国」への書簡が極めて異例であることにも鑑み、日本政府が、国際社会のメッセージを重く受け止め、対応すべき局面を迎えていることは、疑いようもないと当会は強く指摘する。
 前首相秘書官の差別発言に関連したインタビュー記事の中で、アメリカのジェシカ・スターン特使は、当事者が世界中で差別や暴力を受けていると指摘した上で、「コミュニティーの一部が疎外され、排除されるときはいつだって、私たち全員が傷つくのです。」と述べている。加えて、アメリカ議会の性的マイノリティに関する議員連盟の共同議長であるマーク・タカノ議員は、インタビュー記事の中で前秘書官の発言を「言語道断であり恥ずべき発言」であると述べている。加えて同議員は、秘書官が更迭されても解雇されたわけではなく、将来の政権で働くことができると指摘している。書簡を送った駐日大使の一人が、親族に当事者がいると明らかにしていたことも過日報じられていたが、各国政府の要人本人、もしくはその身近な人びとにおける当事者の存在を看過することは大きな国際問題につながるものである。前秘書官の差別発言について、日本政府が国際社会へ何もメッセージを発していないことへの厳しい視線は、今も注がれ続けていることを指摘する。
 この間、ラーム・エマニュエル駐日アメリカ大使やスターン特使は、インタビューや記者会見を通じて、日本の性的指向・性自認に関する法整備が、明確に反差別を規定し、差別からの法的保護を保障するものであるべきとのメッセージを発してきている。他の駐日大使からも、ここ数年、折に触れてこのようなメッセージは発せられ続けてきた。日本の外務省のWebサイトに記載のあるように、国際社会からの各国の人権状況への関心は、内政干渉と捉えるべきものではなく、かつ、「文化や伝統、政治経済体制、社会経済的発展段階の如何にかかわらず、人権は尊重されるべきものであり、その擁護は全ての国家の最も基本的な責務であること」とされている。まして日本政府は、G7の一員として、基本的価値観の共有が求められる立場であり、対応の遅れは釈明のしようのないものとなりつつある。
 当会は、2015年の発足以来、国内の当事者の状況について繰り返し愚直に訴え、法整備の必要性を強調し続けてきたが、この間、国際社会からの声が相次いでいることを受け、改めてその意を強くするものである。G7開催までに、国際社会の一員として、またG7の一員として、課せられた最低限の責務としての、差別の禁止を含む法整備の必要性を、当会は最大限に強調し、その成立に向けて全力で取り組む所存である」
 

参考記事:
日本除いた「G6」からLGBTQの人権守る法整備を促す書簡 首相宛てに駐日大使連名 サミット議長国へ厳しい目(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/238238
G7議長国へ各国のいら立ちが形に…LGBTQの差別禁止に動きが鈍い日本と岸田首相 駐日大使の連名書簡(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/238246
「明らかにすることは差し控える」と官房長官 「G6」からLGBTQの人権守る法整備を促す書簡(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/238441

【声明】「G6」と欧州連合の駐日大使による書簡についての報道を受けて(LGBT法連合会)
https://lgbtetc.jp/news/2867/

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